令和8(2026)年4月1日施行の改正区分所有法6条2項について
- @lawyer.hiramatsu
- 18 時間前
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令和8(2026)年4月1日施行の改正区分所有法6条2項について教えてください。改正前は「区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。」とされていましたが、改正後は「区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分若しくは自己の所有に属しない共用部分を使用し、又は自らこれらを保存することを請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。」と改正されました。
そもそも、この規定によらず、区分所有法6条1項、57条1項を根拠として、専有部分の区分所有者に対し、特定の行為(当該専有部分の補修工事等)をなすよう求めることもできると思うのですが、どうでしょうか。■ はじめに
はじめに私見を述べると、改正前においても、また改正後においても、管理組合側【※1】が、区分所有法6条1項、57条1項を根拠として、専有部分の区分所有者に対し、特定の行為(当該専有部分の補修工事等)をなすよう求めることは可能であると考えます。
【※1】区分所有法57条1項の規定に基づく請求の主体について
管理組合側が区分所有法57条1項を根拠として訴訟提起する場合には、同項の規定により「他の区分所有者全員又は管理組合法人」として請求することになり、実際には「管理者又は集会において指定された区分所有者」あるいは「管理組合法人」が当事者(原告)として訴訟提起することになるでしょう。■ 解説
区分所有法6条1項の規定は改正前も改正後も下記【※2】のとおりです。また、区分所有法57条の規定は改正前も改正後も下記【※3】のとおりです。
すなわち、改正前後を通じて、「区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。」ということで変更ありません。
例えば、ある区分所有者の専有部分の瑕疵(不具合)が原因で漏水等を発生させている場合、それが「建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」といえる場合には、「他の区分所有者の全員又は管理組合法人」(【注1】参照)は、その区分所有者に対し、「区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求すること」が可能です。
そして、「その行為を予防するため必要な措置を執ることの請求」として、その区分所有者に対し、当該専有部分の瑕疵(不具合)部分の補修工事を実施するよう求めることも可能であると考えます。
【※2】区分所有法6条1項
区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。【※3】区分所有法57条
(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第57条 区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
2 前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
3 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第1項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。
4 前3項の規定は、占有者が第6条第3項において準用する同条第1項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれがある場合に準用する。この件について参考となる裁判例として、東京地判令和4年7月14日(ウエストロー・2022WLJPCA07148020)があります。
この事案は、管理者が原告となり、漏水元の専有部分の区分所有者(被告)に対し、被告の居室内の浴室から階下に水漏れを生じさせていることが区分所有法6条1項所定の行為に該当すると主張して、主位的に区分所有法57条1項に基づき浴室について防水工事を施工することを求めたものです。
結論(判決主文)として、「被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物内の浴室(別紙図面①の赤枠部分)について、防水工事(アスファルト防水のほか、FRP防水、ウレタン防水、シート防水、ユニット工法、その他水漏れの防止に必要な一切の処置を含む。)を施工せよ。」という判決が言い渡されています。
なお、同事案において、原告は、予備的請求として、下記【※4】のような請求を定立していましたが、主位的請求が認容されていますので、予備的請求については判断されておりません。
【※4】予備的請求について
ア 被告は、原告に対し、原告が別紙物件目録記載の建物(以下「被告居室」という。)内の浴室(別紙図面①の赤枠部分。以下「本件浴室」という。)について、防水工事(アスファルト防水のほか、FRP防水、ウレタン防水、シート防水、ユニット工法、その他水漏れの防止に必要な一切の処置を含む。以下同じ。)を施工することを承諾せよ。
イ 被告は、原告に対し、原告が本件浴室について防水工事を施工するに当たり、被告居室を使用することを承諾せよ。
ウ 被告は、原告が本件浴室について防水工事を施工することを妨害し、又は第三者をして妨害させてはならない。■ 補足
前記のとおり、管理組合側【※1】は、区分所有法6条1項、57条1項を根拠として、専有部分の区分所有者に対し、特定の行為(当該専有部分の補修行為等)をなすよう請求することは可能であると考えます。
