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間接強制の手続の流れについて

  • @lawyer.hiramatsu
  • 14 分前
  • 読了時間: 10分
 別稿の直接強制、代替執行、間接強制について(概説)において、間接強制を概説しました。今回は、間接強制の手続の流れについて解説します。

■ はじめに


 訴訟において、原告が、被告に対し、一定の不作為を請求し(例えば、「被告は、●●●●してはならない。」という請求)、その請求を認容する判決(便宜上「本件判決」といいます。)が言い渡されている(判決に仮執行宣言が付されているか判決が確定している)にもかかわらず、その後も、被告(以下「債務者」といいます。)が不作為義務を履行しない場合、原告(以下「債権者」といいます。)としてはその判決を債務名義(民事執行法22条【※1】)とする強制執行について検討することになるでしょう。

 その強制執行方法として間接強制(民事執行法172条【※2】)が考えられます。つまり、相手方(債務者)が判決で命じられた不作為義務を履行しないときに一定の金銭の支払を命じて債務者に心理的経済的圧力をかけて債務者の自発的な履行を促す方法を検討することになるでしょう。

 ちなみに、民事執行法172条【※2】は、直接強制も代替執行もできない債務(不代替的作為債務・不代替的不作為債務)について規定していますが、民事執行法173条1項【※3】の規定により間接強制の対象範囲は拡張され、直接強制が可能な物の引渡・明渡債務や代替執行が可能な作為・不作為債務についても間接強制の方法を利用することは可能です。


 【※1】民事執行法22条

(債務名義)
第22条 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
 一 確定判決
 二 仮執行の宣言を付した判決
 三 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
 三の二~七(略)

 【※2】民事執行法172条

(間接強制)
第172条 作為又は不作為を目的とする債務で前条第1項の強制執行ができないものについての強制執行は、執行裁判所が、債務者に対し、遅延の期間に応じ、又は相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずる方法により行う。
2 事情の変更があつたときは、執行裁判所は、申立てにより、前項の規定による決定を変更することができる。
3 執行裁判所は、前2項の規定による決定をする場合には、申立ての相手方を審尋しなければならない。
4 第1項の規定により命じられた金銭の支払があつた場合において、債務不履行により生じた損害の額が支払額を超えるときは、債権者は、その超える額について損害賠償の請求をすることを妨げられない。
5 第1項の強制執行の申立て又は第2項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
6 前条第2項の規定は、第1項の執行裁判所について準用する。

 【※3】民事執行法173条

第173条 第168条第1項、第169条第1項、第170条第1項及び第171条第1項に規定する強制執行は、それぞれ第168条から第171条までの規定により行うほか、債権者の申立てがあるときは、執行裁判所が前条第1項に規定する方法により行う。この場合においては、同条第2項から第5項までの規定を準用する。
2 前項の執行裁判所は、第33条第2項各号(第一号の二、第一号の三及び第四号を除く。)に掲げる債務名義の区分に応じ、それぞれ当該債務名義についての執行文付与の訴えの管轄裁判所とする。

■ 間接強制手続の流れ


(1)間接強制の申立て


 債権者が、本件判決を債務名義として、間接強制の申立てをする場合を考えてみましょう。

 間接強制の申立てについては東京地方裁判所民事21部のウェブサイト【※4】の該当部分や「間接強制(通常事件)申立てQ&A」が参考になります。

 上記のQ&Aにもあるように、間接強制申立ての前に、執行文の付与(民事執行法26条)や送達証明書を取得しておく必要があります。間接強制申立ての際に必要な書類もQ&Aに掲げられています。


 【※4】東京地方裁判所民事21部のウェブサイト


 ところで、Q&Aに掲げられている必要書類の一つに、「不作為義務違反があった場合、その違反の事実が債務名義成立後にされたものであることの証明書類 例 写真撮影報告書」とあります。この段階において、債権者はどのような立証を求められるのかが問題となります。

