建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」といいます。)33条2項は、利害関係人による「規約の閲覧」について定めています。そして、集会議事録について定める42条5項が33条の規定を準用していることから、集会議事録の閲覧も規約の閲覧と同様の規律に従います。
後述するとおり、区分所有法上、規約や集会議事録を保管する管理者等は、正当な理由があれば規約や議事録の閲覧を拒絶できることになります。
この点に関し、令和4年3月現在のマンション標準管理規約(単棟型)(以下「標準管理規約」といいます。)はどのような規定になっているでしょうか。
今回は、この点について検討してみましょう。
■ 区分所有法33条及び区分所有法42条の確認
区分所有法33条は以下のように定めています。
(規約の保管及び閲覧)
第三十三条 規約は、管理者が保管しなければならない。ただし、管理者がないときは、建物を使用している区分所有者又はその代理人で規約又は集会の決議で定めるものが保管しなければならない。
2 前項の規定により規約を保管する者は、利害関係人の請求があつたときは、正当な理由がある場合を除いて、規約の閲覧(規約が電磁的記録で作成されているときは、当該電磁的記録に記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したものの当該規約の保管場所における閲覧)を拒んではならない。
3 規約の保管場所は、建物内の見やすい場所に掲示しなければならない。
上記のように、区分所有法33条2項は、「規約を保管する者」は、「利害関係人の請求があったとき」、「正当な理由がある場合」【※】には規約の閲覧を拒絶できる旨を明らかにしています。
補足すると、昭和58年改正前の区分所有法26条3項は「・・・規約を保管する者は、利害関係人の請求があったときは、規約の閲覧をさせなければならない。」と規定されていたところ、昭和58年改正区分所有法33条2項において「・・・規約を保管する者は・・・正当な理由がある場合を除いて、規約の閲覧を拒んではならない」と規定することによって正当な理由がある場合には閲覧を拒むことができることを解釈上のみならず明文上も明らかにしたといわれています。
【※】「正当な理由がある場合」とは
どういう場合が「正当な理由がある場合」に該当するのかはケースバイケースとなりますが、一般的には「区分所有者等にあらかじめ示されている管理者の管理業務の日時以外における請求、無用の重複請求等の閲覧請求権の濫用と認められる請求などがこれに該当する」(稻本洋之助・鎌野邦樹『コンメンタール マンション区分所有法〔第3版〕』(日本評論社、2015年)211頁)といわれています。なお、閲覧拒否についての「正当な理由」の有無が争点となった裁判例としては東京地裁令和3年4月28日判決(ウエストロー・ジャパン)などがあります。
区分所有法42条は以下のように定めています。
(議事録)
第四十二条 集会の議事については、議長は、書面又は電磁的記録により、議事録を作成しなければならない。
2 議事録には、議事の経過の要領及びその結果を記載し、又は記録しなければならない。
3 前項の場合において、議事録が書面で作成されているときは、議長及び集会に出席した区分所有者の二人がこれに署名しなければならない。
4 第二項の場合において、議事録が電磁的記録で作成されているときは、当該電磁的記録に記録された情報については、議長及び集会に出席した区分所有者の二人が行う法務省令で定める署名に代わる措置を執らなければならない。
5 第三十三条の規定は、議事録について準用する。
上記のように、集会議事録についても33条の規定が準用されています(区分所有法42条5項)ので、議事録を保管する者は、「利害関係人の請求があったとき」、「正当な理由がある場合」【※】には議事録の閲覧を拒絶できることになります。
■ 標準管理規約72条(ただし電磁的方法が利用可能ではない場合)及び標準管理規約49条(ただし電磁的方法が利用可能ではない場合)の確認
標準管理規約72条(ただし電磁的方法が利用可能ではない場合)は以下のように定めています。
(規約原本等)
第72条 この規約を証するため、区分所有者全員が署名した規約を1通作成し、これを規約原本とする。
2 規約原本は、理事長が保管し、区分所有者又は利害関係人の書面による請求があったときは、規約原本の閲覧をさせなければならない。
3 規約が規約原本の内容から総会決議により変更されているときは、理事長は、1通の書面に、現に有効な規約の内容と、その内容が規約原本及び規約変更を決議した総会の議事録の内容と相違ないことを記載し、署名した上で、この書面を保管する。
4 区分所有者又は利害関係人の書面による請求があったときは、理事長は、規約原本、規約変更を決議した総会の議事録及び現に有効な規約の内容を記載した書面(以下「規約原本等」という。)並びに現に有効な第18条に基づく使用細則及び第70条に基づく細則その他の細則の内容を記載した書面(以下「使用細則等」という。)の閲覧をさせなければならない。
5 第2項及び前項の場合において、理事長は、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
