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  • @lawyer.hiramatsu

マンションの共用部分の工作物責任に基づく損害賠償金の支払について

 今回は以下のような相談(「本件」といいます。)について検討します。

 マンション共用部分からの漏水(設置・保存に欠陥があったことが原因)により、一人の区分所有者に損害を生じさせた場合、その賠償金の支払を管理組合会計(例えば管理費会計)から支出することはできますか。

■ 結論


 本件は、裁判等の法的手続を経ていない状況(ただし、管理組合側と被害者側において話し合いは成立している状況)下で、管理組合側から被害者側に対する賠償金を支払う場面における相談だと思われます。賠償金の額については争いがないものと思われます。

 結論として、本件の管理組合による支払は「共用部分の管理に関する事項」に該当するといえますので、管理規約の定め又は集会(総会)の決議があれば可能と考えます。

 本件については総会決議を経ておけばよいでしょう。


■ 解説


 工作物責任(民法717条1項)との関係におけるマンション共用部分の占有者については、2021年12月26日付の記事で裁判所の判断の傾向を紹介しました。

 その後の裁判(判決)においても共用部分の「占有者」についての判断(解釈)は分かれている状況です【※1】【※2】。

 判決によって管理組合に支払が命じられた場合には管理組合として支払うべきであるのは当然ですが、本件は管理組合に支払を命じる判決が言い渡されているわけではありません。そこで、ご相談のような疑問が生じたのでしょう。

 結論は前記のとおりです。

 仮に、区分所有者全員が占有者に該当する(管理組合は占有者に該当しない)として区分所有者全員が賠償責任を負うべき場合であっても、その賠償責任の履行について、規約の定め又は集会の決議により管理組合として団体的になすことは可能と考えます(『新しいマンション法』法務省民事局参事官室編(商事法務、1983年)112頁参照)。


 【※1】東京地判令和4年12月23日(事件番号:平成28年(ワ)第41727号)

 管理組合が「占有者」に当たるとされた一方、区分所有者は占有者責任を負わないとされた事案


 裁判所の判断の要旨

 民法717条1項は、土地工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときに第一次的に責任を負う者を「占有者」と定めている。その趣旨は、「占有者」が、損害の発生を防止するのに必要な注意を直接払うことができる地位にあるからであると解されることからすると、ここにいう「占有者」とは、被害者に対する関係で当該工作物を支配管理し又はすべき地位にあるものをいうと解するのが相当である。
 区分所有法上、区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うための管理団体を構成し、当該管理団体が区分所有物の共用部分を管理することが予定されており(区分所有法3条、18条)、また、被告管理組合は、その規約において、本件排水管を含む共有物の維持、修理、取替え等の管理を業務として行うこととし、実際にも、被告管理組合の管理費用をもって、排水管の定期点検、清掃、修繕等を実施していた。これらの事情に照らせば、被告管理組合は、本件排水管を支配管理していたというべきであり、したがって、民法717条1項にいう「占有者」に当たると解するのが相当である。
 そして、本件排水管が本件マンションの工作物であるところ、本件排水管が老朽化のため腐食していたことにより平成27年11月初旬事故が発生しており、本件排水管の管理に瑕疵があったことは明らかである。
 したがって、被告管理組合は、本件排水管について、民法717条1項本文に基づく占有者責任を負う。

 共有部分である本件排水管を管理しているのは管理団体である被告管理組合であり、管理者である者はその機関にすぎないから民法717条1項にいう「占有者」には当たらない。
 また、その管理者は区分所有者でもあるが、本件排水管の「占有者」として、その設置又は管理の瑕疵について一次的に責任を負うのは被告管理組合であるから、その管理者(区分所有者)は、民法717条1項本文に基づく占有者責任を負わない。

 【※2】東京地判令和4年12月27日(事件番号:令和元年(ワ)第13244号)