 この点に関しては、最高裁平成17年12月9日決定【※5】が参考になります。

 つまり、不作為を目的とする債務についての間接強制決定(民事執行法172条1項【※2】)の段階においては、債権者は、債務者が現にその不作為義務に違反していることを立証する必要はありませんが、債務者がその不作為義務に違反するおそれがあることを立証する必要はあります。ただし、その「おそれ」については高度のがい然性や急迫性に裏付けられたものである必要はないと解されています。


 【※5】最高裁平成17年12月9日決定

 不作為を目的とする債務の強制執行として民事執行法172条1項所定の間接強制決定をするには、債権者において、債務者がその不作為義務に違反するおそれがあることを立証すれば足り、債務者が現にその不作為義務に違反していることを立証する必要はないと解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。
 間接強制は、債務者が債務の履行をしない場合には一定の額の金銭を支払うべき旨をあらかじめ命ずる間接強制決定をすることで、債務者に対し、債務の履行を心理的に強制し、将来の債務の履行を確保しようとするものであるから、現に義務違反が生じていなければ間接強制決定をすることができないというのでは、十分にその目的を達することはできないというべきである。取り分け、不作為請求権は、その性質上、いったん債務不履行があった後にこれを実現することは不可能なのであるから、一度は義務違反を甘受した上でなければ間接強制決定を求めることができないとすれば、債権者の有する不作為請求権の実効性を著しく損なうことになる。間接強制決定の発令後、進んで、前記金銭を取り立てるためには、執行文の付与を受ける必要があり、そのためには、間接強制決定に係る義務違反があったとの事実を立証することが求められるのであるから(民事執行法27条1項、33条1項)、間接強制決定の段階で当該義務違反の事実の立証を求めなくとも、債務者の保護に欠けるところはない。
 もっとも、債務者が不作為義務に違反するおそれがない場合にまで間接強制決定をする必要性は認められないのであるから、この義務違反のおそれの立証は必要であると解すべきであるが、この要件は、高度のがい然性や急迫性に裏付けられたものである必要はないと解するのが相当であり、本件においてこの要件が満たされていることは明らかである。

 債権者としては、間接強制の申立ての趣旨において、一定の金銭(間接強制金)として具体的な金額を示しますが、これは裁判所に対し判断資料を提供する意義を有するにとどまります。

 裁判所は、債権者から提出された資料等を検討し、「債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭」(間接強制金)を裁量により定めることになります(民事執行法172条1項【※2】)。債権者が被る損害も考慮要素となりますが、それに限られるわけではなく、不履行の態様、債務の性質、債務者の態度なども考慮して、心理的経済的圧力をかけて債務者の自発的な履行を促すという目的に即した金額を決定しているものと思われます。


(2)間接強制決定発令後の手続


 次に、間接強制申立てに基づいて間接強制決定(支払予告命令)が発令された後の手続を検討しましょう。

 間接強制決定の主文が以下のようなものである場合を検討しましょう。


1 債務者は、●●●●してはならない。
2 本決定送達の日以降、債務者が前項記載の義務に違反し、●●●●したときは、債務者は債権者に対し、違反行為をした日1日につき金〇万円の割合による金員を支払え

 間接強制決定が発令されても、債務者が不作為義務を履行しない場合もあり得ます。

 その場合、債権者はこの間接強制決定を債務名義(民事執行法22条3号【※1】)として、強制金(支払予告命令で命じられた金員)支払を求めるための執行を検討することになります。

 間接強制決定は強制金支払請求権の債務名義となりますが、ただし、強制金支払請求を執行債権とする強制執行申立てに際しては間接強制決定正本に執行文の付与が必要です。注意すべきは、この場合の執行文は単純執行文ではなく、いわゆる条件成就執行文(注:条件成就執行文とは、民事執行法27条1項【※6】の規定に従い、債務名義に表示されている請求が債権者の証明すべき事実の到来に係る場合において、その事実の到来したことが認定されるときに付与される執行文のことをいいます。この用語は法律上の用語ではなく、講学上のものにすぎませんが、便宜上ここでも「条件成就執行文」といいます。)が必要になるということです。間接強制決定で命じられた強制金(金銭)の支払債務は、債務者の不作為義務違反によって発生します。債務者が不作為義務に違反したという事実については債権者が立証しなければなりません。

