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共有物の分割請求について

  • @lawyer.hiramatsu
  • 9月28日
  • 読了時間: 14分

 今回は、以下のような質問について検討します。

 民法256条1項本文には「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。」とあります【※1】。また、民法258条1項には、「共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。」とあります【※2】。
 私(X)は、ある土地の共有者の一人ですが、私(X)はその土地について、いつでも共有物分割請求ができるということでしょうか。もし、共有者間で協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができますか。

 【※1】民法256条

(共有物の分割請求)
第256条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から5年を超えることができない。

 【※2】民法258条

(裁判による共有物の分割)
第258条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
 一 共有物の現物を分割する方法
 二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
3 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
4 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。

■ はじめに


 まず、原則論として、①Xさんは、いつでも共有物分割請求ができますし、②もし、共有者間で協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができます。ただし、例外もありますのでご注意ください。以下、詳説します。


■ 共有物について


 Xさんが共有している土地(本件土地)の詳細が不明なので、一般的な更地をイメージして回答することとします。

 本件土地が共有になっているということは、一つの物の上に複数の所有権が成立しているということですが、そのようになった原因は色々と考えられます。

 例えば、複数人で一つの物を購入して共有となっている場合もあれば、遺産分割の結果、通常の共有となっている場合(東京高裁平成25年7月25日判決【※13】参照)もあるでしょう。


 ちなみに、共有物については、上記の他にも、①遺産分割前の遺産共有状態の相続財産(民法898条1項)【※3】や、②隣接する土地境界線上の境界標・囲障等(民法229条)【※4】、③区分所有建物の共用部分(区分所有法11条)【※5】なども考えられますが、これらの共有状態解消に関しては一定の制限があります(①の相続財産については民法258条の2【※6】、②の境界標等については民法257条【※7】、③の共用部分については区分所有法15条【※8】を参照)。


 【※3】民法898条

(共同相続の効力)
第898条 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
2 相続財産について共有に関する規定を適用するときは、900条から902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。

 【※4】民法229条

(境界標等の共有の推定)
第229条 境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。

 【※5】区分所有法11条

(共用部分の共有関係)
第11条 共用部分は、区分所有者全員の共有に属する。ただし、一部共用部分は、これを共用すべき区分所有者の共有に属する。
2 前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。ただし、第27条第1項の場合を除いて、区分所有者以外の者を共用部分の所有者と定めることはできない。
3 民法第177条の規定は、共用部分には適用しない。

 【※6】民法258条の2

第258条の2 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定による分割をすることができない。
2 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から10年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について同条の規定による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。
3 相続人が前項ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前条第一項の規定による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から2箇月以内に当該裁判所にしなければならない。

 【※7】民法257条

第257条 前条の規定は、第229条に規定する共有物については、適用しない。

 【※8】区分所有法15条

(共用部分の持分の処分)
第15条 共有者の持分は、その有する専有部分の処分に従う。
2 共有者は、この法律に別段の定めがある場合を除いて、その有する専有部分と分離して持分を処分することができない。

■ 共有物分割請求(民法256条)について


(1)共有物分割の自由


 共有者はいつでも共有物の分割を請求することができるとされています(民法256条1項本文【※1】)。

 最高裁昭和62年4月22日判決によれば、共有物分割請求の趣旨・目的について以下のように説明されています。

 「民法256条の立法の趣旨・目的について考察することとする。共有とは、複数の者が目的物を共同して所有することをいい、共有者は各自、それ自体所有権の性質をもつ持分権を有しているにとどまり、共有関係にあるというだけでは、それ以上に相互に特定の目的の下に結合されているとはいえないものである。そして、共有の場合にあっては、持分権が共有の性質上互いに制約し合う関係に立つため、単独所有の場合に比し、物の利用又は改善等において十分配慮されない状態におかれることがあり、また、共有者間に共有物の管理、変更等をめぐって、意見の対立、紛争が生じやすく、いったんかかる意見の対立、紛争が生じたときは、共有物の管理、変更等に障害を来し、物の経済的価値が十分に実現されなくなるという事態となるので、同条は、かかる弊害を除去し、共有者に目的物を自由に支配させ、その経済的効用を十分に発揮させるため、各共有者はいつでも共有物の分割を請求することができるものとし、しかも共有者の締結する共有物の不分割契約について期間の制限を設け、不分割契約は右制限を超えては効力を有しないとして、共有者に共有物の分割請求権を保障しているのである。このように、共有物分割請求権は、各共有者に近代市民社会における原則的所有形態である単独所有への移行を可能ならしめ、右のような公益的目的をも果たすものとして発展した権利であり、共有の本質的属性として、持分権の処分の自由とともに、民法において認められるに至ったものである。」


(2)不分割の契約


 上記のとおり、各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができますが、ただし、5年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることが可能です(民法256条1項ただし書【※1】)。

