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マンション管理費等滞納トラブル~管理費等債権回収に向けた法的措置について~

  • @lawyer.hiramatsu
  • 6月21日
  • 読了時間: 14分

更新日:6月23日

 前回のマンション管理費等滞納トラブル~管理組合としての初動(初期対応)について~では、相手方特定の問題や相手方に対する請求内容の問題を主に検討しました。
 今回は、相手方に対する督促(支払催告)によっても相手方から支払がない場合における法的措置について検討します。

■ はじめに


 法的措置に関しては様々な手続が想定されますが、今回は、管理費等回収に向けたオーソドックスな法的措置を検討します。

 なお、オーソドックスな法的措置で解決できない場合には最終手段としての形式競売手続(区分所有法59条競売請求の確定判決に基づく競売申立)を検討する必要がありますが、これについては、別稿マンション管理費等滞納トラブル~区分所有法59条競売請求の確定判決に基づく不動産競売申立てについて~で検討します。


■ 管理費等回収に向けたオーソドックスな法的措置について


 管理費等回収に向けたオーソドックスな法的措置としては下記のような手続が考えられます。


(1)先取特権に基づく担保不動産競売申立て
(2)先取特権に基づく(物上代位としての)賃料債権差押え
(3)管理費等請求訴訟
(4)債務名義に基づく強制執行
  ア 不動産強制競売申立て
  イ 債権差押命令申立
  (ア)給料等債権の差押え
  (イ)預金債権の差押え
  (ウ)賃料等債権の差押え

■(1)先取特権に基づく担保不動産競売申立て


 多くの管理組合は、区分所有法7条1項の規定に基づき、「規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権」について、債務者の「区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権」を有しているといえます【※1】。


 【※1】区分所有法7条1項

(先取特権)
第7条 区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
2 前項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなす。
3 民法第319条の規定は、第1項の先取特権に準用する。

 この「先取特権」という担保権に基づいて、管理組合は、当該区分所有者の部屋(不動産)について担保不動産競売を申し立てることができます(民事執行法181条1項4号【※2】)。

 ただし、区分所有法7条2項の関係で、この担保不動産競売申立てに際しては、不動産以外の財産(つまり「建物に備え付けた動産」)に対する担保権実行(動産競売)によっては請求債権額に足りないことを主張立証する必要があります(民法335条1項参照)。


 後述する通常の強制執行としての不動産強制競売申立ての場合には、債務名義(民事執行法22条)が必要ですが、この担保権実行としての担保不動産競売申立てには債務名義は不要です。ただし、担保権実行の場合、先取特権の存在を証明する文書を裁判所に提出する必要があります(民事執行法181条1項4号【※2】)。


 なお、その部屋に多額の抵当権が設定されている場合(いわゆるオーバーローンとなっている場合)には、不動産の買受可能価額が手続費用及び優先債権の見込額の合計に満たない(無剰余である)と裁判所が判断し、一定の例外(優先債権者全員の同意を得る等)に該当しない限り、競売手続は途中で取り消されてしまいます(いわゆる「無剰余取消し」)(民事執行法63条【※3】)。

 無剰余取消しによる管理組合のダメージ(予納金の問題)については理解しておく必要があります。

 不動産競売申立ての際には裁判所に予納金を納めます。予納金とは、簡単に言えば、不動産競売手続の各種費用に充てられる金銭を予め申立人が納めておくものです。裁判所は不動産競売手続にかかる各種費用をその予納金(保管金)から支払っていきます。

 仮に競売手続きが無剰余を理由に取り消された場合には、売却代金(配当の原資)も存在しないことから、手続費用(不動産評価費用や現況調査費用等、諸々の執行費用)の償還(配当)にも至りません。つまり、使われた費用は管理組合に返還されないということです。


 無剰余取消しを回避する方法については下記の裁判所Webサイトをご覧ください。

 また特殊な事例(買受可能価額が手続費用額(見込額)を超えない場合)における無剰余取消し回避方法については、「不動産競売手続における無剰余取消し回避の方法(マンション管理組合の場合)」をご参照ください。


 【※2】民事執行法181条

(不動産担保権の実行の開始)
第181条 不動産担保権の実行は、次に掲げる文書が提出されたときに限り、開始する。
 一 担保権の存在を証する確定判決若しくは家事事件手続法第75条の審判又はこれらと同一の効力を有するものの謄本
 二 担保権の存在を証する公証人が作成した公正証書の謄本
 三 担保権の登記(仮登記を除く。)に関する登記事項証明書
 四 一般の先取特権にあつては、その存在を証する文書
2~4(略)