ただし、その請求が認められるためには「区分所有者の共同の利益に反する行為」の存在が必要です。
これに対し、改正区分所有法6条2項前段は「区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分若しくは自己の所有に属しない共用部分を使用し、又は自らこれらを保存することを請求することができる。」と定められており、この請求に関しては、「区分所有者の共同の利益に反する行為」が要件とはなっておりません。
つまり、漏水元の専有部分の区分所有者に対し、改正区分所有法6条2項に基づいて当該専有部分へ立ち入り(使用して)当該専有部分につき請求者自ら保存すること(自ら補修すること)を求める場合には、区分所有法6条1項の要件(共同利益背反行為)は不要であり、その意味において、改正区分所有法6条2項に基づく請求のほうが、区分所有法6条1項、57条1項に基づく請求よりもハードルが低いといえます。
もっとも、改正区分所有法6条2項に基づき請求者自らが補修工事を行う場合には、その補修工事費用の負担をどうするのかという問題が別途生じることには注意が必要です。
■ おわりに
特定の専有部分から漏水が生じているとしても、共用部分等(管理組合の管理対象物)に何ら影響が生じていない場合、例えば階下(1戸)の区分所有者の専有部分のみが影響を受けている場合には、改正区分所有法6条2項に基づき請求できる主体はその階下(1戸)の専有部分の区分所有者のみということになります。
改正区分所有法に対応する令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)23条は下記【※5】のように定めています。同条1項が規定する「前2条により管理を行う者」の管理の主体や対象(【※6】参照)については留意しておく必要があります。
【※5】令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)23条
第23条 前2条により管理を行う者は、管理を行うために必要な範囲内において、他の者が管理する専有部分若しくは専用使用部分への立入り又は自らこれに保存行為を実施することを請求することができる。
2 前項により立入り又は保存行為の実施を請求された者は、正当な理由がなければこれを拒否してはならない。
3 前項の場合において、正当な理由なく立入り又は保存行為の実施を拒否した者は、その結果生じた損害を賠償しなければならない。
4 前3項の規定にかかわらず、理事長は、災害、事故等が発生した場合であって、緊急に他の者が管理する専有部分又は専用使用部分への立入り又は保存行為の実施をしなければ、共用部分等又は他の専有部分に対して物理的に又は機能上重大な影響を与えるおそれがあるときは、自らその専有部分又は専用使用部分に立ち入り、又は保存行為を実施することができる。この場合において、理事長は、委任した者にこれを行わせることもできる。
5 立入りをした者は、速やかに立入りをした箇所を原状に復さなければならない。【※6】令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)21条、22条(だだし、電磁的方法が利用可能な場合)
(敷地及び共用部分等の管理)
第21条 敷地及び共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。ただし、バルコニー等の保存行為(区分所有法第18条第1項ただし書の「保存行為」をいう。以下同じ。)のうち、通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを行わなければならない。
2 専有部分である設備のうち共用部分と構造上一体となった部分の保存行為等(区分所有法第17条第3項の「専有部分の保存行為等」をいう。以下同じ。)を共用部分の管理と一体として行う必要があるときは、総会の決議を経て、管理組合がこれを行うことができる。
3 区分所有者は、第1項ただし書の場合又はあらかじめ理事長に申請して書面又は電磁的方法による承認を受けた場合を除き、敷地及び共用部分等の保存行為を行うことができない。ただし、専有部分の使用に支障が生じている場合に、当該専有部分を所有する区分所有者が行う保存行為の実施が、緊急を要するものであるときは、この限りでない。
4 前項の申請及び承認の手続については、第17条第2項、第3項、第5項及び第6項の規定を準用する。ただし、同条第5項中「修繕等」とあるのは「保存行為」と、同条第6項中「第1項の承認を受けた修繕等の工事後に、当該工事」とあるのは「第21条第3項の承認を受けた保存行為後に、当該保存行為」と読み替えるものとする。
5 第3項の規定に違反して保存行為を行った場合には、当該保存行為に要した費用は、当該保存行為を行った区分所有者が負担する。
6 理事長は、災害等の緊急時においては、総会又は理事会の決議によらずに、敷地及び共用部分等の必要な保存行為を行うことができる。
(窓ガラス等の改良)
第22条 共用部分のうち各住戸に附属する窓枠、窓ガラス、玄関扉その他の開口部に係る改良工事であって、防犯、防音又は断熱等の住宅の性能の向上等に資するものについては、管理組合がその責任と負担において、計画修繕としてこれを実施するものとする。
2 区分所有者は、管理組合が前項の工事を速やかに実施できない場合には、あらかじめ理事長に申請して書面又は電磁的方法による承認を受けることにより、当該工事を当該区分所有者の責任と負担において実施することができる。
3 前項の申請及び承認の手続については、第17条第2項、第3項、第5項及び第6項の規定を準用する。ただし、同条第5項中「修繕等」とあるのは「第22条第2項の工事」と、同条第6項中「第1項の承認を受けた修繕等の工事」とあるのは「第22条第2項の承認を受けた工事」と読み替えるものとする。
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