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理事長等に対するひぼう中傷を繰り返す区分所有者への対応

  • @lawyer.hiramatsu
  • 4月19日
  • 読了時間: 10分

 今回は以下のような質問について検討します。

 私(X)は、1棟の建物(マンション)の管理組合(非法人)の理事長です。
 マンションの区分所有者(Y)が、私のことをひぼう中傷する文書を、私以外の区分所有者に配布する行為を繰り返しています。ある文書には、私が管理組合のお金を特定の業者の利益のために支出しているとか、私の行為は背任にあたるとか、そういった記載があります。もちろん私はそのようなことはしていません。なお、Yは、過去においても、その当時の理事長のことをひぼう中傷するような文書を配布していたようです。
 Yの行為は私の名誉を毀損するものであり不法行為に当たると思います。
 私個人がYを被告として法的措置をとることはもちろん可能ですが、団体(管理組合)としてYの行為の差止め等を求める訴訟を提起することは可能でしょうか。

■ はじめに


 ご質問の件(以下「本件」といいます。)について、はじめに結論を述べ、詳細は後述します。

(結論)

 区分所有法57条【※1】の規定に基づく団体的権利行使として、管理者又は集会において指定された区分所有者が、Yに対して訴訟提起することは可能です。

 また、当該マンションの規約がマンション標準管理規約(単棟型)のような規約になっている場合、その規約の規定(マンション標準管理規約(単棟型)67条【※3】参照)に基づき、管理組合として訴訟提起することも可能です。


 【※1】区分所有法57条

(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第57条 区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
2 前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
3 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第1項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。
4 前3項の規定は、占有者が第6条第3項において準用する同条第1項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれがある場合に準用する。

 【※2】区分所有法6条1項

(区分所有者の権利義務等)
第6条 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
2~4(略)

 【※3】マンション標準管理規約(単棟型)67条

(理事長の勧告及び指示等)
第67条 区分所有者若しくはその同居人又は専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人(以下「区分所有者等」という。)が、法令、規約又は使用細則等に違反したとき、又は対象物件内における共同生活の秩序を乱す行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経てその区分所有者等に対し、その是正等のため必要な勧告又は指示若しくは警告を行うことができる。
2 区分所有者は、その同居人又はその所有する専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人が前項の行為を行った場合には、その是正等のため必要な措置を講じなければならない。
3 区分所有者等がこの規約若しくは使用細則等に違反したとき、又は区分所有者等若しくは区分所有者等以外の第三者が敷地及び共用部分等において不法行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経て、次の措置を講ずることができる。
 一 行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること
 二(略)
4 前項の訴えを提起する場合、理事長は、請求の相手方に対し、違約金としての弁護士費用及び差止め等の諸費用を請求することができる。
5~6(略)

■ 詳説


(1)区分所有法57条に基づく請求


 ア 規範(基準)


 区分所有法57条に基づく請求に関しては、有名な最高裁平成24年1月17日判決があります。同判決は以下【※4】のように説示しています。


 【※4】最高裁平成24年1月17日判決

 法57条に基づく差止め等の請求については、マンション内部の不正を指摘し是正を求める者の言動を多数の名において封じるなど、少数者の言動の自由を必要以上に制約することにならないよう、その要件を満たしているか否かを判断するに当たって慎重な配慮が必要であることはいうまでもないものの、マンションの区分所有者が、業務執行に当たっている管理組合の役員らをひぼう中傷する内容の文書を配布し、マンションの防音工事等を受注した業者の業務を妨害するなどする行為は、それが単なる特定の個人に対するひぼう中傷等の域を超えるもので、それにより管理組合の業務の遂行や運営に支障が生ずるなどしてマンションの正常な管理又は使用が阻害される場合には、法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるとみる余地があるというべきである。

 そして、上記最高裁(上告審)の差戻し控訴審たる東京高裁平成24年3月28日判決の判断は、概ね以下【※5】のとおりです。


 【※5】東京高裁平成24年3月28日判決(要旨)

 本件マンションの区分所有者である被控訴人は、業務執行に当たっている本件マンション管理組合の役員らをひぼう中傷する内容の文書を配布し、また、本件マンション管理組合の取引先等に対する業務妨害行為を行い、さらには、本件マンション関係者に対する暴行及び嫌がらせ行為を行っているものであり、それらは、単なる特定の個人に対するひぼう中傷、業務妨害、嫌がらせ等の行為の域を超えるものというべきである。そして、被控訴人の上記行為により、管理組合の業務の遂行や運営に支障が生じて、本件マンションの正常な管理又は使用が阻害されていることは明らかである。
 そうすると、被控訴人の上記各行為は、区分所有法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるというべきである。また、控訴人は、平成21年8月23日、本件マンションの区分所有者の集会の決議により、被控訴人を除く他の区分所有者の全員のために本件訴訟を提起する区分所有者に指定された者であり(区分所有法57条3項)、本件マンションの区分所有者の共同の利益のため、被控訴人に対し、被控訴人の上記各行為の差止めを求めることができるものということができる。
 したがって、控訴人の被控訴人に対する上記各行為の差止め請求は、区分所有法57条の要件を満たすものといえる。

