管理不全専有部分管理命令について
- @lawyer.hiramatsu
- 2 時間前
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私は、管理組合の理事長です。令和8年4月1日施行の改正区分所有法との関係で教えてください。
ある区分所有者(以下「Y」といいます。)が専用使用しているバルコニー内に大量のゴミを置いており、上階や隣接する部屋の居住者が悪臭等で困っています。ただし、Yさんは「ゴミではない」と主張し続けており、全く協力してくれません。
管理組合は、改正区分所有法に基づく「管理不全専有部分管理人」(以下「管理人」といいます。)の選任を申し立て、選任された管理人によりゴミは処分してもらえると考えていますが、そのような考えでよいですか。■ はじめに(問題の所在の整理)
管理不全専有部分管理人に関しては、令和8年4月施行の改正区分所有法46条の8~12により下記【※1】のとおり規定されています。
ご質問のケース(以下「本件」といいます。)においては、Yさんは管理人による室内への立入りやバルコニーへの立入り自体を拒むものと思われます。
そのような場合に、管理人は、Yさんの意思に反して室内やバルコニーに立ち入り、物品(改正区分所有法46条の8第2項参照)を処分することはできるでしょうか。
【※1】改正区分所有法46条の8~12
(管理不全専有部分管理命令)
第46条の8 裁判所は、区分所有者による専有部分の管理が不適当であることによつて他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該専有部分を対象として、第3項に規定する管理不全専有部分管理人による管理を命ずる処分(以下「管理不全専有部分管理命令」という。)をすることができる。
2 管理不全専有部分管理命令の効力は、当該管理不全専有部分管理命令の対象とされた専有部分又は共用部分、附属施設若しくは建物の敷地にある動産(当該管理不全専有部分管理命令の対象とされた専有部分の区分所有者又はその共有持分を有する者が所有するものに限る。)並びに共用部分及び附属施設に関する権利並びに敷地利用権(いずれも当該管理不全専有部分管理命令の対象とされた専有部分の区分所有者又はその共有持分を有する者が有するものに限る。)に及ぶ。
3 裁判所は、管理不全専有部分管理命令をする場合には、当該管理不全専有部分管理命令において、管理不全専有部分管理人を選任しなければならない。
(管理不全専有部分管理人の権限)
第46条の9 管理不全専有部分管理人は、管理不全専有部分管理命令の対象とされた専有部分並びに管理不全専有部分管理命令の効力が及ぶ動産並びに共用部分及び附属施設に関する権利並びに敷地利用権並びにこれらの管理、処分その他の事由により管理不全専有部分管理人が得た財産(以下「管理不全専有部分等」という。)の管理及び処分をする権限を有する。
2 前項の規定にかかわらず、管理不全専有部分管理人は、集会において議決権を行使することができない。
3 管理不全専有部分管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもつて善意でかつ過失がない第三者に対抗することはできない。
一 保存行為
二 管理不全専有部分等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
4 管理不全専有部分管理命令の対象とされた専有部分の処分についての前項の許可をするには、その区分所有者の同意がなければならない。
(管理不全専有部分管理人の義務)
第46条の10 管理不全専有部分管理人は、管理不全専有部分等の所有者のために、善良な管理者の注意をもつて、その権限を行使しなければならない。
2 管理不全専有部分等が数人の共有に属する場合には、管理不全専有部分管理人は、その共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
(管理不全専有部分管理人の解任及び辞任)
第46条の11 管理不全専有部分管理人がその任務に違反して管理不全専有部分等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、管理不全専有部分管理人を解任することができる。
2 管理不全専有部分管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
(管理不全専有部分管理人の報酬等)
第46条の12 管理不全専有部分管理人は、管理不全専有部分等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
2 管理不全専有部分管理人による管理不全専有部分等の管理に必要な費用及び報酬は、管理不全専有部分等の所有者の負担とする。■ 検討(私見)
まず、管理人は、所有者の意思に反して、強引に室内やバルコニーに立ち入って物品を処分することはできないといえます(なお、「法制審議会 民法・不動産登記法部会資料50」【※2】の5頁部分【※3】参照)。
たしかに、管理人は、その管理権に基づいて、所有者の妨害行為の停止を求めることができるでしょう。
しかし、いわゆる自力救済ができるわけではありませんので、管理人としては、所有者を相手方として訴えを提起して、債務名義を得た上で強制執行する必要があります。ちなみに、管理人がボランティア的にそのようなことを行うことはありません。管理人の業務に関しては費用(報酬)が発生しますし、その費用(報酬)については、まずは申立人が立て替える(裁判所に予納金として納める)必要があるでしょう。
さらにいえば、管理人が債務名義を得て強制執行できるとしても、バルコニー内の大量のゴミの処分を管理人自らの手で行うわけではなく、実際は、ゴミ処分業者が手配され、その費用も発生するはずです。つまり、ゴミ処分費用についても、まずは申立人が立て替える(裁判所に予納金として納める)必要があるでしょう。
したがって、必ずしも管理人によってゴミ(注:所有者にとってはゴミではない物品)を処分してもらえるとはいえません。
【※2】「法制審議会 民法・不動産登記法部会資料50」
【※3】「法制審議会 民法・不動産登記法部会資料50」の5頁部分より抜粋
部会資料39の本文第2の1(3)では、管理不全土地管理人が管理を拒まれた場合の対応として、裁判所が土地の引渡しその他の給付を命ずる処分をすることができるとすることを提案していたが、第17回会議では、概ね賛成との意見があった一方で、土地の所有者の権利への配慮の観点から、慎重に検討すべきとの意見もあった。
改めて検討すると、そもそも、土地の所有者が管理不全土地管理人による管理を拒む行為をすることが想定されるケースでは、管理不全土地管理人に管理をさせることが相当ではなく、物権的請求権等の他の方策により是正すべきとも思われることから、そのような阻害行為が想定されるケースの多くは、相当性を欠くとして管理不全土地管理命令が発令されないと考えられる。
また、管理不全土地管理命令が発せられ管理不全土地管理人が選任されたが、その土地の所有者が管理不全土地管理人による土地の立入りを不当に拒んだりすることは、管理人の管理権を侵害するものであり、管理人は、管理権侵害を理由に、訴訟においてその妨害行為の停止を求めることができるし、緊急を要するケースでは、民事保全を活用することも考えられる。
これらを踏まえ、本部会資料では、必要な処分(給付を命ずる処分)に関する規律を置くことについては、提案していない。■ おわりに(補足)
翻って考えてみると、そもそも、裁判所は、「区分所有者による専有部分の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるとき」に管理不全専有部分管理命令をすることができるとされていますので、本件のように区分所有者が管理人による立入り等を拒絶することが明らかな場合に管理不全専有部分管理命令が発令されるかどうか疑問が生じます。
すなわち、法的観点からも、本件においては、直截に、管理組合等が原告となり、相手方(区分所有者)に対し、訴えを提起し債務名義を得て、その債務名義に基づく強制執行により解決する方法(以下「従来の方法」といいます。)をとるのが相当かもしれません。
また、経済的観点(管理組合負担の費用面の観点)からも、結果的に、従来の方法をとる方が、管理不全専有部分管理命令による方法より低額になるかもしれません。
管理組合としては、本件における手続選択から再検討したほうがよいと思われます。
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