区分所有法7条の先取特権に基づく動産競売について
- @lawyer.hiramatsu
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【質問】
私は、マンション管理組合の理事長です。当マンションに管理費等を滞納している区分所有者(兼居住者)がいます。当該滞納者が所有する建物(不動産)について先取特権【※1】に基づき不動産競売を実行しようと考えています。そのため、まずは、先取特権に基づく動産競売の申立てをする予定ですが、この動産競売申立ての手続について教えてください。【※1】区分所有法7条
(先取特権)
第7条 区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
2 前項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなす。
3 民法第319条の規定は、第1項の先取特権に準用する。■ はじめに
今回のご質問の事案(以下「本件」といいます。)の背景として、管理組合は当該滞納者が所有する建物(不動産)について担保不動産競売を実行しようというお考えがあるようです。
つまり、本件の動産競売の目的は、民法306条一号、335条1項【※2】との関係で、動産について競売を実行してみたものの弁済(満足)を得られないという事実を明らかにするためのようです。
そこで、本稿においては、その目的に向けた手続について検討します。
【※2】民法306条一号、335条1項
(一般の先取特権)
第306条 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
一 共益の費用
二~五(略)
(一般の先取特権の効力)
第335条 一般の先取特権者は、まず不動産以外の財産から弁済を受け、なお不足があるのでなければ、不動産から弁済を受けることができない。
2~4(略)なお、管理組合がすでに債務名義【※3】をお持ちの場合には、強制執行としての動産執行を申し立てることもできますが、それ(債務名義に基づく動産執行)を検討されていないということは、管理組合は債務名義をお持ちではないのでしょう。
本稿で、「動産競売」というときは、動産を目的とする担保権の実行としての競売を指し、「動産執行」というときは、動産を対象としてなす債務名義【※3】に基づく強制執行を指します。
【※3】債務名義について
債務名義とは、強制執行を開始するための根拠となる法定の文書であり、民事執行法22条各号に債務名義となる文書が規定されています。
代表的なものとして以下のようなものがあります。
① 確定判決(1号)や仮執行宣言付判決(2号)
② 仮執行宣言付支払督促(4号)
③ 執行証書(金銭の一定額の支払等を目的とし、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載された公正証書)(5号)
④ 和解調書や調停調書(7号)■ 概説
動産競売は、(ⅰ)債権者が執行官に目的動産を提出した場合(民事執行法190条1項一号)、(ⅱ)債権者が執行官に占有者の差押承諾を証する文書を提出した場合(同項二号)、(ⅲ)債権者が執行官に執行裁判所の競売開始許可決定書の謄本を提出し、執行官による捜索に先立って又はこれと同時に当該許可決定が債務者に送達された場合(同項三号)に限り、開始されることになります【※4】。
区分所有法7条1項の先取特権の実行としての動産競売は、債権者が執行官に目的動産を提出すること(190条1項一号)や債権者が執行官に占有者の差押承諾を証する文書を提出すること(190条1項二号)は難しいでしょうから、190条1項三号によることになります。
すなわち、(1)債権者が執行裁判所(地方裁判所)に競売開始の許可を求め、(2)執行裁判所が動産競売開始を許可し、(3)債権者がその許可決定書謄本を執行官に提出して競売を申し立てることになります。そして、(4)執行官による立入り捜索に先立って又はこれと同時に当該許可の決定が債務者に送達されている必要があります。(5)その送達後(執行官による同時送達も含む)、執行官による捜索・差押えが行われることになります。
【※4】民事執行法190条
(動産競売の要件)
第190条 動産を目的とする担保権の実行としての競売(以下「動産競売」という。)は、次に掲げる場合に限り、開始する。
一 債権者が執行官に対し当該動産を提出した場合
二 債権者が執行官に対し当該動産の占有者が差押えを承諾することを証する文書を提出した場合
三 債権者が執行官に対し次項の許可の決定書の謄本を提出し、かつ、第192条において準用する第123条第2項の規定による捜索に先立つて又はこれと同時に当該許可の決定が債務者に送達された場合
2 執行裁判所は、担保権の存在を証する文書を提出した債権者の申立てがあつたときは、当該担保権についての動産競売の開始を許可することができる。ただし、当該動産が第123条第2項に規定する場所又は容器にない場合は、この限りでない。
3 前項の許可の決定は、債務者に送達しなければならない。
