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継続的契約(別荘地の温泉供給契約)の更新をめぐるトラブル

  • @lawyer.hiramatsu
  • 6月1日
  • 読了時間: 5分

 今回は、下記設例(東京地判平成12・11・8の事案をもとに筆者がアレンジした設例)について検討します。


 設例

 当社(X)は、別荘地の土地所有者(Y)との間で、温泉供給契約(本件契約)を締結し温泉を供給してきました。
 本件契約には以下のような規定があります(本件更新条項)。
 「この契約の有効期間は契約締結の日より10年とします。ただしYが期間満了6ヶ月前までにXに対し、この温泉の供給の継続を申し出たときは、X及びYは、協議のうえこれを更新することができるものとします。更新時による費用については、給湯施設が今後老朽および破損し、給湯に支障をきたすような場合、Xの決めた適正な修理、保全に関する費用をYが負担するものとします。」
 本件契約締結から9年半が経過しようとしていますので、当社はYに対し、契約更新の意思があるかどうか、及び契約更新の場合には更新料200万円が必要となる旨の文書を発信しました。これに対し、Yからは、「更新を希望するが更新料は支払わない」旨の回答がありました。
 本件契約期間(10年)が満了する時点においても当社(X)とYとの間で更新に関する協議は調いませんでした。
 本件契約は期間満了により終了したと考えてよいですか。

■ はじめに

 

 結論として、そのように安易に考えるべきではありません。

 本件更新条項の第2文は、「ただしYが期間満了6ヶ月前までにXに対し、この温泉の供給の継続を申し出たときは、X及びYは、協議のうえこれを更新することができるものとします。」と定めています。

 文理上、YがXに対し温泉供給の継続を申し出たときは、協議のうえこれを更新することができるということですが、この文言をどのように解釈すべきかが問題となります。

 

 契約書上の文言が争いになっている場合には、当事者の合理的意思に合致するように解釈すべきことになります。

そして、当事者の合理的意思を解釈する際、必要に応じ以下の要素も考慮する必要があります(『契約の解釈-訴訟における争点化と立証方法』田中豊著(ぎょうせい、2025年)52頁参照)。

 ① 本件契約書全体の整合性(当該条項と他の条項との整合性)

 ② 当事者が本件契約の締結によって実現しようとした目的

 ③ 本件契約の準備段階・交渉開始から締結に至る経緯

 ④ 本件契約締結後、紛争発生に至る経緯

 ⑤ 本件契約と同種の取引についての慣行や通念等


■ 本件更新条項の解釈について

 

 東京地判平成12・11・8(判例タイムズ1073号167頁)を参考に、本件更新条項について解釈してみましょう。


 東京地判平成12・11・8の裁判所の判断をもとにアレンジした解釈

 本件更新条項の第2文は、契約期間を定めた第1文に対するただし書の形式をとり、Yの申し出による更新を定めている。そして、そもそも本件契約は別荘地販売契約の付帯契約であるところ、Xは右販売に当たり本件別荘地を「温泉付建売別荘」として宣伝し、別荘地への温泉の供給は客観的にみて別荘地の主要なセールスポイントであり、その購入者としては別荘の建物が存続する限り温泉の供給がされることを通常期待するものと考えられること、Xの関連会社であるZ社は、別荘地の管理に関し温泉を別荘地において「必要欠くべからざるもの」と認識していたこと、温泉の給湯設備を沸かし湯の設備に変更するには設備の大がかりな変更工事が必要と考えられ、別荘地購入者に相当の負担となるであろうこと、ところが、本件契約が定める10年という期間は別荘が通常存続する期間に比して明らかに短期間といえることなどを総合すると、本件更新条項は、別荘地購入者に契約の更新権を付与する趣旨の規定であると解するのが相当であり、上記更新に際し当事者の協議を経ることとしているのは、温泉は天然の資源であることから、供給の変動に伴う契約内容の改訂等が必要となることも予想されるため、更新に当たり協議義務を課したものにすぎないというべきである。
 そうすると、別荘地購入者Yからの契約更新の申し出があるときは、本件契約は原則として更新されるものであり、Xにおいて更新を拒絶するには、期間満了時において温泉源の枯渇等で契約を維持することが困難であるなどの特段の事情があることが必要であるものと解すべきである。そして、契約の趣旨を上記のとおり解すると、上記特段の事情は契約更新を否定するXにおいて主張立証すべきものである。

■ Xによる更新拒絶の可否について


 本件更新条項を上記のように解釈した場合、本件更新を否定する「特段の事情」、具体的にはXにおける更新拒絶の理由が問題となります。


 本件更新条項の第3文には「更新時による費用については、給湯施設が今後老朽および破損し、給湯に支障をきたすような場合、Xの決めた適正な修理、保全に関する費用をYが負担するものとします。」とあります。

 他方、本件でXが求めているのは「更新料」のようです。

 この更新料というのが、上記の「費用」に該当することをXにおいて立証できるのであれば、この「費用」をYが支払わないことは、Xが更新拒絶できる理由になり得るでしょう。

 しかし、ここでいう更新料は、更新の際の権利金的な性格を有するものだと思われますので、これが本件更新条項第3文の「費用」にあたると立証するのは困難でしょう。

 そうすると、更新拒絶できる理由を見出すことは困難であり、結論として、Xは更新を拒絶することができないことになります。


■ おわりに


 では、仮に、本件更新条項の第3文の部分が、「更新の際には更新料200万円を支払う」と明確に定められていた場合はどうでしょう。

 当事者が更新料支払について明確に合意している以上、Yが更新を希望する場合には原則として更新料を支払うべきことになります。

 例外として、Yにおいて更新料支払を拒絶できる理由の有無が問題となります。前記の設例の場合とは、主張立証すべき対象や挙証責任者が異なります。

 Xにおける温泉供給契約の義務履行に何ら問題が生じていない状況下において、Yの更新料の支払拒絶を正当化する(主張立証する)のはなかなか困難でしょう。

そうすると、Xには更新拒絶できる理由があることになるでしょう。




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