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理事会における議決権の代理行使について

 今回は、「事故等で理事会に出席できない理事が、『他の理事』を代理人として、自分の議決権を代理行使させることができるか」というご質問について検討します。

 これは、マンション標準管理規約(単棟型)第53条関係コメント【※1】を前提にしたものであり、ご質問者は、「他の理事」を代理人とすることについてのコメントがないことから疑問を持たれたようです。


■ はじめに(「理事会」について)


1 区分所有法上、管理組合法人においては理事【※2】を置かなければなりませんが、法人でない管理組合(非法人管理組合)においては、理事は必置機関ではありません。ただし、一般的に、非法人管理組合においても、管理規約の規定に基づき理事が置かれています。

 区分所有法上、管理組合法人の理事の人数についての規定はありませんので、理事の人数は一人でもよいのですが、一般的には管理規約の規定に基づき複数の理事が置かれています。非法人管理組合においても管理規約の規定に基づき複数の理事が置かれているのが一般的です。

 そして、複数の理事が置かれている管理組合(以下、単に「管理組合」というときは法人及び非法人を含みます。)においては、管理規約により「理事会」を定めています。

 つまり「理事会」は管理規約上の機関として位置付けられています。


2 理事会は管理規約で定められた機関であるため、理事会における出席及び議決権の行使の代理を許容する旨の管理規約の定めが直ちに区分所有法違反となるものではありません。

 ただし、管理組合と理事との間には、委任契約ないし委任契約類似の関係が成立していますので、理事は委任の本旨に従い善良な管理者の注意をもって委任事務を処理しなければなりません。また、通常、理事は、理事個人の資質や能力等に着目して総会で選任されていますので、理事の権限を包括的に第三者に委任することは、管理組合と理事との信任関係に反するといえます。

そのため、理事会における出席及び議決権の行使の代理を許容する旨の管理規約の定めについては、委任の本旨や信任関係に反しない範囲で認められるといえるでしょう。


■ 最高裁平成2年11月26日判決について


 最高裁平成2年11月26日判決の事案では、管理組合法人において「理事に事故があり、理事会に出席できないときは、その配偶者又は一親等の親族に限り、これを代理出席させることができる。」旨の規約の定めの有効性が問題となりました。

 同判決を要約すると下記のとおりであり、結論として違法ではないとされています(注:下記については、筆者が現行法の規定等に基づいて修正を加えています)。

 法人の意思決定のための内部的会議体における出席及び議決権の行使が代理に親しむかどうかについては、当該法人において当該会議体が設置された趣旨、当該会議体に委任された事務の内容に照らして、その代理が法人の理事に対する委任の本旨に背馳するものでないかどうかによって決すべきものである。
 これを、管理組合についてみるに、区分所有法によれば、管理組合の事務は集会の決議によることが原則とされ、区分所有権の内容に影響を及ぼす事項は規約又は集会決議によって定めるべき事項とされ、規約で理事又はその他の役員に委任し得る事項は限定されており(区分所有法52条1項)【※3】、理事が数人ある場合において、規約に別段の定めがないときは、管理組合法人の事務は理事の過半数で決すると規定されている(区分所有法49条2項)【※2】。
 複数の理事を置くか否か、代表権のない理事を置くか否か(区分所有法49条5項)【※2】、複数の理事を置いた場合の意思決定を理事会によって行うか否か、更には、理事会を設けた場合の出席の要否及び議決権の行使の方法について、区分所有法は、これを自治的規範である規約に委ねているものと解するのが相当である。すなわち、規約において、代表権を有する理事を定め、その事務の執行を補佐、監督するために代表権のない理事を定め、これらの者による理事会を設けることも、理事会における出席及び議決権の行使について代理の可否、その要件及び被選任者の範囲を定めることも、可能というべきである。
 そして、本件条項は、理事会への出席のみならず、理事会での議決権の行使の代理を許すことを定めたものと解されるが、理事に事故がある場合に限定して、被選任者の範囲を理事の配偶者又は一親等の親族に限って、当該理事の選任に基づいて、理事会への代理出席を認めるものであるから、この条項が管理組合の理事への信任関係を害するものということはできない。

■ 他の理事による議決権の代理行使に関する規約の定めについて


 前述したように、管理組合と理事との間には、委任契約ないし委任契約類似の関係が成立しています。

 一般的に、理事は、理事として求められている資質、モラル及び能力等を意識して、マンション全体(管理組合)の利益のために理事会運営に携わっています。そうすると、「他の理事」であってもマンション全体(管理組合)の利益のために議決権を行使するはずです。この点において、非理事たる第三者による議決権行使よりも、管理組合の委任の本旨に適った行動(議決権行使)を期待できるといえます。

