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@lawyer.hiramatsu

マンション管理(区分所有法):共用部分である旨の登記のない規約共用部分について

 2024年2月18日付けの記事においては、敷地権である旨の登記のない規約敷地について検討しました。

 今回は、共用部分である旨の登記のない規約共用部分について、以下のような設例をもとに検討します。

 私(X)は、マンションの一室(「本件建物」といいます。)を不動産競売による売却を原因として取得しました。その取得により、マンションの共用部分(規約共用部分を含む。)の持分一切についても取得したと思っていました。
 数か月後、規約により共用部分とされていた地下駐車場(「本件駐車場」といいます。)の持分について、競売申立書の目的不動産に記載されておらず(なお、競売申立人の認識としては、規約共用部分の持分も当然に競売対象に含まれていると考えていたようです。)、本件駐車場の持分については前の区分所有者Yさん名義のまま(つまり競売事件の債務者名義のまま)となっていることが判明しました。
 本件駐車場はもともと専有部分として登記されており、原始規約の時点から規約共用部分とされていましたが、共用部分である旨の登記(不動産登記法58条【※1】)がなされていなかったことから今回のような事態が生じました。
 本件駐車場の持分に関し、私はYさんに連絡してみましたが、Yさんは私との協議を拒んでいます。
 私は、本件駐車場の持分を私名義にするための裁判を起こしたいのですが、可能でしょうか。

 【※1】不動産登記法58条

(共用部分である旨の登記等)
第58条 共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記に係る建物の表示に関する登記の登記事項は、第27条各号(第三号を除く。)及び第44条第1項各号(第六号を除く。)に掲げるもののほか、次のとおりとする。
 一 共用部分である旨の登記にあっては、当該共用部分である建物が当該建物の属する一棟の建物以外の一棟の建物に属する建物の区分所有者の共用に供されるものであるときは、その旨
 二 団地共用部分である旨の登記にあっては、当該団地共用部分を共用すべき者の所有する建物(当該建物が区分建物であるときは、当該建物が属する一棟の建物)
2 共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記は、当該共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記をする建物の表題部所有者又は所有権の登記名義人以外の者は、申請することができない。
3 共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記は、当該共用部分又は団地共用部分である建物に所有権等の登記以外の権利に関する登記があるときは、当該権利に関する登記に係る権利の登記名義人(当該権利に関する登記が抵当権の登記である場合において、抵当証券が発行されているときは、当該抵当証券の所持人又は裏書人を含む。)の承諾があるとき(当該権利を目的とする第三者の権利に関する登記がある場合にあっては、当該第三者の承諾を得たときに限る。)でなければ、申請することができない。
4 登記官は、共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記をするときは、職権で、当該建物について表題部所有者の登記又は権利に関する登記を抹消しなければならない。
5 第1項各号に掲げる登記事項についての変更の登記又は更正の登記は、当該共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記がある建物の所有者以外の者は、申請することができない。
6 共用部分である旨の登記又は団地共用部分である旨の登記がある建物について共用部分である旨又は団地共用部分である旨を定めた規約を廃止した場合には、当該建物の所有者は、当該規約の廃止の日から一月以内に、当該建物の表題登記を申請しなければならない。
7 前項の規約を廃止した後に当該建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、当該建物の表題登記を申請しなければならない。

■ はじめに


 上記設例における本件建物の所有権は、「Yさん」から「Xさん」に移転しています。

 本件駐車場は、規約共用部分すなわち区分所有法4条2項【※2】の規定に基づき「規約により共用部分」(以下「規約共用部分」といいます。)とされた建物の部分(区分所有法1条【※3】)に該当します。なお、不動産登記法上の用語としては区分建物【※4】に該当します。

 そのような前提で、Xさんが取り得る法的手段について検討してみます。


 【※2】区分所有法4条

(共用部分)
第4条 数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする。
2 第1条に規定する建物の部分及び附属の建物は、規約により共用部分とすることができる。この場合には、その旨の登記をしなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。