6 理事長は、所定の掲示場所に、規約原本等及び使用細則等の保管場所を掲示しなければならない。
標準管理規約49条(ただし電磁的方法が利用可能ではない場合)は以下のように定めています。
(議事録の作成、保管等)
第49条 総会の議事については、議長は、議事録を作成しなければならない。
2 議事録には、議事の経過の要領及びその結果を記載し、議長及び議長の指名する2名の総会に出席した組合員がこれに署名しなければならない。
3 理事長は、議事録を保管し、組合員又は利害関係人の書面による請求があったときは、議事録の閲覧をさせなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
4 理事長は、所定の掲示場所に、議事録の保管場所を掲示しなければならない。
上記のように、標準管理規約72条2項・4項は、「区分所有者又は利害関係人の書面による請求があったときは」「閲覧をさせなければならない。」と定めており、また、標準管理規約49条3項は、「組合員又は利害関係人の書面による請求があったときは」「議事録の閲覧をさせなければならない。」と定めています。
つまり、標準管理規約には、「正当な理由がある場合・・・」という文言が存在しません。
では、標準管理規約に従えば、「正当な理由がある場合」でも閲覧を拒絶することはできないのでしょうか。
私見としては、実際に当該規約を定めた当該団体の意思(決議)の解釈に帰着すると考えますので、結論としては、区分所有法33条や42条と同様に「正当な理由」があれば閲覧を拒絶できる趣旨のものがほとんどだと考えます。したがって(極めて稀な団体の場合を除いては)、「正当な理由」があれば閲覧を拒絶できると考えます。
■ トラブルを避けるための方策(規約改正案)
前述したように標準管理規約には閲覧拒絶に関する文言が見当たりません。
そのため、マンション管理の現場では、閲覧拒絶の可否についてトラブルが生じることがあります。
そのようなトラブルを避けるためにも、管理規約上も「正当な理由」があれば閲覧を拒める旨の規定を置いておいたほうがベターでしょう。
例えば、以下のような改正案が考えられます。
標準管理規約72条(ただし電磁的方法が利用可能ではない場合)をベースとした独自改正案
(規約原本等)
第72条 規約原本は、理事長が保管し、区分所有者又は利害関係人の書面による請求があったときは、正当な理由がある場合を除いて、その閲覧を拒んではならない。
2 前項の規約原本とは、現に効力を有している規約の原本をいう。
3 規約の内容が総会決議により変更されているときは、理事長は、1通の書面に、現に有効な規約の内容と相違ない旨を記載し、署名した上で、この書面を規約原本として保管する。
4 区分所有者又は利害関係人の書面による請求があったときは、正当な理由がある場合を除いて、理事長は、現に有効な第18条に基づく使用細則及び第70条に基づく細則その他の細則の内容を記載した書面(以下「使用細則等」という。)の閲覧を拒んではならない。
5 理事長が第1項の規約原本又は前項の使用細則等を閲覧させる場合、理事長は、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
6 理事長は、所定の掲示場所に、規約原本及び使用細則等の保管場所を掲示しなければならない。
標準管理規約49条(ただし電磁的方法が利用可能ではない場合)をベースとした独自改正案
(議事録の作成、保管等)
第49条 総会の議事については、議長は、議事録を作成しなければならない。
2 議事録には、議事の経過の要領及びその結果を記載し、議長及び議長の指名する2名の総会に出席した組合員がこれに署名しなければならない。
3 理事長は、議事録を保管し、組合員又は利害関係人の書面による請求があったときは、正当な理由がある場合を除いて、議事録の閲覧を拒んではならない。理事長が議事録を閲覧させる場合、理事長は、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
4 理事長は、所定の掲示場所に、議事録の保管場所を掲示しなければならない。
■ 発展的質問
私たちのマンションにおいては一律に「閲覧させない」ことにしたいのですが、そのようなことを管理規約に定めることは可能でしょうか。
■ 発展的質問に対する回答
区分所有法は、33条2項や42条5項の規定に違反して、正当な理由がないのに閲覧を拒んだときの罰則について規定しています(区分所有法71条2号参照)。
一律に「閲覧させない」と規約で定めても、そのような規約の定めは区分所有法の強行規定に反しており無意味(無効)であると考えます。
区分所有法71条2号について
第七十一条 次の各号のいずれかに該当する場合には、その行為をした管理者、理事、規約を保管する者、議長又は清算人は、二十万円以下の過料に処する。
一 略
二 第三十三条第二項(第四十二条第五項及び第四十五条第四項(これらの規定を第六十六条において準用する場合を含む。)並びに第六十六条において準用する場合を含む。)の規定に違反して、正当な理由がないのに、前号に規定する書類又は電磁的記録に記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧を拒んだとき。
以下略
Comments