 【※3】民事執行法63条

(剰余を生ずる見込みのない場合等の措置)
第63条 執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、その旨を差押債権者(最初の強制競売の開始決定に係る差押債権者をいう。ただし、第47条第6項の規定により手続を続行する旨の裁判があつたときは、その裁判を受けた差押債権者をいう。以下この条において同じ。)に通知しなければならない。
 一 差押債権者の債権に優先する債権(以下この条において「優先債権」という。)がない場合において、不動産の買受可能価額が執行費用のうち共益費用であるもの(以下「手続費用」という。)の見込額を超えないとき。
 二 優先債権がある場合において、不動産の買受可能価額が手続費用及び優先債権の見込額の合計額に満たないとき。
2 差押債権者が、前項の規定による通知を受けた日から一週間以内に、優先債権がない場合にあつては手続費用の見込額を超える額、優先債権がある場合にあつては手続費用及び優先債権の見込額の合計額以上の額(以下この項において「申出額」という。)を定めて、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める申出及び保証の提供をしないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。ただし、差押債権者が、その期間内に、前項各号のいずれにも該当しないことを証明したとき、又は同項第二号に該当する場合であつて不動産の買受可能価額が手続費用の見込額を超える場合において、不動産の売却について優先債権を有する者(買受可能価額で自己の優先債権の全部の弁済を受けることができる見込みがある者を除く。)の同意を得たことを証明したときは、この限りでない。
 一 差押債権者が不動産の買受人になることができる場合 申出額に達する買受けの申出がないときは、自ら申出額で不動産を買い受ける旨の申出及び申出額に相当する保証の提供
 二 差押債権者が不動産の買受人になることができない場合 買受けの申出の額が申出額に達しないときは、申出額と買受けの申出の額との差額を負担する旨の申出及び申出額と買受可能価額との差額に相当する保証の提供
3 前項第二号の申出及び保証の提供があつた場合において、買受可能価額以上の額の買受けの申出がないときは、執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない。
4 第2項の保証の提供は、執行裁判所に対し、最高裁判所規則で定める方法により行わなければならない。

■(2)先取特権に基づく(物上代位としての)賃料債権差押え


 先取特権(区分所有法7条1項)【※1】及び物上代位(民法304条1項)【※4】の規定により、先取特権者(管理組合)は、目的物の売却、賃貸、滅失等によって債務者(区分所有者)が受けるべき金銭に対しても物上代位に基づき債権差押命令の申立てが可能です。


 【※4】民法304条

(物上代位)
第304条 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
2(略)

 例えば、Yさん(債務者)が、その所有する部屋を第三者(Zさん)に賃貸している場合、YさんはZさんに対して賃料債権を有していることになります。管理組合は、このYさんが受けるべき賃料(金銭)について、物上代位に基づく債権差押えが可能であるということです。

 なお、抵当権者も、抵当権に基づく物上代位によって賃料債権差押えが可能ですが、実務上、抵当権者が賃料債権を差し押さえているケースは少ないため、管理組合がこの手続きを利用し、Zさんから毎月一定額(賃料相当額)の金員を取立てて、債権回収を図るケースは少なくありません。


 【先取特権に基づく(物上代位としての)差押債権の記載例】

金●●●円
 債務者兼所有者が第三債務者に対して有する下記建物の賃料債権(ただし、賃料とは別に管理費及び共益費の定めがある場合には当該管理費及び共益費相当分を除く。)にして、まずは本命令送達時に既に支払期にあるもの(未払分)のうち支払期の古い順から、次いで本命令送達日以降支払期の到来するものから頭書金額に満つるまで
                   記
(一棟の建物の表示)
所   在  千代田区●●一丁目 1番地1
建物の名称  ●●マンション
(専有部分の建物の表示)
家屋番号    千代田区●●一丁目1番1の210
建物の名称  210
種   類  居宅
構   造  鉄筋コンクリート造1階建
床 面 積  2階部分 50.11平方メートル

 後述する通常の強制執行としての債権差押命令申立ての場合には、債務名義(民事執行法22条)が必要ですが、この担保権実行としての差押命令申立てには債務名義が不要です。

 もちろん、この担保権実行の場合も、裁判所に一定の文書を提出する必要はあります(民事執行法193条1項)。


 注意すべきは、上記の例で、YさんがZさんに賃料債権を有していなければ空振りになってしまうということです。例えばYさんとZさんとの間に転貸人が介在しているような場合には、YさんのZさんに対する賃料債権は存在しないことになりますで、この差押えは空振りとなってしまいます。


■(3)管理費等支払請求訴訟


 長期滞納者に対する一般的な法的措置は、滞納者を被告として管理費等の支払を求める訴訟を提起するということでしょう。最終的には「判決」、つまり、「被告は、原告に対し、・・・(金員)・・・を支払え」といった判決が下されます。

 この判決では金員の支払が命じられるだけですので、実際に、原告(債権者)がこの金員を回収しようとすれば、この判決を債務名義として強制執行することになります。債務名義に基づく強制執行については後述します。

 ちなみに、原告が訴状を裁判所に提出すると、その後、第1回期日が決まり、裁判所から被告に対し訴状副本等や期日呼出状が送達されます。

 訴状を読んだ被告から、原告側に対し、弁済の申し入れ等の連絡がなされることもあります。仮にその弁済の申し入れが管理組合として納得できるもの(例えば一括弁済の申し入れ)であれば、被告に一括弁済してもらい、原告は訴えを取り下げるということもあります。