 詳述すると、最高裁平成17年12月9日決定【※5】が説示しているように、債権者としては、間接強制決定発令の段階では、債務者がその不作為義務に違反するおそれがあることを立証すれば足りましたが、間接強制決定の発令後、進んで、強制金(金銭)を取り立てるためには執行文の付与を受ける必要があり、そのためには間接強制決定に係る義務違反があったとの事実を立証することが必要であるということです(民事執行法27条1項【※6】、33条1項【※7】)。

 執行文の付与機関は裁判所書記官ですが、書記官による条件成就執行文付与は、債権者が提出する文書のみで判断される(民事執行法27条1項【※6】)ことから、文書のみでは限界があり、書記官としては執行文付与を拒絶することもあります。その場合には、債権者が原告となり、債務者を被告として執行文付与の訴え(民事執行法33条【※7】)を提起することになります。執行文付与の訴えにおける審理は、通常の判決手続における審理方法と同じです。つまり、証明方法としては書証(文書)以外の証拠方法を用いることが可能です。


 【※6】民事執行法27条

第27条 請求が債権者の証明すべき事実の到来に係る場合においては、執行文は、債権者がその事実の到来したことを証する文書を提出したときに限り、付与することができる。
2~5(略)

 【※7】民事執行法33条

(執行文付与の訴え)
第33条 第27条第1項又は第2項に規定する文書の提出をすることができないときは、債権者は、執行文(同条第3項の規定により付与されるものを除く。)の付与を求めるために、執行文付与の訴えを提起することができる。
2(略)

 民事執行法33条【※7】に基づく執行文付与の訴えにおける請求の趣旨としては以下のような内容が考えられます。執行金額(=違反行為をした日1日につき金〇万円の〇〇日分)は債権者において計算します。債務者の違反行為の事実とその日数を債権者は証明する必要があります。


 原告と被告との間の〇〇地方裁判所令和〇年(〇)第〇〇号間接強制申立事件の決定主文第2項につき、〇〇地方裁判所書記官は被告に対する強制執行のため、執行金額合計〇〇〇万円について原告に執行文を付与することを命ずる。

 執行文付与の訴えで原告が勝訴判決(認容判決)を得た場合、当該認容判決正本を間接強制決定正本に添付して執行文付与機関(書記官)に執行文付与の申立てを行います。

 書記官により執行文が付与されると、債権者は、執行文が付与された間接強制決定正本に表示された金員(強制金)を取り立てるために債務者の財産(不動産、動産、債権等)に対する執行を検討することになります。

 不動産執行、動産執行、債権執行については下記【※8】【※9】【※10】をご参照ください。


 【※8】不動産執行


 【※9】動産執行


 【※10】債権執行


■ おわりに


 今回は、間接強制という執行方法の手続の流れについて解説しました。

 以下、簡単にまとめます。

 不作為義務を命じる判決は債務名義となります(民事執行法22条1号、2号)。また、間接強制決定の支払予告命令部分も債務名義となります(民事執行法22条3号)。

 前者の判決正本に付与される執行文は単純執行文となりますが、後者の間接強制決定正本の支払予告命令部分に付与されるべき執行文は条件成就執行文となります。

 債権者としては、間接強制決定発令の段階では、債務者がその不作為義務に違反するおそれがあることを立証すれば足りますが、間接強制決定の発令後、進んで、強制金(金銭)を取り立てるためには条件成就執行文の付与を受ける必要があり、そのためには間接強制決定に係る不作為義務違反があった事実(積極的事実)を立証する必要があります。

 このような流れに留意して、債権者としては、債務者の不作為義務違反の事実の立証資料を準備しておく必要があります。




 
 
 

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