 【※3】区分所有法1条

(建物の区分所有)
第1条 一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。

 【※4】不動産登記法2条22号

(定義)
第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(略)
二十二 区分建物 一棟の建物の構造上区分された部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものであって、建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号。以下「区分所有法」という。)第2条第3項に規定する専有部分であるもの(区分所有法第4条第2項の規定により共用部分とされたものを含む。)をいう。
(略)

■ 本件駐車場(規約共用部分)の共有持分について


 本件駐車場が有効に規約共用部分となっているのであれば、本来、共用部分に対する共有者の持分は、その有する専有部分の処分に従います(区分所有法15条【※5】)。

 共用部分の共有持分は、その区分所有者の専有部分と不可分の関係にあるといえますので、原則として、区分所有者は、その有する専有部分と分離して共用部分の持分を処分することはできません。


 【※5】区分所有法15条

(共用部分の持分の処分)
第15条 共有者の持分は、その有する専有部分の処分に従う。
2 共有者は、この法律に別段の定めがある場合を除いて、その有する専有部分と分離して持分を処分することができない。

 設例によれば、競売対象に含まれるべき規約共用部分(その持分)が漏れてしまい、その結果、買受人たるXさんはその規約共用部分の持分の移転登記を経ることができなくなっています。

 本件建物については、すでに競売による売却が完了していますので、実体法上、本件建物(専有部分)の所有権はYさんからXさんに移転しているといえます。そして、その専有部分と共用部分共有持分の関係を不可分的に考えると、共用部分共有持分も、本件建物の所有権移転に伴いYさんに移転していると考えることができます。つまり、共用部分共有持分も実体法上YさんからXさんに移転していると考えることができます(ただし、後述する区分所有法4条2項【※2】の対抗の問題には注意が必要です)。


■ 本件のXさんが取り得る裁判上の請求


 もし、本件建物の所有権移転原因が「売買」である場合には、共用部分共有持分移転については当該売買を原因とした持分移転と解することが可能でしょう(売買契約当事者の合理的意思解釈に関しては2024年2月18日付けの記事参照)。

 しかし、競売による売却は、裁判所の手続によって強制的に売却されたものであり、前所有者(債務者)の意思に基づく売買ではありませんので、この共用部分共有持分移転について、XY間の売買を原因とする持分移転と解することができません。

 そこで、このような場合においては、名義人となっている者(つまりYさん)は、真正の所有者(つまりXさん)に対し、その所有権の公示に協力すべき義務を有し、真正の所有者は、所有権に基づき、所有名義人に対し、所有権移転登記の請求をなし得るものと解するべきでしょう(最高裁昭和51年10月8日判決・最高裁昭和34年2月12日判決参照)。

 設例についてみると、共用部分(本件駐車場)の所有権(共有持分)を有するXさんは、登記上の名義人たるYさんに対し、その所有権に基づいて真正な登記名義の回復を原因とする共有持分移転登記手続を求めることができると解するべきでしょう。もっとも、その裁判(訴訟)においては、競売事件の執行裁判所がどのように解釈(評価)していたのか(いわゆる3点セットにどのように記載されていたのか等)も問題になるでしょう。


■ さいごに


 本件駐車場には共用部分である旨の登記(不動産登記法58条【※1】)がなされておりません。

 そのため、区分所有法4条2項【※2】の適用があることには注意が必要です。

 つまり、本件駐車場の共有持分がYさんから第三者に譲渡されてしまうと、Xさんとしては、基本的にその譲渡の無効を第三者に対抗することができなくなります。そうすると、XさんがYさんに対する裁判で勝訴(認容)判決を得ても、Xさんの権利を実現することが難しくなってしまいます。

 そこで、Xさんとしては、権利の実現を保全すべく、本件駐車場の持分について処分禁止の仮処分手続(その旨の登記)を経ておくべきと思われます。

 万一、設例のようなケースが発生した場合、Xさんとしては早めに弁護士に相談(依頼)されたほうがよいと思われます。




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