 この契約(不分割契約)については更新することが可能ですが、その期間も、更新の時から5年を超えることはできません(民法256条2項)。

 ちなみに、もし5年を超える期間の不分割契約をした場合はどうなるでしょうか。この点については全部無効となるという考え方もありますので注意が必要です(ただし、私見は5年を超過している部分が無効(一部無効)となるものと考えます)。

 不分割契約は、共有物の特定承継人に対しても効力を有することとなります(民法254条)【※9】が、不動産の場合においてこの契約を特定承継人に対抗するためには登記(不動産登記法59条6号)【※10】が必要です(東京地裁平成3年10月25日判決参照)。


 【※9】民法254条

(共有物についての債権)
第254条 共有者の一人が共有物について他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる。

 【※10】不動産登記法59条6号

(権利に関する登記の登記事項)
第59条 権利に関する登記の登記事項は、次のとおりとする。
 一 登記の目的
 二 申請の受付の年月日及び受付番号
 三 登記原因及びその日付
 四 登記に係る権利の権利者の氏名又は名称及び住所並びに登記名義人が二人以上であるときは当該権利の登記名義人ごとの持分
 五 登記の目的である権利の消滅に関する定めがあるときは、その定め
六 共有物分割禁止の定め(共有物若しくは所有権以外の財産権について民法(明治29年法律第89号)第256条第1項ただし書(同法第264条において準用する場合を含む。)若しくは908条第2項の規定により分割をしない旨の契約をした場合若しくは同条第1項の規定により被相続人が遺言で共有物若しくは所有権以外の財産権について分割を禁止した場合における共有物若しくは所有権以外の財産権の分割を禁止する定め又は同条第4項の規定により家庭裁判所が遺産である共有物若しくは所有権以外の財産権についてした分割を禁止する審判をいう。第65条において同じ。)があるときは、その定め
七 民法第423条その他の法令の規定により他人に代わって登記を申請した者(以下「代位者」という。)があるときは、当該代位者の氏名又は名称及び住所並びに代位原因
八 第二号に掲げるもののほか、権利の順位を明らかにするために必要な事項として法務省令で定めるもの

 なお、共有者の一人に破産手続が開始された場合には、不分割契約の有無にかかわらず、破産管財人は共有物の分割を請求することができることとなります(破産法52条1項【※11】)。

 破産者の共有持分権は破産財団に属することから、破産管財人はこれを換価する必要があるところ、もしこれを換価できないとすると、破産法の目的が達成できなくなってしまうため、不分割契約がある場合でも破産管財人による分割請求が認められています。もっとも、この破産管財人による分割請求は、破産者の共有持分権を換価するのが目的であることから、他の共有者としては、相当の償金を支払って破産者の持分を取得すること(持分取得請求)が可能です(破産法52条2項)【※11】 。


 【※11】破産法52条

(共有関係)
第52条 数人が共同して財産権を有する場合において、共有者の中に破産手続開始の決定を受けた者があるときは、その共有に係る財産の分割の請求は、共有者の間で分割をしない旨の定めがあるときでも、することができる。
2 前項の場合には、他の共有者は、相当の償金を支払って破産者の持分を取得することができる。

■ 共有物分割請求訴訟(民法258条)について


 共有物の分割について共有者全員による協議による分割ができない場合には、分割を望む共有者は、他の共有者全員を相手方として、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起することができます(民法258条1項【※2】)。

 この訴訟は、固有必要的共同訴訟と解されています。共有者の一部を欠いた共有物分割の協議が無効となるのと同様に、共有者の一部を欠いた当事者による判決の効力も無効となると考えられています。

 つまり、共有者全員が、原告または被告とされている必要がありますが、その共有者(原告または被告)については登記を基準に考えることになります(最高裁昭和46年6月18日判決参照)。


 共有物分割請求訴訟の性質については、一般的には形式的形成訴訟と考えられており、共有の解消という権利変動を目的とする形成訴訟の性質を有する一方で、その法律要件(形成原因)が定まっていないため、実質的には弁論主義の適用のない非訟手続であると説明されたりします。

 最高裁平成25年11月29日判決では、「民法258条に基づく共有物分割訴訟は、その本質において非訟事件であって、法は、裁判所の適切な裁量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性質や共有状態の実情に適合した妥当な分割が実現されることを期したものと考えられる」と説示されています。


 共有物分割請求訴訟が提起されると、裁判所は、法が許容する方法によって共有物を分割することになります。具体的には、現物分割の方法(民法258条2項1号【※2】)、価額賠償(代償分割)による方法(民法258条2項2号【※2】)、競売(換価分割)による方法(民法258条3項【※2】)により共有物が分割されます。また、裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることもできます(民法258条4項【※2】)。

 なお、当事者が分割方法を主張しても、裁判所はそれに拘束されることはありません(最高裁昭和57年3月9日判決【※12】参照)。

 民法258条の共有物分割の基準についての明文規定はありませんが、裁判所としては、共有者間の公平を保ちつつ、当該共有物の性質や共有状態の実情、共有者の利用状況、共有者の属性、当事者の分割方法に関する希望などを総合的に考慮して判断しているものと思われます。