 区分所有者全員が「占有者」であるとされた一方で、管理規約の規定を根拠として管理組合も民法717条1項本文に基づく損害賠償債務を履行する責任を負うとされた事案

 なお、被害者も共用部分の持分を有する区分所有権者であることから、被害者から管理組合に対する請求については、その被害者の持分に相当する額を控除した額(①)が認容されており、また、被害者から特定の区分所有者に対する請求については、上記①のうち当該特定の区分所有者の持分の限度で認容(管理組合とは連帯)とされている。


 裁判所の判断の要旨

 瑕疵は躯体部分に認められるところ、本件規約上、本件建物の主体構造部は共用部分に含まれることが認められることからすれば、瑕疵が認められる部分の占有者は、当該部分を共有する本件建物の区分所有者全員であるということができる。
 本件建物の北側外壁のコンクリート躯体部分は、本件建物の区分所有者全員が占有しているものであり、その部分に存する隙間ないし亀裂を放置している以上、占有者である本件建物の区分所有者全員に保存の瑕疵があるものといわざるを得ない。そうすると、本件建物の区分所有者全員が、原告に対し、不真正連帯債務の形で民法717条1項本文に基づく損害賠償債務を負うものと解すべきである。
 区分所有建物の区分所有者が、区分所有者全員からなる組合を構成する目的には、区分所有建物の共有部分の管理・修繕のみならず、権利関係が複雑化することを防ぐべく、共用部分の使用により生じる権利義務関係の処理を組合に一本化することがあると考えられ、当該目的を達成するために、区分所有建物の区分所有者は、集会での決議や組合の管理規約において、その方法や範囲を定めるものであると解される。そうすると、区分所有建物の区分所有者全員からなる管理組合の管理規約に、同組合が共用部分を管理し、その修繕を同組合の負担において行う旨の定めがあるときは、この定めは、区分所有者全員が、同組合に対し、共用部分の保存の瑕疵により第三者が損害を被った場合に発生することとなる民法717条1項に基づく損害賠償債務について、それを履行する権限を付与するという趣旨を含むものと解するのが相当である。
 本件規約31条は、被告組合がその管理する共用部分の修繕を行うものとし、20条は、共用部分の管理を被告組合がその負担においてこれを行う旨を定めていることが認められるところ、これらの定めによれば、共用部分の管理・修繕は、被告組合の負担においてこれを行うものとされ、負担の時期及び負担額に制限を設けていない。以上からすれば、被害者が本件建物の区分所有者に対して共用部分の工作物責任に基づく損害賠償債務の履行を求めた際に、被告組合が当該債務全額を履行する権限を付与されたものと認めることができる。そうすると、原告は、区分所有者全員が占有する共用部分の設置管理の瑕疵により生じた本件事故に関し、被告組合に対して民法717条1項本文に基づく損害賠償請求をすることができるものと解すべきである。
 本件事故の原因箇所は共用部分であるコンクリート躯体部分の隙間ないし亀裂であり、保存の瑕疵があったということができることからすれば、被告組合は、原告に対し、民法717条1項本文に基づいて、本件事故と相当因果関係のある損害につきその賠償義務を履行する義務を負うものというべきである。

 原告自身も共有者(区分所有者の1人)であるが、民法717条1項にいう「他人」には該当する。当該共有者も持分の限度で損害を負担すべきではあるものの、他の共有者に対して同項に基づく請求そのものが妨げられることはない。

 本件建物の区分所有者の被告組合に対する債務の履行権限の付与は、区分所有者個人に対する請求を妨げるものではないと解される。
 他方で、民法717条1項本文に基づく区分所有者全員の損害賠償債務は不真正連帯債務であるところ、本件のように、区分所有建物の保存の瑕疵に基づく損害賠償請求がなされるとき、請求者が当該建物の区分所有者である場合には、その者は、債権者であると同時に不真正連帯債務者という立場におかれる。このような場面は、連帯債務者が一旦全ての債務を履行し、他の連帯債務者に対して求償権を行使する場面と類似するから、当該請求者から他の区分所有者に対する上記債務の請求は、当該他の区分所有者の負担割合(持分)の限度でなすことができるにとどまるものと解するのが相当である。



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