 被告からの申し入れが長期分割弁済や減額要求である場合等においては、管理組合として納得(和解)できず、最終的に「判決」に至ることもあります。

 もし、管理組合として納得できるような被告からの申し入れであれば、裁判上の和解によって終わることもあります。裁判上の和解が成立すると裁判所により和解調書が作成され、この調書の記載は確定判決と同一の効力を有することになります(民事訴訟法267条)ので、債権者はこれを債務名義(民事執行法22条7号)として強制執行を申し立てることも可能です。


■(4)債務名義に基づく強制執行

 

 判決で金員の支払が命じられたにもかかわらず債務者がそれを支払わない場合、あるいは、裁判上の和解が成立したにもかかわらず債務者がその和解調書(和解条項)に定められた金員の支払をしない場合には、債権者は、債務者が有する財産に対し、強制執行を申し立てることが可能となります。

 債務者が有する財産として、不動産、動産、債権等が考えられますが、ここでは不動産や債権のうちの給料債権、預金債権及び賃料債権を検討します。


ア 不動産強制競売申立て


 前述したように、管理組合は、「先取特権」という担保権に基づいて、区分所有者(Yさん)所有部屋について担保不動産競売を申し立てることができますが、債務名義に基づく不動産強制競売の場合には、この部屋に限定されるわけではなく、Yさん所有の他の不動産をも対象とすることができます。

 仮に、XマンションのYさん所有の部屋には抵当権が設定されている一方で、Yさん所有の別の不動産には抵当権等が設定されておらず、その不動産の換価価値も高いと思われる場合には、その別の不動産を対象として強制競売を申し立てることも考えられます。

 なお、債務名義に基づく不動産強制競売申立てにおいても、民事執行法63条(無剰余取消し)の適用があります。無剰余取消しについては、前記の「先取特権に基づく担保不動産競売申立て」のところで述べたとおりです。無剰余取消しによる管理組合のダメージ(予納金の問題)については理解しておく必要があります。


イ 債権差押命令申立


 (ア)給料等債権の差押え


 Yさん(債務者)が安定した給料をZ会社(第三債務者)から得ているということが判明している場合には、債務名義(判決等)に基づいて、YさんがZ会社に対して有する給料(賞与や退職金を含む)債権を差し押さえるということも考えられます。

 Yさんが一般的な民間企業に勤めている場合、差し押さえる債権の表示は下記のようになります。


 【差押債権の記載例】

金●●●円
 債務者(●●勤務)が、第三債務者から支給される、本命令送達日以降支払期の到来する下記債権にして、頭書金額に満つるまで
                   記
1 給料(基本給と諸手当。ただし,通勤手当を除く。)から所得税、住民税及び社会保険料を控除した残額の4分の1(ただし、上記残額が月額44万円を超えるときは、その残額から33万円を控除した金額)
2 賞与から1と同じ税金等を控除した残額の4分の1(ただし、上記残額が44万円を超えるときは、その残額から33万円を控除した金額)
 なお、1及び2により弁済しないうちに退職したときは、退職金から所得税及び住民税を控除した残額の4分の1にして、1及び2と合計して頭書金額に満つるまで

 一定の範囲は差押禁止債権となっているには留意する必要があります(民事執行法152条【※5】。


 【※5】民事執行法152条

(差押禁止債権)
第152条 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。
 一 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権
 二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権
2 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の4分の3に相当する部分は、差し押さえてはならない。
3(略)

 (イ)預金債権の差押え


 預金債権差押えは、Yさんの預金のある銀行と支店名を特定してする必要があります。口座番号まで特定する必要はありません。

 なお、差押命令が裁判所から当該銀行に送達された時点で存在する預金のみが差押えの対象となりますので、その前に預金がなくなっていた場合や、その後(将来)の預金は関係ない(当該差押えの対象ではない)ということになります。

 ちなみに、Yさんが潤沢な預金を有するのであれば、未納管理費等を支払うこともさほど困難ではないと思われます。

 預金債権を差し押さえられたYさんが、管理組合に対し一括弁済の申し入れをしてきて解決するケースもありますが、管理組合が、第三債務者(銀行)から債権全額を取り立てて解決に至るケースは少ないといえます。


 (ウ)賃料等債権の差押え


 前述したように、Yさんが区分所有する部屋をZさんに賃貸している場合、管理組合は、先取特権(区分所有法7条1項)【※1】及び物上代位(民法304条1項)【※4】の規定に基づき、そのYさんのZさんに対する賃料債権を差し押さえることが可能です。

 他方、債務名義に基づく賃料債権差押えは、その区分所有の部屋に限定されるわけではなく、Yさん所有の他の不動産の賃料等をも対象とすることができます。

 ただし、債権者(管理組合)は、Yさんが誰から賃料を得ているのかを把握する必要があります(第三債務者の特定)。第三債務者の特定を誤ると、結局、その差押えは空振りに終わってしまいます。


■ おわりに


 上述したオーソドックスな法的措置で解決できない場合には、最終手段としての形式競売手続(区分所有法59条競売請求の確定判決に基づく競売申立)について検討する必要が生じます。




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