4 第2項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。実例をもとにした流れとしては以下のようになります。参考用に日付も付記しておきます。
(1)管理組合による動産競売の開始許可申立て(5月20日)
(2)裁判所による動産競売開始許可決定(5月23日)
(3)管理組合から執行官に対する動産競売の申立て(6月18日)
(4)動産競売開始許可決定の債務者への送達(8月28日)
(5)執行官による執行場所への立入り捜索等(10月11日)
■ 詳説
債務名義【※3】に基づく動産執行の対象となる動産は、建物に備え付けた動産(区分所有法7条1項参照)に限定されません。
他方、担保権(実体法上の権利)の実行としての動産競売については、その担保目的財産が実体法上定まっている関係で、競売対象財産も限定されます。例えば、区分所有法7条1項に基づく先取特権は、「債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に」有していることから、この先取特権による動産競売の対象は「建物に備え付けた動産」ということになります。ただし、「建物に備え付けた動産」の解釈に関しては争いがあります(『コンメンタール マンション区分所有法(第3版)』稻本洋之助・鎌野邦樹著(日本評論社、2015年)62頁参照)。この解釈論についてはここでは割愛します。
区分所有法7条1項の先取特権は、優先権の順位及び効力については共益費用の先取特権とみなされます(区分所有法7条2項)【※1】【※2】。
民事執行法は、第二章第二節第三款において「動産に対する強制執行(122条~142条)」を規定し、第三章において「担保権の実行としての競売等(180条~195条)」を規定しています。そして、第三章の中の190条において「動産競売の要件」【※4】、191条において「動産の差押えに対する執行異議」、192条で「動産執行の規定の準用」【※5】について規定しています。
【※5】民事執行法192条
(動産執行の規定の準用)
第192条 前章第二節第三款(第123条第2項、第128条、第131条及び第132条を除く。)及び第183条の規定は動産競売について、第128条、第131条及び第132条の規定は一般の先取特権の実行としての動産競売について、第123条第2項の規定は第190条第1項第三号に掲げる場合における動産競売について準用する。すなわち、民事執行法192条により、①動産競売全般について、第二章第二節第三款(122条から142条のうち、123条2項、128条、131条及び132条を除いた規定)及び183条の規定が準用され、②一般の先取特権の実行としての動産競売については128条、131条【※6】及び132条の規定も追加して準用され、さらに、③190条1項三号に掲げる場合における動産競売については123条2項【※7】の規定も追加して準用されます。
【※6】民事執行法131条
(差押禁止動産)
第131条 次に掲げる動産は、差し押さえてはならない。
一 債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
二 債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料
三 標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭
四 主として自己の労力により農業を営む者の農業に欠くことができない器具、肥料、労役の用に供する家畜及びその飼料並びに次の収穫まで農業を続行するために欠くことができない種子その他これに類する農産物
五 主として自己の労力により漁業を営む者の水産物の採捕又は養殖に欠くことができない漁網その他の漁具、えさ及び稚魚その他これに類する水産物
六 技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)
七 実印その他の印で職業又は生活に欠くことができないもの
八 仏像、位牌その他礼拝又は祭祀に直接供するため欠くことができない物
九 債務者に必要な系譜、日記、商業帳簿及びこれらに類する書類
十 債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物
十一 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具
十二 発明又は著作に係る物で、まだ公表していないもの
十三 債務者等に必要な義手、義足その他の身体の補足に供する物
十四 建物その他の工作物について、災害の防止又は保安のため法令の規定により設備しなければならない消防用の機械又は器具、避難器具その他の備品【※7】民事執行法123条
(債務者の占有する動産の差押え)
第123条 債務者の占有する動産の差押えは、執行官がその動産を占有して行う。
2 執行官は、前項の差押えをするに際し、債務者の住居その他債務者の占有する場所に立ち入り、その場所において、又は債務者の占有する金庫その他の容器について目的物を捜索することができる。この場合において、必要があるときは、閉鎖した戸及び金庫その他の容器を開くため必要な処分をすることができる。
