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@lawyer.hiramatsu

不動産競売の買受人から前所有者に対する引渡命令・引渡執行について

更新日:12 分前

 今回は以下のような質問について検討します。

 私(X)は、不動産競売手続によって不動産(建物)を買い受けました。
 売却代金も支払い、不動産の所有権も移転しましたが、前所有者(Y)は私に不動産を引き渡しません。前所有者(Y)からの不動産引渡しを実現するために、私はどのような手続きをとればよいでしょうか。

■ はじめに


 ご質問(本件)の背景として、Yさんからの任意の引渡しを期待できないといった事情があるのでしょう。

 そうしますと、Xさんとしては、強制執行によって権利を実現する必要があります。つまり、不動産引渡の強制執行を申し立てる必要があります。

 強制執行を申し立てるためには債務名義【※1】が必要です。

 ただし、本件のような不動産競売による買受人の場合、簡易迅速に債務名義を取得する手段があります。「引渡命令」といわれる制度(民事執行法83条【※2】)です。

 以下、この制度に基づく手続きについて説明します。


 【※1】民事執行法22条

(債務名義)
第22条 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
 一 確定判決
 二 仮執行の宣言を付した判決
 三 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
 三の二 仮執行の宣言を付した損害賠償命令
 三の三 仮執行の宣言を付した届出債権支払命令
 四~七 (略)

 【※2】民事執行法83条

(引渡命令)
第83条 執行裁判所は、代金を納付した買受人の申立てにより、債務者又は不動産の占有者に対し、不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずることができる。ただし、事件の記録上買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者に対しては、この限りでない。
2 買受人は、代金を納付した日から6月(買受けの時に民法第395条第1項に規定する抵当建物使用者が占有していた建物の買受人にあつては、9月)を経過したときは、前項の申立てをすることができない。
3 執行裁判所は、債務者以外の占有者に対し第1項の規定による決定をする場合には、その者を審尋しなければならない。ただし、事件の記録上その者が買受人に対抗することができる権原により占有しているものでないことが明らかであるとき、又は既にその者を審尋しているときは、この限りでない。
4 第1項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
5 第1項の規定による決定は、確定しなければその効力を生じない。

■ 引渡命令について


 引渡命令については民事執行法83条【※2】において定められています。

 引渡命令は、執行裁判所において、競売手続に付随する略式手続として発令されます(民事執行法83条1項)。

 Xさんは、執行裁判所に対し、書面をもって引渡命令を申し立てることになります(民事執行規則58条の3第1項)。

 その申立書には収入印紙(申立手数料)を貼付することなりますが、本件の場合、相手方1名であるため500円です。その他、郵便切手も納付することになります。

 Xさんとしては、代金納付手続が完了した日から6か月を経過したときはこの引渡命令の申立てができなくなってしまいますので注意が必要です。もし、この申立てができなくなった場合には、一般的な訴訟を提起して債務名義(判決等)【※1】を取得する必要が生じてきます。

 

 引渡命令に関しては、各地の地方裁判所ホームページ等で案内されています。

 ここでは、不動産競売物件情報サイト( https://www.bit.courts.go.jp/app/top/pt001/h01 )の中で、京都地方裁判所本庁が説明している「不動産引渡命令の手続き」の説明書(令和元年10月1日版)【※3】を紹介しておきます。


 【※3】「不動産引渡命令の手続き」の説明書(令和元年10月1日版)


■ 引渡の執行について

 

 上記の引渡命令が発令されて確定(民事執行法83条5項【※2】)すると、それは債務名義となります(民事執行法22条3号【※1】)。

 これをもとにXさんは強制執行を申し立てることができます。ただし、引渡命令正本には「執行文」の付与を受け(民事執行法25条)、相手方に対する引渡命令正本の「送達証明書」を取得する必要があります。


 引渡の強制執行申立ては、管轄裁判所の執行官に対して書面(民事執行規則1条)でする必要があります。

 ちなみに、この強制執行の申立ては、引渡命令申立てのような期間(民事執行法83条2項)の制限はありません。


 この執行の申立てに際しては、いわゆる執行官予納金を納めることとなります。地域によって異なりますので執行官室に確認すべきでしょう。


 実際の執行にあたっては、最初(1回目)に現場に臨場した際に、執行官から、Yさん(債務者)に対し、任意に引き渡すよう催告します(建物の中に公示します)。なお、その際、いわゆる執行業者も同行して断行の際の費用を見積もることとなります。


 Yさん(債務者)が任意の引渡しをしない場合、次(2回目)に現場に臨場した際に断行する(強制的に建物の中の物を搬出する)ことになります。搬出した物は、基本的には1か月程度倉庫に保管して、Yさん(債務者)の引き取りを求めることになります。

 その物をYさん(債務者)が引き取らない場合には、最終的には売却処分によって処理されることなります。買受人がいないような場合には、Xさん(債権者)が買い取って終わらせることになるでしょう。


■ おわりに


 Xさんとしては、上記の引渡命令・引渡執行にかかる費用(実費)についても関心事でしょう。


 上記の引渡命令の申立てに係る費用(実費)は少額です。

 上記の執行官予納金は、地域によって異なりますが、例えば、上記の京都地方裁判所本庁による「不動産引渡命令の手続き」の説明書(令和元年10月1日版)【※3】によれば8万円~程度です。

 通常、最も高額となるのは強制執行の断行(保管を含む。)に係る費用です。

 この点は、当該不動産(建物)内に存在する物によって変わってきます。

 筆者の経験としては、例えば、約90平方メートルの建物の中に大量の動産(遺留品)が存在しており、2回目の臨場(断行)の際に即日処分した(保管費用なし)ケースで、業者への支払が100万円以上となったこともあります。他方、建物の中の動産が非常に少なく、かつ全て無価値物と認定されて債権者に廃棄を委ねられたケースでは、断行に係る業者への支払がゼロで終わったこともあります。

 まさにケースバイケースとなります。




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