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建物賃貸借契約の転貸人の地位の移転について転借人の承諾は必要か 

  • @lawyer.hiramatsu
  • 11 分前
  • 読了時間: 6分

 【質問】

 当社は、建物所有者(X)から建物を賃貸し、その建物を転借人(Y)に転貸している会社です。
 当社と建物所有者(X)との間で、転貸人を当社からZ社に変更したいという話が出ています。転貸人の地位を当社からZ社に移転する場合、転借人(Y)の承諾は必要でしょうか。
 ちなみに、AIを利用して調べた結果、転借人(Y)の承諾は不要と回答してきました。また、ある法律事務所のサイトでは最判昭和51年6月21日を根拠に転借人の承諾は必須ではないというものもありました。

■ はじめに(結論)


 ご質問の件(以下「本件」といいます。)において、当社は建物所有者ではありません。

 当社が建物(不動産)をZに譲渡するものでもないため、民法605条の2【※1】が適用される場面でもなく、民法605条の3【※1】が適用される場面でもありません。

 このようなケースにおいては、契約上の地位の移転の原則規定(民法539条の2【※2】)が適用されるとみるべきです。

 すなわち、転貸人の地位を当社からZ社に移転する場合、転借人(Y)の承諾が必要です。


 【※1】民法605条の2、605条の3

(不動産の賃貸人たる地位の移転)
第605条の2 前条、借地借家法(平成3年法律第90号)第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。
2 前項の規定にかかわらず、不動産の譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する。
3 第1項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。
4 第1項又は第2項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、第608条の規定による費用の償還に係る債務及び第622条の2第1項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。

(合意による不動産の賃貸人たる地位の移転)
第605条の3 不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができる。この場合においては、前条第3項及び第4項の規定を準用する。

 【※2】民法539条の2(第三款 契約上の地位の移転)

第539条の2 契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。

■ 検討


 ご質問にある最判昭和51年6月21日【※3】及びその原審である大阪高判昭和50年10月31日【※4】の判示は下記のとおりです。


 【※3】最判昭和51年6月21日の判示

・・・右事実関係の下においては、本件土地の賃借権の譲渡(転貸人の地位の承継)を受けた上告人は、その譲渡人がそれを右土地の転借人である被上告人らに通知をさせず、又は被上告人らが右譲渡を承諾しない以上、被上告人らに対し、その転貸人としての地位を主張し得ないとした原審の判断は、正当として是認することができる。

 【※4】大阪高判昭和50年10月31日の判示

本件のように賃貸人が土地所有者でない土地の賃貸借契約では、賃貸人の地位の譲渡は、譲渡人がこれを賃借人に通知し、又は賃借人がこれを承諾しなければ、これをもつて賃借人に対抗し得ないと解するのが相当であるところ、前記のとおり右通知又は承諾はなされていないから、本件賃貸人の地位の譲渡は、賃借人たる被控訴人等に対抗することができず、控訴人は被控訴人等に対し本件賃貸借の賃貸人たることを主張をすることができないものといわなければならない。

 たしかに、大阪高判昭和50年10月31日は、「賃貸人が土地所有者でない土地の賃貸借契約では、賃貸人の地位の譲渡は、譲渡人がこれを賃借人に通知し、又は賃借人がこれを承諾しなければ、これをもつて賃借人に対抗し得ないと解するのが相当」と説示し、最判昭和51年6月21日は「本件土地の賃借権の譲渡(転貸人の地位の承継)を受けた上告人は、その譲渡人がそれを右土地の転借人である被上告人らに通知をさせず、又は被上告人らが右譲渡を承諾しない以上、被上告人らに対し、その転貸人としての地位を主張し得ないとした原審の判断は、正当として是認することができる」と説示していますので、その読み方や解釈によっては、金融・商事判例513号26頁以下に記載されているように「転借人に対する対抗要件としては、通知が必要であり、それで十分であるということがいえよう。」という考え方もあり得るでしょう。

 しかし、裁判所の説示が上記のようになったのは、当該事案において請求棄却・控訴棄却・上告棄却を求めていた被告・被控訴人・被上告人が「通知」がないことを主張していたためであると私は考えます。つまり、裁判所は、賃貸人の地位の譲渡を賃借人に対抗できないという結論を導くための理由付けとして、当該事案においては通知(民法467条1項参照)すらないことを指摘しているにすぎず、「通知」(民法467条1項参照)のみによって契約上の地位が移転すると判示したものではないと読むべきものと考えます。

 本件のようなケースでは、原則(民法539条の2)どおり、転借人(Y)の承諾が必要であると考えるべきです。


■ おわりに(補足)

 

 建物所有者(甲)と対抗要件を備えている賃借人(乙)との間で賃貸借契約が締結している場合において、「甲」から「丙」に建物が譲渡されると、民法605条の2第1項(当然の移転)の適用により、賃貸人たる地位は甲から丙に移転します。

 ただし、民法605条の2第2項前段の要件(すなわち、①賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨の合意、及び、②その不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をすること)を充たす場合には、賃借人(乙)の承諾を得なくとも、甲を賃貸人のままとすることが可能です。その場合、丙(建物譲受人)が甲(建物譲渡人)に建物を賃貸し、甲が乙に建物を転貸しているような一種の転貸借関係が成立することになります。


 では、「甲」が「丙」に建物を譲渡する場面において、賃借人(乙)の承諾を得ることなく、「丙」が賃貸人たる地位のみを第三者(丁)に移転することは可能でしょうか。

 このようなケースについて、民法605条の2第2項が規律する場面に近いとみて、この規律を類推適用し、①新所有者(丙)と第三者(丁)との間で賃貸人たる地位のみを譲渡する旨の合意、及び②新所有者(丙)を賃貸人、第三者(丁)を賃借人とする賃貸借をする旨の合意をし、かつ③新所有者(丙)と第三者(丁)間の賃貸借が終了したときは、賃貸人たる地位は第三者(丁)から新所有者(丙)に当然に移転する(民法605条の2第2項後段参照)ということであれば、新所有者(丙)が賃借人(乙)の承諾を得ることなく、賃貸人たる地位のみを第三者(丁)に移転することも可能と考える解釈論もあるようです。

 しかし、私は、そのようなケースでも、やはり賃借人(乙)の承諾が必要であると考えます。

 すなわち、民法605条の2第2項は、賃借人(乙)にとっての賃貸人が変わらないことを前提とした規律であって、上記のケースでは賃借人(乙)にとっての賃貸人が変わってしまいますので民法605条の2第2項の規律を及ぼすべきとはいえませんし、もちろん、第三者(丁)に建物が譲渡されるわけでもないことから、民法605条の2第1項(当然の移転)や民法605条の3(合意による移転)を適用する前提を欠いています。したがって、契約上の地位の移転の原則的規律(民法539条の2【※2】)に従い、賃借人(乙)の承諾が必要であると考えます。


(弁護士/平松英樹)


 
 
 

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