 また、最高裁平成2年11月26日判決の趣旨に照らしても、他の理事による議決権の代理行使が許容されない理由は見当たりません。

 したがって、「理事に事故があり、理事会に出席できないときは、他の理事を代理人として議決権を行使することができる」旨の管理規約の定めも許容されるでしょう。


■ さいごに(結論)


 冒頭の「事故等で理事会に出席できない理事が、『他の理事』を代理人として、自分の議決権を代理行使させることができるか」というご質問に対しては、「管理規約で定めていれば可能」という回答になります。

 なお、仮に管理規約にそのような定めを置く場合には、理事会の成立要件や議決要件等(マンション標準管理規約(単棟型)53条参照)に関しても疑義が生じないよう手当てしておいたほうがよいでしょう。


【※1】マンション標準管理規約(単棟型)第53条関係コメント

第53条関係
① 理事は、総会で選任され、組合員のため、誠実にその職務を遂行するものとされている。このため、理事会には本人が出席して、議論に参加し、議決権を行使することが求められる。
② したがって、理事の代理出席(議決権の代理行使を含む。以下同じ。)を、規約において認める旨の明文の規定がない場合に認めることは適当でない。
③ 「理事に事故があり、理事会に出席できない場合は、その配偶者又は一親等の親族(理事が、組合員である法人の職務命令により理事となった者である場合は、法人が推挙する者)に限り、代理出席を認める」旨を定める規約の規定は有効であると解されるが、あくまで、やむを得ない場合の代理出席を認めるものであることに留意が必要である。この場合においても、あらかじめ、総会において、それぞれの理事ごとに、理事の職務を代理するにふさわしい資質・能力を有するか否かを審議の上、その職務を代理する者を定めておくことが望ましい。
 なお、外部専門家など当人の個人的資質や能力等に着目して選任されている理事については、代理出席を認めることは適当でない。
④ 理事がやむを得ず欠席する場合には、代理出席によるのではなく、事前に議決権行使書又は意見を記載した書面を出せるようにすることが考えられる。これを認める場合には、理事会に出席できない理事が、あらかじめ通知された事項について、書面をもって表決することを認める旨を、規約の明文の規定で定めることが必要である。
⑤ 理事会に出席できない理事に対しては、理事会の議事についての質問機会の確保、書面等による意見の提出や議決権行使を認めるなどの配慮をする必要がある。
 また、WEB会議システム等を用いて開催する理事会を開催する場合は、当該理事会における議決権行使の方法等を、規約や第70条に基づく細則において定めることも考えられ、この場合においても、規約や使用細則等に則り理事会議事録を作成することが必要となる点などについて留意する必要がある。
 なお、第1項の定足数について、理事がWEB会議システム等を用いて出席した場合については、定足数の算出において出席理事に含まれると考えられる。
⑥ 第2項は、本来、①のとおり、理事会には理事本人が出席して相互に議論することが望ましいところ、例外的に、第54条第1項第五号に掲げる事項については、申請数が多いことが想定され、かつ、迅速な審査を要するものであることから、書面又は電磁的方法による決議を可能とするものである。
⑦ 第3項については、第37条の2関係を参照のこと。

【※2】区分所有法49条~49条の4

(理事)
第49条 管理組合法人には、理事を置かなければならない。
2 理事が数人ある場合において、規約に別段の定めがないときは、管理組合法人の事務は、理事の過半数で決する。
3 理事は、管理組合法人を代表する。
4 理事が数人あるときは、各自管理組合法人を代表する。
5 前項の規定は、規約若しくは集会の決議によって、管理組合法人を代表すべき理事を定め、若しくは数人の理事が共同して管理組合法人を代表すべきことを定め、又は規約の定めに基づき理事の互選によって管理組合法人を代表すべき理事を定めることを妨げない。
6 理事の任期は、2年とする。ただし、規約で3年以内において別段の期間を定めたときは、その期間とする。
7 理事が欠けた場合又は規約で定めた理事の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した理事は、新たに選任された理事(第四49条の4第1項の仮理事を含む。)が就任するまで、なおその職務を行う。
8 第25条の規定は、理事に準用する。

(理事の代理権)
第49条の2 理事の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。

(理事の代理行為の委任)
第49条の3 理事は、規約又は集会の決議によって禁止されていないときに限り、特定の行為の代理を他人に委任することができる。

(仮理事)
第49条の4 理事が欠けた場合において、事務が遅滞することにより損害を生ずるおそれがあるときは、裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、仮理事を選任しなければならない。
2 仮理事の選任に関する事件は、管理組合法人の主たる事務所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。

【※3】区分所有法52条

(事務の執行)
第52条 管理組合法人の事務は、この法律に定めるもののほか、すべて集会の決議によって行う。ただし、この法律に集会の決議につき特別の定数が定められている事項及び第57条第2項に規定する事項を除いて、規約で、理事その他の役員が決するものとすることができる。
2 前項の規定にかかわらず、保存行為は、理事が決することができる。

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