 【※12】最高裁昭和57年3月9日判決

 共有物分割の訴えにおいては、当事者は、単に共有物の分割を求める旨を申し立てれば足り、分割の方法を具体的に指定することは必要でないとともに、共有物を現物で分割することが不可能であるか又は現物で分割することによって著しく価格を損するおそれがあるときには、裁判所は、当事者が申し立てた分割の方法にかかわらず、共有物を競売に付しその売得金を共有者の持分の割合に応じて分割することを命ずることができるものと解するのが相当である。

 ちなみに、遺産分割の基準については民法906条に明文規定があり、「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」とされています。


■ 例外(共有物分割請求が認められないケース)


 前述の有効な不分割契約が存在している場合には、共有物分割請求は認められません。

 また、民法の一般原則である信義則や権利濫用法理の適用によって、共有物分割請求が認められないこともあります(東京高裁平成25年7月25日判決【※13】参照)。


 【※13】東京高裁平成25年7月25日判決の要旨

(本件の事案の概要)
 亡Aの共同相続人の一人であるX(一審原告)が、亡Aが相続開始の時において有した本件建物について、他の共同相続人であるY(一審被告)及びBとの間で分割の協議が調い、本件建物をX及びYが共有していると主張し、その分割を裁判所に請求した事案であり、原審(横浜地方裁判所)は、Xが本件建物の分割を請求することは権利の濫用に当たるとしてXの請求を棄却したところ、Xはこれを不服として控訴した。

(控訴審である東京高裁の判断の要旨)
 本件において分割の対象となる共有物は、床面積63.93平方メートルの区分建物であるから、現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときに該当する。
 Xが求める分割方法、すなわち、本件建物をYの単独所有とし、YからXに対して持分の価格を賠償させる方法については、Yが本件建物を生活の本拠としていること等からすれば、本件建物をYの単独所有とすることが相当でないとはいえないが、本件建物の価格は固定資産税評価額によっても1000万円を超え、本件建物を取得することとなるYにXの持分価格の賠償金の支払能力があるとは認められないから、採用することはできない。
 したがって、裁判所は、本件建物の競売を命ずるほかないこととなる。
 ところで、X、Y及びBの間に、遅くとも東京都品川区〈以下省略〉所在の区分建物につき所有者をYとする所有権移転登記がされた平成18年3月24日までには、Aの遺産についての分割の協議が調い、X及びYは、本件建物の持分2分の1ずつを共有取得したと認められるところ、Xが、その頃、アパートを賃借し、本件建物から賃借アパートに転居したことやその他の事実を総合すれば、X、Y及びBは、Yはその存命中は本件建物に居住し、公的年金、東京都品川区〈以下省略〉所在の区分建物に係る賃料収入等をもって生計を維持し、他方で、Xは、Yとは別居して賃借アパートに居住し、主として生活保護によって生計を維持することを前提として、Aの遺産についての分割の協議をしたものと推認することができる。Yも、X、Y及びBの間では、本件建物でYが余生を送ることが当然の前提(共通認識)になっていたと考えている。
 そうすると、本件建物の競売を命ずる場合には、上記前提を覆すことになるところ、Aの遺産についての分割の協議が調った平成18年3月当時も現在も、Yは、本件建物に居住し、公的年金、東京都品川区〈以下省略〉所在の区分建物に係る賃料収入等をもって生計を維持しており、他方で、Xは、賃借アパートに居住し、主として生活保護によって生計を維持しているから、平成18年3月当時から現在までの間にX及びYにつき重大な事情の変更があったとは認められない。
 また、Xは、本件建物の分割を求める理由として外語専門学校に入通学するための資金取得等を挙げるが、Xの生活歴、Yに金銭を要求する際の強迫的言辞その他のYに対する言動からみて、現時点でも、Xに安定した通学、就労等を期待することは困難であるといわざるを得ず、また、Xが、外語専門学校への入通学等について、上記前提を覆してまで実現すべき堅固な意思を有しているとも認められない。
 以上を総合すれば、Xの本件建物の分割の請求は、X、Y及びBが本件建物をX及びYの共有取得とする際に前提とした本件建物の使用関係(Yが存命中本件建物を使用すること)を合理的理由なく覆すものであって、権利の濫用に当たるというべきである。

■ おわりに


 本稿においては土地(更地)共有をイメージして解説しましたが、実際には、土地上に1棟又は複数棟の建物が存在していることもあり得るでしょうし、また、区分所有法が関係してくるケースもあり得るでしょう。

 区分所有法が関係してくるケース(建物所有者間における敷地の分割請求)については、別の記事「戸建てのみの団地建物所有者が共有する土地の共有物分割請求について」もご参照いただけると幸いです。




 
 
 

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