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@lawyer.hiramatsu

共有不動産:所在等不明共有者の持分取得(令和5年4月施行の改正民法)

更新日:2023年11月30日

 今回は、以下のようなご質問について検討します。

 私(A)は、土地の共有持分(3分の1)を有しています。当該土地(本件土地)の共有者は私(A)とB及びCの合計3名(それぞれ持分3分の1)です。共有者のうち1名(C)は所在不明です。私(A)とBとの仲は悪く、様々なことで対立しています。
 令和5年4月1日に改正民法が施行されますので、私は、改正民法262条の2第1項前段【※1】に基づき、所在不明共有者(C)の持分を取得し、私の持分を3分の2としたいと考えていますが、そのようなことは可能でしょうか。

 【※1】改正民法262条の2

(所在等不明共有者の持分の取得)
第二百六十二条の二 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。
2 前項の請求があった持分に係る不動産について第二百五十八条第一項の規定による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同項の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。
3 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、第一項の裁判をすることができない。
4 第一項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
5 前各項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。

■ はじめに


 改正民法施行(令和5年4月1日)後を前提として検討します。

 共有不動産について、①共有者が他の共有者を知ることができず(特定不能)又は②その所在を知ることができない(所在不明)とき、共有者の請求(以下「持分取得裁判申立」といいます。)により、裁判所は、その共有者に上記①又は②の共有者(以下「所在等不明共有者」といいます。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができます。

 本件のCさんが所在等不明共有者に該当するとき、Aさんは、Cさんの持分についての持分取得裁判申立をすることができるといえます。

 所在等不明共有者の持分の取得手続については改正非訟事件手続法87条(令和5年4月1日施行)【※2】が規定しています。

 裁判所(当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所)は、改正非訟事件手続法87条2項【※2】が定める事項の公告を行うほか、所在等不明共有者以外の共有者(本件ではBさん)に対し、同条3項【※2】が定める事項を通知します。つまり、本件のBさんに対しては裁判所から通知がなされることになります。

 そのため、Aさんと対立関係にあるBさんの行動としては以下の二つが考えられます。


■ Bさんの行動について


1 一つは、一定期間内(裁判所が定める3か月以上の期間内)に、自分(Bさん)もCさんの持分についての持分取得裁判申立をすることです。この場合、改正民法262条の2第1項後段【※1】が適用され、所在等不明共有者(Cさん)の持分は、請求をした各共有者(AさんとBさん)の持分の割合で按分して取得することになります。

ちなみに、Bさんとしては、裁判所が指定した期間内にその申立てをしなければなりません。期間経過後になされた申立ては却下されることになります(改正非訟事件手続法87条11項)【※2】。


2 もう一つは、改正民法262条の2第2項に基づく異議(すなわち改正民法258条1項【※3】の共有物分割請求を提起し、かつ、裁判所に異議がある旨を届け出ること)です。適法な異議がなされると改正民法258条に基づく共有物分割の裁判が優先し、持分取得の裁判はなされません。ちなみに、この異議の届出も一定期間内(裁判所が定める3か月以上の期間内)にする必要があります。期間経過後に異議の届出がなされた場合には却下されることになります(改正非訟事件手続法87条4項)【※2】。


■ 結論


 上記のようなBさんからの持分取得裁判申立または異議の届出がなされれば、Aさんは、改正民法262条の2第1項前段に基づいたCさんの持分(3分の1)取得ができないことになります。

 ただし、上記1の場合において、所在不明者(Cさん)の持分がAさんとBさんに按分取得された後、AさんとBさんの共有関係の解消するための共有物分割の裁判【※3】を求めることは可能です。また、上記2の場合においては、Aさん、Bさん及びCさんの共有関係解消のための共有物分割の裁判【※3】が進行することになります。つまり、いずれの場合においても、本件土地全体についての適切な分割の実現が否定されるものではありません。


 【※2】改正非訟事件手続法87条

(所在等不明共有者の持分の取得)
第八十七条 所在等不明共有者の持分の取得の裁判(民法第二百六十二条の二第一項(同条第五項において準用する場合を含む。次項第一号において同じ。)の規定による所在等不明共有者の持分の取得の裁判をいう。以下この条において同じ。)に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
2 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、第二号、第三号及び第五号の期間が経過した後でなければ、所在等不明共有者の持分の取得の裁判をすることができない。この場合において、第二号、第三号及び第五号の期間は、いずれも三箇月を下ってはならない。
 一 所在等不明共有者(民法第二百六十二条の二第一項に規定する所在等不明共有者をいう。以下この条において同じ。)の持分について所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てがあったこと。
 二 裁判所が所在等不明共有者の持分の取得の裁判をすることについて異議があるときは、所在等不明共有者は一定の期間内にその旨の届出をすべきこと。
 三 民法第二百六十二条の二第二項(同条第五項において準用する場合を含む。)の異議の届出は、一定の期間内にすべきこと。
 四 前二号の届出がないときは、所在等不明共有者の持分の取得の裁判がされること。
 五 所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てをするときは一定の期間内にその申立てをすべきこと。
3 裁判所は、前項の規定による公告をしたときは、遅滞なく、登記簿上その氏名又は名称が判明している共有者に対し、同項各号(第二号を除く。)の規定により公告した事項を通知しなければならない。この通知は、通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所に宛てて発すれば足りる。
4 裁判所は、第二項第三号の異議の届出が同号の期間を経過した後にされたときは、当該届出を却下しなければならない。
5 裁判所は、所在等不明共有者の持分の取得の裁判をするには、申立人に対して、一定の期間内に、所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならない。
6 裁判所は、前項の規定による決定をした後所在等不明共有者の持分の取得の裁判をするまでの間に、事情の変更により同項の規定による決定で定めた額を不当と認めるに至ったときは、同項の規定により供託すべき金銭の額を変更しなければならない。
7 前二項の規定による裁判に対しては、即時抗告をすることができる。
8 裁判所は、申立人が第五項の規定による決定に従わないときは、その申立人の申立てを却下しなければならない。
9 所在等不明共有者の持分の取得の裁判は、確定しなければその効力を生じない。
10 所在等不明共有者の持分の取得の裁判は、所在等不明共有者に告知することを要しない。
11 所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てを受けた裁判所が第二項の規定による公告をした場合において、その申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が同項第五号の期間が経過した後に所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てをしたときは、裁判所は、当該申立人以外の共有者による所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てを却下しなければならない。

 【※3】改正民法258条

(裁判による共有物の分割)
第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
 一 共有物の現物を分割する方法
 二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
3 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
4 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。

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