直接強制、代替執行、間接強制について(概説)
- @lawyer.hiramatsu
- 7月27日
- 読了時間: 9分
今回は、以下のような質問について検討します。
強制執行の方法として、「直接強制」、「代替執行」、「間接強制」があるといわれていますが、その違いがよく分かりません。簡単に教えてください。
■ はじめに
民法414条1項本文【※1】は、「債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。」と規定しています。
【※1】民法414条
(履行の強制)
第414条 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。
強制執行とは、判決などの債務名義(民事執行法22条【※2】)を取得した債権者の申立てに基づき、相手方(債務者)に対する請求権を強制的に実現するための手続です。強制執行と担保権(例えば抵当権)の実行手続とは区別されています(裁判所の下記ウェブサイト参照)。
【※2】民事執行法22条
(債務名義)
第22条 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一 確定判決
二 仮執行の宣言を付した判決
三 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
三の二 仮執行の宣言を付した損害賠償命令
三の三 仮執行の宣言を付した届出債権支払命令
四 仮執行の宣言を付した支払督促
四の二 訴訟費用、和解の費用若しくは非訟事件(他の法令の規定により非訟事件手続法(平成23年法律第51号)の規定を準用することとされる事件を含む。)、家事事件若しくは国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(平成25年法律第48号)第29条に規定する子の返還に関する事件の手続の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第42条第4項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)
五 金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六 確定した執行判決のある外国裁判所の判決(家事事件における裁判を含む。第24条において同じ。)
六の二 確定した執行決定のある仲裁判断
六の三 確定した執行等認可決定のある仲裁法(平成15年法律第138号)第48条に規定する暫定保全措置命令
六の四 確定した執行決定のある国際和解合意
六の五 確定した執行決定のある特定和解
七 確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)
以下、直接強制、代替執行、間接強制の違いについて簡単に説明します。なお、各強制執行の申立ての内容、申立て後の手続の流れ等については別の回で解説します。
■ 直接強制
直接強制とは、国家機関(執行機関)により債権の内容をそのまま強制的に実現する方法をいいます。例えば、金銭債権の執行や不動産の明渡しの執行についてはこの方法によって行うことができます。
金銭支払を求める訴訟においては、「被告は、原告に対し、・・・・・・円を支払え」旨の判決が言い渡されますが、相手方(債務者)がそれを支払わない場合、債権者の申立て(不動産強制執行、動産執行、債権執行)によって、裁判所(動産執行については執行官)が債務者の財産を差し押さえて換価(金銭化)し、債権者が金銭配当(弁済)を受けることで債権の内容を強制的に実現することになります【※3】【※4】【※5】。
【※3】不動産強制執行
【※4】動産執行
【※5】債権執行
また、建物の明渡しを求める訴訟においては、「被告は、原告に対し、・・・・・・建物を明け渡せ」旨の判決が言い渡されますが、相手方(債務者)がその明渡しを履行しない場合、債権者の明渡執行申立てに基づき、執行官が債務者による建物占有を解き、債権者に占有を移転させることで建物明渡し(引渡し)を実現することになります(民事執行法168条1項【※11】)【※6】。
【※6】不動産引渡執行(法168条1項関係)
■ 代替執行
代替執行とは、相手方(債務者)が一定の作為をすること(作為債務)又はしないこと(不作為債務)について、その債務を第三者が代わってすることが可能な場合(代替的債務の場合)、債務者に代わって第三者にその行為を行わせる強制執行方法をいいます(民事執行法171条1項【※7】)。
【※7】民事執行法171条
(代替執行)
第171条 次の各号に掲げる強制執行は、執行裁判所がそれぞれ当該各号に定める旨を命ずる方法により行う。
一 作為を目的とする債務についての強制執行 債務者の費用で第三者に当該作為をさせること。
二 不作為を目的とする債務についての強制執行 債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすべきこと。
2 前項の執行裁判所は、第33条第2項第一号又は第六号に掲げる債務名義の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める裁判所とする。
3 執行裁判所は、第1項の規定による決定をする場合には、債務者を審尋しなければならない。
4 執行裁判所は、第1項の規定による決定をする場合には、申立てにより、債務者に対し、その決定に掲げる行為をするために必要な費用をあらかじめ債権者に支払うべき旨を命ずることができる。
5 第1項の強制執行の申立て又は前項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