 イ 本件について


 本件のYの行為が、単なる特定の個人(本件では理事長)に対するひぼう中傷、業務妨害、嫌がらせ等の行為の域を超えるものであり、それにより、管理組合の業務の遂行や運営に支障が生じて、本件マンションの正常な管理又は使用が阻害されているといえるのであれば、区分所有法6条1項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるといえます。

 そうすると、区分所有者の団体は、集会の決議(区分所有法57条2項及び3項)に基づき、「管理者又は集会において指定された区分所有者」を原告として、被告による共同利益背反行為の差止めを求めることができるといえます。


(2)管理規約の規定に基づく請求


 ア 規範(基準)


 本件マンションではマンション標準管理規約(単棟型)と同じ内容の管理規約が定められていると仮定します。

 管理規約67条3項柱書には「区分所有者等がこの規約若しくは使用細則等に違反したとき、又は区分所有者等若しくは区分所有者等以外の第三者が敷地及び共用部分等において不法行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経て、次の措置を講ずることができる。」とあり、同項1号に「行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること」とあります。

 そうすると、「区分所有者」たるYが、「敷地及び共用部分等において不法行為を行ったとき」は、「理事長」は「理事会の決議を経て」「行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置の請求に関し、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行すること」ができそうです。

 この点について参考となる裁判例(東京地裁令和5年5月25日判決)があります。

 その判決の事案は、団地建物の区分所有者(被告ら4名)が団地管理組合の関係者(当時の理事長ら)の名誉を毀損する文書(ビラ)を建物全戸に配布したとして、いわゆる団地管理組合の管理者が原告となり、区分所有法57条又は管理規約の規定に基づき行為の差止め、謝罪文の配布、弁護士費用の支払を求めたものです。

 なお、区分所有法66条は、同法6条及び57条を準用していませんので、団地管理組合として同法57条に基づき同法6条1項に規定する行為の停止等を求めることはできません。この点については、区分所有法57条の規定とマンション標準管理規約(団地型)77条の規定との関係(2025年4月14日)をご覧ください。


 記判決の事案は団地についてのものですが、管理規約に基づく請求を考えるときには単棟型マンションであっても参考となります。

 東京地裁令和5年5月25日判決の判断について要約すると以下【※6】のとおりです。


 【※6】東京地裁令和5年5月25日判決の判断の要約

・団地管理組合の規約には、「区分所有者等が土地、共用部分及び附属施設において不法行為を行ったときは、理事長は、評議員会の決議を経て、行為の差止め、排除又は原状回復のための必要な措置を講ずることができる」旨が定められている。
・被告の行為(ただし一部)については名誉毀損行為に当たり、違法性阻却事由や責任阻却事由もないため不法行為が成立する。
・被告のビラ配布行為(不法行為)は本件住宅の共用部分において行われたものと認められる。
・管理規約に基づき区分所有者の共用部分における不法行為の差止め等を請求する場合には、マンション内部の不正を指摘し是正を求める者の言動を多数の名において封じるなど、少数者の言動の自由を必要以上に制約することにならないような配慮も必要である。そこで、「当該不法行為が単なる特定の個人に対する名誉毀損の域を超えないもので、それにより管理組合の業務の遂行や運営に支障が生ずるなどして建物の正常な管理又は使用が阻害されることもない」ときは、「当該規約上の差止め等の請求は、管理組合の管理の本旨に反するものとして許されない」と解するのが相当である。
・本件のビラ配布行為(不法行為)は、単に本件管理組合の理事長である個人に対する名誉毀損を内容とするにとどまるものではなく、本件住宅の正常な管理又は使用が阻害されることがないと認めることはできない。
・訴訟提起については評議員会の決議を了しているから、規約に定める要件も充たされている。
・したがって、原告(団地管理組合の管理者)は、被告らのビラ配布(不法行為)に相当する行為の差止めを求めることができる。また、管理規約の規定に基づき違約金としての弁護士費用の支払を求めることができる。ただし、謝罪文の配布についてはその必要性がなく認められない。

 イ 本件について


 ご質問の件(本件)のYの行為については、Xさんに対する不法行為が成立しそうです。

 そして(ここでは立証責任の点は無視して、あえて簡単に説明すると)当該不法行為は単なる特定の個人に対する名誉毀損の域を超えており、管理組合の業務の遂行や運営に支障が生ずるなどして建物の正常な管理又は使用が阻害されているといえそうです。

 そうすると、管理組合(団体)は、管理規約67条の規定に基づいて、Yの不法行為に相当する行為の差止め等を求めることができるといえます。


■ おわりに


 上記のように1棟の区分所有者により構成される団体(管理組合)は、区分所有法57条に基づく請求と管理規約67条に基づく請求のための訴訟を提起することが可能といえます。

 実務的には、選択的に併合して訴訟提起することが多いでしょう。

 その場合には、集会の決議(区分所有法57条参照)は不可欠であり、そして「管理者」が原告となって訴訟提起するのが通常でしょう。

 そうすると、「管理者」が管理規約67条の規定に基づく請求の原告となることができるのかという点も問題となり得ますが、標準管理規約に従えば、できるという結論になります。この点については、区分所有法57条の規定とマンション標準管理規約(団地型)77条の規定との関係(2025年4月14日)に掲載した東京高裁令和6年1月11日判決も参考になります。




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