3 執行官は、相当であると認めるときは、債務者に差し押さえた動産(以下「差押物」という。)を保管させることができる。この場合においては、差押えは、差押物について封印その他の方法で差押えの表示をしたときに限り、その効力を有する。
4 執行官は、前項の規定により債務者に差押物を保管させる場合において、相当であると認めるときは、その使用を許可することができる。
5 執行官は、必要があると認めるときは、第3項の規定により債務者に保管させた差押物を自ら保管し、又は前項の規定による許可を取り消すことができる。前述したように、区分所有法7条1項の先取特権は、優先権の順位及び効力については共益費用の先取特権とみなされます(区分所有法7条2項)ので、私見としては、一般の先取特権と同様、民事執行法131条(差押禁止動産)【※6】の規定が準用されると考えます。
また、前述したように、区分所有法7条1項の先取特権の実行としての動産競売は、民事執行法190条1項三号によらざるを得ないでしょうから、123条2項(執行官の立入り捜索等)【※7】の規定も準用されます。
そのため、手続の流れは以下のようになります。
(1)管理組合による動産競売の開始許可申立て
債権者(管理組合)は、目的動産の所在地(すなわち本件の建物の所在地)を管轄する地方裁判所に、担保権存在証明文書(民事執行法190条2項)【※4】を提出し、動産競売開始許可の申立てを書面で行います。
管理組合は、区分所有法7条1項【※1】に基づき、建物に備え付けた動産の上に先取特権を有することになりますが、動産の所在場所を特定した上で包括的な競売開始許可を求めることになるでしょう。
(2)裁判所による動産競売開始許可決定
上記(1)の債権者(管理組合)の提出文書が担保権の存在を証するに足りる場合には、民事執行法190条2項ただし書に該当しない限り、裁判所により動産競売開始許可決定がなされるでしょう(民事執行法190条2項【※4】)。
(3)管理組合から執行官に対する動産競売の申立て
動産競売は執行官が行います(動産競売の執行機関は執行官となります)ので、債権者(管理組合)は、執行官に対して、動産競売申立てを書面で行います。その際、動産競売開始許可決定謄本も提出しなければなりません(民事執行法190条1項三号【※4】)。
(4)動産競売開始許可決定の債務者への送達
動産競売開始許可決定は債務者に送達しなければなりません(民事執行法190条3項)。
民事執行法192条において準用する123条2項の規定による執行官の立入り捜索(執行官が、債務者の住居その他債務者の占有する場所に立ち入り、その場所において目的物を捜索すること)は、その捜索に先立って又はこれと同時に当該許可の決定が債務者に送達された場合に限り行うことができます。
その送達については、執行官による同時送達も可能です。しかし、現実的には、執行官による同時送達が不可能な場合もあります。そこで、執行官による送達(同時送達)ではなく、原則的な特別送達、書留郵便等に付する送達(民事訴訟法107条)等によるべきこともあります。
前掲の実例は、執行官による同時送達が不能であったことから、最終的に書留郵便等に付する送達がなされたケースです。
(5)執行官による執行場所への立入り捜索等
執行官による立入り捜索に先立って動産競売開始許可決定が債務者に送達されている場合、執行官は、例えば解錠技術者に解錠させて建物内に立ち入り、執行の目的物を捜索して差押えをすることができます。
ただし、前述したように私見は差押禁止動産の規定(民事執行法131条【※6】)が準用されると考えます。また、民事執行法192条【※5】によって129条の規定【※8】も準用されます。
滞納者が居住する建物内に換価価値のある動産はほとんどないでしょうから、最終的に、「差押禁止動産以外の差押さえるべき動産の売得金で手続費用を弁済して、剰余を生ずる見込みがない。」という事由で執行不能に終わるケースが多いでしょう(民事執行法129条1項【※8】参照)。
前掲の実例も、このような事由で執行不能に終わっています。
【※8】民事執行法129条
(剰余を生ずる見込みのない場合の差押えの禁止等)
第129条 差し押さえるべき動産の売得金の額が手続費用の額を超える見込みがないときは、執行官は、差押えをしてはならない。
2 差押物の売得金の額が手続費用及び差押債権者の債権に優先する債権の額の合計額以上となる見込みがないときは、執行官は、差押えを取り消さなければならない。■ おわりに
本件の管理組合の目的が、動産競売を実行してみたものの弁済(満足)を得られないという事実を明らかにすることにあるのだとすれば、その目的を達成することは可能だと思います。
しかし、管理組合の目的が別のところにあるとすれば、他の手続について検討されるべきでしょう。
また、もし弁護士への依頼を前提とされているようでしたら、その弁護士に対する費用も発生するでしょう。そのため、その弁護士と他の選択肢も含めて十分に相談・協議され、その上で進められたほうがよいと思います。
(弁護士/平松英樹)
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