6 第6条第2項の規定は、第1項の規定による決定を執行する場合について準用する。
裁判所のウェブサイトに「代替執行の申立てを検討されている方」に向けて「代替執行申立てQ&A」が掲載されていますのでご参照ください【※8】。
【※8】代替執行申立てQ&A
■ 間接強制
間接強制とは、相手方(債務者)が一定の作為をすること(作為債務)又はしないこと(不作為債務)について、相手方(債務者)が債務を履行しないときに一定の金銭の支払を命じて債務者に心理的経済的圧力をかけて債務者の自発的な履行を促す方法をいいます。
民事執行法172条【※9】は、直接強制も代替執行もできない債務(不代替的作為債務・不代替的不作為債務)について規定していますが、平成15年法律134号の改正法(平成16年4月1日施行)の民事執行法173条1項【※10】の規定により間接強制の対象範囲は拡張され、直接強制が可能な物の引渡・明渡債務や代替執行が可能な作為・不作為債務についても間接強制の方法を利用することが可能です(168条1項【※11】、169条1項【※12】、170条1項【※13】、171条1項【※7】)。
また、平成16年法律第152号の改正法(平成17年4月1日施行)の民事執行法167条の15第1項【※14】の規定により、扶養義務等に係る金銭債権については間接強制の方法を利用することも可能です。
裁判所のウェブサイトに「間接強制の申立てを検討されている方」に向けて「間接強制(通常事件)申立てQ&A」が掲載されていますのでご参照ください【※15】。
【※9】民事執行法172条(間接強制)
(間接強制)
第172条 作為又は不作為を目的とする債務で前条第1項の強制執行ができないものについての強制執行は、執行裁判所が、債務者に対し、遅延の期間に応じ、又は相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずる方法により行う。
2 事情の変更があつたときは、執行裁判所は、申立てにより、前項の規定による決定を変更することができる。
3 執行裁判所は、前2項の規定による決定をする場合には、申立ての相手方を審尋しなければならない。
4 第1項の規定により命じられた金銭の支払があつた場合において、債務不履行により生じた損害の額が支払額を超えるときは、債権者は、その超える額について損害賠償の請求をすることを妨げられない。
5 第1項の強制執行の申立て又は第2項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
6 前条第2項の規定は、第1項の執行裁判所について準用する。
【※10】民事執行法173条
第173条 第168条第1項、第169条第1項、第170条第1項及び第171条第1項に規定する強制執行は、それぞれ第168条から第171条までの規定により行うほか、債権者の申立てがあるときは、執行裁判所が前条第1項に規定する方法により行う。この場合においては、同条第2項から第5項までの規定を準用する。
2 前項の執行裁判所は、第33条第2項各号(第一号の二、第一号の三及び第四号を除く。)に掲げる債務名義の区分に応じ、それぞれ当該債務名義についての執行文付与の訴えの管轄裁判所とする。
【※11】民事執行法168条1項
(不動産の引渡し等の強制執行)
第168条 不動産等(不動産又は人の居住する船舶等をいう。以下この条及び次条において同じ。)の引渡し又は明渡しの強制執行は、執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法により行う。
2~9(略)
【※12】民事執行法169条1項
(動産の引渡しの強制執行)
第169条 第168条第1項に規定する動産以外の動産(有価証券を含む。)の引渡しの強制執行は、執行官が債務者からこれを取り上げて債権者に引き渡す方法により行う。
2(略)
【※13】民事執行法170条1項
(目的物を第三者が占有する場合の引渡しの強制執行)
第170条 第三者が強制執行の目的物を占有している場合においてその物を債務者に引き渡すべき義務を負つているときは、物の引渡しの強制執行は、執行裁判所が、債務者の第三者に対する引渡請求権を差し押さえ、請求権の行使を債権者に許す旨の命令を発する方法により行う。
2(略)
【※14】民事執行法167条の15第1項
(扶養義務等に係る金銭債権についての間接強制)
第167条の15 第151条の2第1項各号に掲げる義務に係る金銭債権についての強制執行は、前各款の規定により行うほか、債権者の申立てがあるときは、執行裁判所が第172条第1項に規定する方法により行う。ただし、債務者が、支払能力を欠くためにその金銭債権に係る債務を弁済することができないとき、又はその債務を弁済することによつてその生活が著しく窮迫するときは、この限りでない。
2~6(略)
【※15】間接強制(通常事件)申立てQ&A
■ おわりに
今回は、直接強制、代替執行及び間接強制について概説しました。各債務と執行方法との関係を簡単に整理すると以下のようになります。
① 金銭債務→→→直接強制
② 扶養義務等に係る金銭債務→→→直接強制または間接強制(債権者が選択可能)
③ 物の引渡債務・明渡債務→→→直接強制または間接強制(債権者が選択可能)
④ 代替可能な作為債務→→→代替執行または間接強制(債権者が選択可能)
⑤ 代替可能な不作為債務→→→代替執行または間接強制(債権者が選択可能)
⑥ 代替不可能な作為債務→→→間接強制
⑦ 代替不可能な不作為債務→→→間接強制
各種強制執行の手続の流れ等については別の回で解説します。
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