管理組合の理事長個人の応訴費用(弁護士費用)の負担について
【質問】
管理組合の理事長個人が理事長としての業務遂行に関わる行為について訴訟の被告とされた事件(以下「個人被告事件」といいます。)の応訴費用(弁護士費用)を管理組合が負担する旨を総会で決議した場合、そのような総会決議は無効でしょうか。■ はじめに
個人被告事件の応訴費用(弁護士費用)を管理組合が負担する旨を総会で決議した場合、後日、組合員から管理組合を被告として総会決議無効確認の訴え(以下「決議無効確認訴訟」といいます。)を提起されることがあります。
本稿においては、ご質問にある総会決議をすることが、①区分所有法に反するのか、②当該マンションの管理規約に反するのかという点を実体的な側面から検討します。
なお、以下において「標準管理規約」というときは、令和7年10月17日改正のマンション標準管理規約(単棟型)を指します。
■ 検討
(1)区分所有法に反するのか
区分所有法30条1項は、「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」と定めています。
区分所有法は、区分所有者の団体の私的自治として、区分所有者相互間の事項については規約で定めることを認めていますので、団体の役員の業務の遂行又はこれに関わる行為に関する費用の負担に関しても団体の自治に委ねられていると解されます(後記東京高判平成24年5月31日参照)。
(2)当該マンションの管理規約に反するのか
ご質問のマンションの管理規約の内容は不明なので、標準管理規約を例に検討することとします。
標準管理規約27条十号は管理費の使途として「管理組合の運営に要する費用」を挙げています。
標準管理規約37条2項は、「役員は、別に定めるところにより、役員としての活動に応ずる必要経費の支払と報酬を受けることができる。」と定めており、役員活動費の額及び支払方法については総会決議事項としています(標準管理規約48条2号参照)。
このようなことからすると、管理組合の理事長としての業務の遂行又はこれに関わる行為に関して訴えを提起された場合にその応訴費用を管理組合が必要経費として支払うことは可能であると解されますし、そのための総会決議を行うことも管理規約上想定されているといえます。
■ 参考裁判例
参考となる裁判例として東京高判平成24年5月31日(2012WLJPCA05316011)があります。その原審は東京地判平成23年11月25日(2011WLJPCA11258021)です。
この事案は、区分所有者が理事らを被告として提起した訴訟(名誉毀損等)の応訴費用を管理組合が負担する旨の総会決議について、区分所有者が管理組合を被告(被控訴人)としてその無効確認を求めたものですが、裁判所は、当該総会決議について、公序良俗に反するとも違法であるともいえないと判断し、結論として原告(控訴人)の請求を排斥しています。
控訴審(東京高裁)の判断を整理すると、概要以下のとおりです。
① 弁論の全趣旨により認められる経緯及び内容に照らし、この訴訟に要する費用を管理組合が負担することは、本件マンションの管理組合の理事としての業務の遂行ないし業務の遂行に関わる行為に関する費用の負担であり、管理組合の自治に委ねられた支出であるということができ、適法な手続による総会決議に基づいてこれを支出することとしたのであるから、これをもって公序良俗に反するとか、違法である等ということはできない。
② (区分所有法19条は共用部分の管理の負担についての規定であり、共用部分の管理以外の支出(負担)は同条の対象とならないとの原告(控訴人)の主張に対して)区分所有法19条は、「各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。」と定め、また、同法30条1項は、「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。」と定めて、区分所有者の団体の私的自治として、区分所有者相互間の事項について規約で定めることを認めている。そして、本件管理規約においては、管理費の使途として、敷地及び共用部分の通常の管理に要する費用、組合の役員活動費、その他組合の運営に要する費用等を挙げているのであるから、共用部分の管理のための支出のみならず、マンションの維持・管理を円滑・適正に行うための支出として総会又は管理組合のその他の機関が適正な手続により決定した支出も、管理組合の自治に委ねられた正当な支出であるということができる。
③ (個人として訴えられた者について、管理組合が訴訟費用を支出することはできないとの原告(控訴人)の主張に対し)管理組合の役員個人が民事訴訟の被告になっているという理由のみから、管理組合が訴訟費用を支出することはできないということはできない。■ おわりに
ご質問にある個人被告事件で問題とされていることが理事長としての業務の遂行又はこれに関わる行為に関することであり、当該マンションの管理規約の規定からもその応訴費用を管理組合が支払うことが可能といえる場合において、適法な手続に基づき総会決議が成立したのであれば、その総会決議が無効となる理由はないでしょう。
ちなみに、手続的な側面に関し、決議無効確認訴訟の原告から、①個人被告事件の被告とされた理事長は総会提出議案を決議する理事会(標準管理規約54条1項4号参照)の議決に加わることはできない(標準管理規約53条3項参照)といった主張や、②個人被告事件の被告とされた理事長は当該総会の議長(標準管理規約42条5項参照)となることはできないといった主張が出ることもあり得ますので、留意しておいたほうがよいでしょう。
(弁護士/平松英樹)
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