専有部分が数人の共有に属する場合の区分所有者(組合員)の数(頭数)と議決権行使との関係
- @lawyer.hiramatsu
- 19 分前
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私は、管理組合の理事長です。将来問題となりそうな想定事例について教えてください。
例えば、101号室と102号室は、いずれもAさんとBさんの共有となっています。ただし、101号室の持分については、Aさんが3分の2、Bさんが3分の1であり、102号室の持分については、Aさんが3分の1、Bさんが3分の2となっています。
(質問1)
上記専有部分は、共有者の持分割合が異なっていますが、いずれもAさんとBさんが共有する専有部分であるため、区分所有者の数(頭数)は「1」としてカウントしてよいでしょうか。
(質問2)
令和8年4月施行の改正区分所有法40条は、「専有部分が数人の共有に属するときは、共有者は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数をもつて、議決権を行使すべき者一人を定めなければならない。」と規定しています。
AさんとBさんは、上記規定を理由として、101号室の議決権行使者をAさん、102号室の議決権行使者をBさんとする旨を届け出て、二人で総会に出席し、某議案に対し、Aさんは反対、Bさんは賛成とする議決権を行使しました。
このような議決権行使を認めるべきでしょうか。
ちなみに、当マンションの管理規約では、専有部分1戸につき1個の議決権を有するものとされています。■ はじめに
令和8年4月施行の改正区分所有法40条は、「専有部分が数人の共有に属するときは、共有者は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数をもつて、議決権を行使すべき者一人を定めなければならない。」と規定しています。
もともと、改正前の40条は「専有部分が数人の共有に属するときは、共有者は、議決権を行使すべき者一人を定めなければならない。」とされており、一般的には、専有部分の共有者の議決権行使者を定めることは共有物の管理に関する事項(民法252条参照)に該当すると考えられていたものの、条文上は明確ではありませんでした。
改正区分所有法40条は、専有部分の共有者の議決権行使者については、各共有者の持分の価格に従い、その過半数をもって決することができる旨を明確にしました。
専有部分が数人の共有に属する場合の区分所有者(組合員)の数(頭数)の数え方については、従前から問題となっていましたが、区分所有法40条の改正がこの問題の結論に直接影響するものではありません。
以下、従前からの考え方を踏まえて、想定事例について検討してみましょう。
■ 質問1について
まず、質問1について検討しましょう。
例えば、101号室と102号室の共有者の人的構成が同一(AさんとBさん)であり、その共有者の持分も同一(例えばいずれも2分の1ずつ)である場合には、区分所有者の数(頭数)を「1」としてカウントすることに問題はないといえます。
しかし、想定事例のように、共有者の人的構成が同一であっても、その共有者の持分が異なる場合には見解が分かれています。
【見解1】
共有者の人的構成が同一であっても、持分という物的構成が異なる以上は、別人として扱うべきとする考え方があります(『改訂新版 マンション管理組合総会運営ハンドブック』高層住宅法研究会編著(大成出版社、2005年)35頁参照)。
仮にこの考え方に従えば、101号室の区分所有者と102号室の区分所有者を別人として扱う結果、頭数は「2」ということになります。
【見解2】
共有者の人的構成が同一ならば、専有部分によって共有者の持分が異なる場合にも、持分割合は考慮されないとする考え方もあります(『マンション管理組合の総会運営の実務』渡辺晋著(大成出版社、2018年)36頁参照)。
仮にこの考え方に従えば、101号室の区分所有者と102号室の区分所有者を同一として扱う結果、頭数は「1」ということになります。
【私見】
私見は、専有部分の所有者(共有者)が誰であるのかに着目して考えますので、【見解2】の考え方をとることになります。
つまり、人的構成が全く同一であれば、区分所有者(組合員)も同一と考えます。
想定事例の質問1に対する回答としては、区分所有者の数(頭数)を「1」としてカウントしてよいということになります。
■ 質問2について
仮に、上記質問1において【見解1】の考え方をとるならば、区分所有者の数(頭数)は「2」となりますので、その2名の区分所有者がそれぞれ異なる議決権を行使することも可能ということになるでしょう。
つまり、【見解1】の考え方をとるならば、そのような議決権行使を認めるべきということなります。
しかし、私見は、上記【見解2】の考え方をとりますので、区分所有者の数(頭数)は1名となります。1名が2個の議決権を有しているとしても、その1名の意思は1つのはずです。1名の区分所有者が賛成の意思と反対の意思を同時に表明することはできないはずです。そのような不明確な意思表示を認めるべきではありません。
つまり、想定事例の質問2に対する回答としては、そのような議決権行使を認めるべきではないということになります。
その意思が統一されない限り、出席者の数を「1」としてカウントした上で(なお、共有者全員が出席している以上、出席者としてはカウントせざるを得ないでしょう。)、その議決権については、賛成・反対のいずれにもカウントできないものとして取り扱わざるを得ないでしょう。
■ 補足
私見の立場からすれば、101号室と102号室の区分所有者により指定される議決権行使者は特定の1名とされるべきなので、議決権行使者として2名の届出がされた段階で、その是正を求めるべきということになります。
しかしながら、AさんやBさんが、上記【見解1】のような考えをもとに、その是正に応じないことが想定されます。
そのような事態を避けるべく、あらかじめ、【見解2】の考え方をベースにした取り扱いのルールを管理規約に定めておくほうがよいでしょう。
■ さいごに(私見)
想定事例を前提として、もう少し検討を広げてみましょう。
(1)議決権行使者の指定(改正区分所有法40条との関係)について
AさんとBさんは、101号室及び102号室の「持分の価格に従い、その過半数」をもって、議決権を行使すべき者一人を定めることになります。いずれの者を議決権行使者と定めても構いません。
その上で、AさんとBさんは連名で議決権行使者を理事長に届け出ることになります(令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)46条3項参照)。
(2)届出された議決権行使者(令和7年改正マンション標準管理規約(単棟型)46条3項)以外の者が総会に出席する場合について
あらかじめ議決権行使者(例えばAさん)の届出がなされている場合において、それ以外の共有者(Bさん)が総会に出席して議決権を行使しようとするとき、BさんはAさんの意思が確認できるもの、例えばAさんからの委任状や、AさんとBさんの連名による議決権行使者の変更届出などを理事長に提出すべきことになります。
(3)議決権行使者の届出がない場合における明確な議決権の行使について
議決権行使者のあらかじめの届出がない場合において、Aさん又はBさんのいずれかが総会に出席して101号室及び102号室の議決権について明確な意思が表明された場合、理事長(議長)としては、特段の事情がない限り、共有者間の協議が調っているものとみて、その者による議決権行使を認めてもよいでしょう。
特段の事情がある場合は、対応に注意しなければなりません。
(4)議決権行使者の届出がない場合における不明確な議決権行使について
議決権行使者のあらかじめの届出がない場合において、Aさん及びBさんの2名が総会に出席し、それぞれが異なる意思を表明したときは、明確な意思が表明されているとはいえません。この点については、想定事例の質問2の場合と同様です。
そのため、理事長(議長)としては、出席者を1名としてカウントした上で、その意思が統一されない限り、賛成・反対のいずれにもカウントできないものとして取り扱わざるを得ないでしょう。
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