今回は、以下のようなご質問をもとに、団地管理組合(区分所有法65条参照)【※1】と区分所有法59条との関係について検討します。
なお、団地管理組合と区分所有法59条との関係については、こちらhttp://www.mankan-online.com/column-hiramatsu/002.htmlもご参照ください。
〈前提〉
当マンションは「団地」【※1】であり、当マンションの管理規約は、国土交通省が公表しているマンション標準管理規約(団地型)をベースに作成されています【※2】。例えば、規約第6条1項で「団地建物所有者は、区分所有法第65条に定める団地内の土地、附属施設及び専有部分のある建物の管理を行うための団体として、・・・団地建物所有者全員をもって○○団地管理組合を構成する。」【※3】とされ、規約第40条1項で「理事長は、管理組合を代表し、その業務を統括する・・・」とされ、同条2項で「理事長は、区分所有法に定める管理者とする。」【※4】とされています。
他方、区分所有法59条2項が準用する57条3項には、「管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、・・・他の区分所有者の全員のために、・・・訴訟を提起することができる。」と規定されています【※5】。
〈質問〉
現在、A棟の区分所有者に対し、区分所有法59条に基づく競売請求(提訴)を検討中ですが、団地管理組合の理事長は、区分所有法59条2項・57条3項に定める「管理者」に該当しますか。
■ 回答
ご質問に対する回答としては、「NO」(=該当しない。)になります。
まず、団地建物所有者で構成される団体(区分所有法65条)【※1】の管理者と、各棟の区分所有者で構成される団体(区分所有法3条)【※6】の管理者とは区別されます。
そして、マンション標準管理規約(団地型)は、各棟の管理者を選任しないことを前提に組み立てられています。例えば、管理規約第68条には下記のような規定が置かれており、第68条関係コメント③にも、「各棟においては、日常的な管理は行わず、管理者は選任しないことから、棟総会は、区分所有法第34条第5項の規定に基づき、招集することとしている。」と記載されています。
第68条 棟総会は、区分所有法第3条の集会とし、○○団地内の棟ごとに、その棟の区分所有者全員で組織する。
2 棟総会は、その棟の区分所有者が当該棟の区分所有者総数の5分の1以上及び第71条第1項に定める議決権総数の5分の1以上に当たる区分所有者の同意を得て、招集する。
そうすると、当該団地においても、A棟の区分所有者で構成される団体(以下、便宜上「A棟団体」といいます。)の管理者は選任されていない状態といえます。つまり、団地管理組合の理事長は団地管理組合の管理者であって、A棟団体の管理者ではない、ということになります。
したがって、ご質問に対する回答としては「NO」ということになります。
ちなみに、団地管理組合の理事長がA棟の区分所有者である場合には、その方を、「訴訟を提起する」「区分所有者」(区分所有法59条2項・57条3項)として「集会の決議」で指定することは可能です。しかし、団地管理組合の理事長がA棟の区分所有者ではない場合には、「区分所有者」として指定することはできません。
■ 発展問題
では、上記の管理規約68条2項に基づいてA棟総会を招集し、そのA棟総会において、団地管理組合理事長を、新たにA棟団体の管理者に選任することはできるでしょうか。
たしかに、区分所有法25条の解釈上、非区分所有者を管理者に選任することは可能ですし、規約に別段の定めがない限り管理者の選任は普通決議によってすることが可能です。
しかし、マンション標準管理規約(団地型)は、もともと各棟の管理者を選任しない前提で組み立てられていることから、A棟団体の管理者を置くとすれば、当該団地の管理規約の規定と矛盾ないし不整合が生じてしまいます。
そのため、A棟団体の管理者を新たに選任する場合には、管理規約を改正する必要が生じるでしょう。ちなみに、管理規約を改正するためには、A棟総会の決議だけでは不可能です。
【※1】区分所有法65条
(団地建物所有者の団体)
第65条 一団地内に数棟の建物があって、その団地内の土地又は附属施設(これらに関する権利を含む。)がそれらの建物の所有者(専有部分のある建物にあっては、区分所有者)の共有に属する場合には、それらの所有者(以下「団地建物所有者」という。)は、全員で、その団地内の土地、附属施設及び専有部分のある建物の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。
【※2】標準管理規約(団地型)及び同コメント(最終改正 令和3年6月22日 国住マ第33号)についてはこちら
【※3】マンション標準管理規約(団地型)第6条
(管理組合)
第6条 団地建物所有者は、区分所有法第65条に定める団地内の土地、附属施設及び専有部分のある建物の管理を行うための団体として、第1条に定める目的を達成するため、団地建物所有者全員をもって○○団地管理組合(以下「管理組合」という。)を構成する。
2 管理組合は、事務所を○○内に置く。
3 管理組合の業務、組織等については、第6章に定めるところによる。
【※4】マンション標準管理規約(団地型)第40条
(理事長)
第40条 理事長は、管理組合を代表し、その業務を統括するほか、次の各号に掲げる業務を遂行する。
一 規約、使用細則等又は団地総会若しくは理事会の決議により、理事長の職務として定められた事項
二 理事会の承認を得て、職員を採用し、又は解雇すること。
2 理事長は、区分所有法に定める管理者とする。
3 理事長は、通常総会において、組合員に対し、前会計年度における管理組合の業務の執行に関する報告をしなければならない。
4 理事長は、○箇月に1回以上、職務の執行の状況を理事会に報告しなければならない。
5 理事長は、理事会の承認を受けて、他の理事に、その職務の一部を委任することができる。
6 管理組合と理事長との利益が相反する事項については、理事長は、代表権を有しない。この場合においては、監事又は理事長以外の理事が管理組合を代表する。
【※5】区分所有法57条~59条
(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第57条 区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
2 前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
3 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第1項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。
4 前三項の規定は、占有者が第6条第3項において準用する同条第1項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれがある場合に準用する。
(使用禁止の請求)
第58条 前条第1項に規定する場合において、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、前条第1項に規定する請求によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、相当の期間の当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができる。
2 前項の決議は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数でする。
3 第1項の決議をするには、あらかじめ、当該区分所有者に対し、弁明する機会を与えなければならない。
4 前条第3項の規定は、第1項の訴えの提起に準用する。
(区分所有権の競売の請求)
第59条 第57条第1項に規定する場合において、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
2 第57条第3項の規定は前項の訴えの提起に、前条第2項及び第3項の規定は前項の決議に準用する。
3 第1項の規定による判決に基づく競売の申立ては、その判決が確定した日から6月を経過したときは、することができない。
4 前項の競売においては、競売を申し立てられた区分所有者又はその者の計算において買い受けようとする者は、買受けの申出をすることができない。
【※6】区分所有法3条
(区分所有者の団体)
第3条 区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。
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