マンション管理費等滞納トラブル~区分所有法59条競売請求の確定判決に基づく不動産競売申立てについて~
- @lawyer.hiramatsu
- 6月21日
- 読了時間: 9分
マンション管理費等滞納トラブル~管理費等債権回収に向けた法的措置について~では、管理費等回収を目的としたオーソドックスな法的措置について検討しました。
今回は、オーソドックスな法的措置では解決できない場合の措置としての形式競売手続(区分所有法59条競売請求の確定判決に基づく不動産競売申立て)について検討します。
■ はじめに
マンション管理費等の滞納問題に関しては、判決で滞納金(金員)の支払が命じられても債務者がその金員を支払わないケース、あるいは管理組合として債務者が有する財産について強制執行したとしても滞納金を回収できないケースは少なくありません。
そのような場合、最終的な手段として、区分所有権剥奪のための手続、すなわち区分所有法59条による区分所有権の競売請求(以下「59条競売請求」といいます。)を検討することになります。
■ 59条競売請求の目的
マンション管理費等滞納トラブル~管理費等債権回収に向けた法的措置について~で述べた手続は直接的に金銭給付(管理費等債権回収)を目的とした法的措置といえます。
他方、区分所有法59条による区分所有権の競売請求は、共同利益背反行為者の区分所有権を剥奪するための請求であって、直接的には管理費等回収を目的するものではありません。59条競売請求の判決主文としても、「原告は、被告が有する別紙物件目録記載の区分所有権及び敷地利用権について競売を申し立てることができる」旨が言い渡されるにすぎません。
ただし、59条競売請求の判決に基づく競売手続によって出現する買受人(新たな区分所有者)は区分所有法8条の特定承継人に該当するため、管理組合は、その特定承継人に対し前所有者の滞納金の支払を求めることが可能となります。
つまり、管理組合は、間接的に管理費等滞納問題の解決を目的として59条競売請求を選択することになります。
そもそも、マンション管理費等滞納トラブル~管理費等債権回収に向けた法的措置について~で述べた先取特権に基づく担保不動産競売申立てや債務名義に基づく不動産強制競売申立てに関しては民事執行法63条(無剰余取消し)の適用がありますので、多額の抵当権が設定されているような場合(いわゆるオーバーローンとなっている場合)、原則として競売手続が取り消されてしまうことになります。すなわち、競売手続によって買受人(特定承継人)を出現させることができません。
他方、59条競売請求の判決に基づく競売手続においては、原則として民事執行法63条は適用されないと解されています【※1】ので、多額の抵当権が設定されていても競売手続を進行させることは可能といえます。すなわち、競売手続によって買受人を出現させることが可能といえます【※2】。
【※1】
もう少し詳しく述べると、その不動産の買受可能価額で手続費用を弁済することすらできないと認められる場合でない限り、民事執行法63条は適用されない(換言すれば、手続費用との関係でのみ同条が適用される)と解されています。
手続費用との関係では民事執行法63条の適用がありますので、仮に買受可能価額で手続費用を弁済する見込みがない場合は、競売申立人がその不足分を負担することになります。
【※2】
ただし、管理費等滞納金額が当該不動産の客観的価値を大きく上回っているような場合には、買受人は、負(マイナス)の財産を取得することになりますので、通常、そのようなケースで普通の買受申出人が現れることもありません。そのようなケースにおいては、やむを得ず管理組合法人として当該不動産を買い受けるなどして解決を図ることもあります。
■ 59条競売請求の要件
区分所有法の解釈上、59条競売請求の原告となれるのは、その建物(棟)の「管理者」、「集会において指定された区分所有者」、「他の区分所有者の全員」又は「管理組合法人」であると考えられています。
なお、団地関係には、区分所有法57条から60条の規定の準用がありません(区分所有法66条参照)ので、区分所有法59条の規定に基づく請求をする場合には、その建物(棟)において対応(決議)する必要があります(下記サイト参照)。
以下、便宜上、原告となれる者を「管理組合側」といいます。
管理組合側は、まずは59条競売請求について確定した判決(「原告は、被告が有する別紙物件目録記載の区分所有権及び敷地利用権について競売を申し立てることができる」旨の判決)を取得する必要があります。
この判決を取得するためには、区分所有法59条に定める要件(実体要件・手続要件)を充足する必要があります。
具体的には、①区分所有者が区分所有法6条1項に規定する行為をしたこと、又はその行為をするおそれがあること(共同利益背反行為)、②当該行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しいこと、③他の方法によっては、その障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であることを主張立証する必要があります。その他、④59条競売請求の訴え提起についての総会決議(特別多数決議)を経ていること、⑤その決議をする前に相手方(区分所有者)には弁明する機会を与えていること、⑥原告への訴訟追行権授権の決議(普通決議)について主張立証することになります。
なお、上記①から③の要件(実体要件)に関し、実際の訴訟では、①管理費等支払義務の長期にわたる不履行に関する事実、②管理費等滞納期間や滞納額、それまでの管理組合の対応(過去における管理費等請求訴訟等)や滞納者の対応(判決で命じられた金員を支払わないこと)、滞納者の行為によるマンションの維持管理に与える支障や団体運営に与える支障に関すること、③先取特権の実行や債務名義に基づく強制執行によっても滞納管理費等の回収を図ることが困難であること等を主張立証していくことなります。
■ 59条競売請求の確定判決に基づく不動産競売申立て
前述したように59条競売請求に係る判決の主文は「原告は、被告が有する別紙物件目録記載の区分所有権及び敷地利用権について競売を申し立てることができる」という内容にすぎません。つまり、この競売申立は、区分所有者を排除するための手続にすぎず、管理組合側がこの競売申立をするだけでは、換価代金(売却代金)から配当を受けることはできません。
そのため、管理組合としては、この不動産競売手続において、区分所有法7条1項の先取特権に基づいて配当要求しておくのが一般的です。
一般論として、管理費等が滞納となっている部屋(不動産)について不動産競売手続が開始された場合、管理組合は、区分所有法7条1項の先取特権に基づいて、配当要求の終期(民事執行法49条、52条参照)までに配当要求をすることが可能です。もちろん、配当要求する場合には、先取特権の存在を証明する文書を裁判所に提出する必要があります(民事執行法51条1項、181条1項4号。
そもそも、間接的な債権回収を目的として59条競売請求手続を選択した理由は、オーソドックスな債権回収手続(例えば債務名義に基づく不動産強制競売)では無剰余取消しとなってしまうからです。つまり、通常は、59条競売請求による不動産競売手続において管理組合への配当は見込めません。しかし、仮に管理組合が先取特権に基づく配当要求していたならば配当を受けられたというケースもないわけではありません。換価代金(売却代金)から、手続費用償還や抵当権者等債権者への弁済金交付等がなされてもなお余剰が発生する可能性もゼロではありません。
そのようなこともあり得ることから、59条競売請求に基づく不動産競売事件においても、管理組合は配当要求の終期(民事執行法49条、52条参照)までに配当要求しておくのが一般的です。
ちなみに、区分所有法66条は同法7条を準用していますので、団地管理組合(団地管理組合の管理者または団地管理組合法人を含む。)として管理費等債権の配当要求をすることが可能です。通常、団地の場合には、59条競売請求の原告(競売申立人)と管理費等債権の配当要求債権者が異なるでしょうから注意が必要です。
■ 補足:区分所有法7条1項の先取特権に基づく配当要求について
上述した先取特権に基づく配当要求については、当然ながら、他の債権者が当該区分所有の部屋について競売申立をした事件においてもすることができます。
例えば、抵当権者が抵当権の実行として担保不動産競売を申し立てた場合や、一般債権者が債務名義に基づいて強制競売を申し立てた場合にもすることができます。
そして、一般債権者よりも先取特権者のほうが配当において優先します【※3】ので、例えば、一般債権者による強制競売が開始された場合(抵当権者等がいない場合)には、管理組合として先取特権に基づく配当要求をする実益は極めて高いといえます。
【※3】不動産競売手続における配当順位について
配当の順位及び額については、民法 、商法 その他の法律の定めるところによることになります(民事執行法85条2項)。
例えば(あくまでも一例ですが)、以下のような順位になります。
第1順位 手続費用
第2順位 抵当権によって担保される債権
第3順位 公租公課
第4順位 未登記の先取特権によって担保される債権
第5順位 一般債権(一般債権者相互間には優劣関係はなく平等)
■ おわりに(まとめ)
マンション管理費等滞納トラブル~管理組合としての初動(初期対応)について~においては、管理組合としての初動(初期対応)として、督促する相手方の特定や請求する内容の問題をメインに検討しました。
マンション管理費等滞納トラブル~管理費等債権回収に向けた法的措置について~においては、直接的に金銭給付(管理費等債権回収)を目的とした法的措置を検討しました。
今回は、最終手段たる形式競売手続(区分所有法59条競売請求の確定判決に基づく不動産競売申立て)について検討しました。
念のため、補足すると、滞納管理費等について、「いつまでに必ず回収できる。」と考えるのは誤りといえます。例えば、形式競売によって新所有者(特定承継人)が出現しても、その特定承継人が前所有者の未納金を支払わないということも当然あり得ます。その場合には、改めてその特定承継人から債権回収するための法的手続を検討し、最終的には区分所有権剥奪のための59条競売請求手続を検討することもあります。
管理費等滞納については、①たまたま当該滞納者との間で上手く解決(全額回収)するケースもあるでしょう(多くはそういうケースでしょう)し、②新所有者(特定承継人)が出現した結果、解決できるケースもあれば、③最初の滞納者(元所有者)の特定承継人が現れても解決せず、その者(中間取得者)の次の特定承継人(現所有者)が現れることで解決するケースもあります。さらには、④前記【※2】で述べたように管理組合法人として当該部屋を取得して処理するしかないというケースもあります。
このように様々なケースが考えられます。結局、いつ、どのような形で解決するかは、事案によって異なってくるといえます。
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