今回は、以下のようなご質問について検討します。
当管理組合の管理者(理事長)は、管理費等滞納者を被告として、区分所有法59条【※1】に基づく競売請求訴訟を提起し、現在、訴訟が係属しています。この訴訟の中で、被告側から、「区分所有法59条2項【※1】が準用する58条3項【※2】の決議(弁明の機会を付与した上での決議)がなされていない。」旨反論されています。
当管理組合としては、被告側の反論を踏まえて、改めて総会決議を経るつもりでいますが、その場合、現在係属中の訴えを取り下げた上で、改めて(その総会決議後に)訴えを提起しなければならないのでしょうか。その総会決議を、現在係属中の訴えの手続的要件の根拠とすることはできないのでしょうか。
【※1】区分所有法59条
(区分所有権の競売の請求)
第59条 第57条第1項に規定する場合において、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもって、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
2 第57条第3項の規定は前項の訴えの提起に、前条第2項及び第3項の規定は前項の決議に準用する。
3 第1項の規定による判決に基づく競売の申立ては、その判決が確定した日から6月を経過したときは、することができない。
4 前項の競売においては、競売を申し立てられた区分所有者又はその者の計算において買い受けようとする者は、買受けの申出をすることができない。
【※2】区分所有法58条
(使用禁止の請求)
第58条 前条第1項に規定する場合において、第6条第1項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、前条第1項に規定する請求によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、相当の期間の当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができる。
2 前項の決議は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数でする。
3 第1項の決議をするには、あらかじめ、当該区分所有者に対し、弁明する機会を与えなければならない。
4 前条第3項の規定は、第1項の訴えの提起に準用する。
■ 回答
改めてなされる総会決議を、現在係属中の訴えの手続的要件の根拠とすることは一応可能であると考えます。
同じようなことが争点となった裁判例(東京高裁平成30年3月22日判決。なお、原審は東京地裁平成29年9月12日判決)がありますので、簡単に(抽象化して)紹介しておきます。
【事案の概要】
原告管理組合(法人)Xが、区分所有者(会社)Yを被告として、区分所有法59条に基づく競売請求訴訟を提起した。
その訴訟の中で、区分所有法59条の手続要件充足が争われたため、原告Xは、準備書面において、被告会社Yに対する区分所有法59条に基づく競売請求の件を議題とする臨時総会を開催する旨を記載し、同書面は被告会社Yに送達された。
その上で、改めて本件臨時総会が開催され、被告会社Yに対する区分所有法59条に基づく競売請求申立ての議案は、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数を得て可決された。なお、被告会社の代表者Zは、本件臨時総会に欠席したが、その総会の前に文書を提出した。
【裁判所の判断の要旨】
Xは、本件臨時総会において、Yに対する区分所有法59条に基づく競売請求申立ての議案を再度提出し、同総会においてはYに対する弁明の機会が与えられ、Yの代表者であるZは、同総会の前に書面を提出して弁明した上で、決議がなされた結果、同議案は区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数をもって可決承認されている。
そうすると、本件臨時総会の決議は有効であり、これにより、本件の訴えは、弁明の機会の付与を経た有効な集会決議に基づくという手続的要件を充足するに至ったということができる。
この点について、Yは、区分所有法59条は、「集会の決議に基づき、訴えをもって」と定めているから、同条に基づく競売請求に当たっては、訴えを提起する前に集会の決議を経なければならない旨主張するが、同条は、訴訟の口頭弁論終結時までに改めて有効な集会決議を行い、当該訴えがこれによって根拠付けられることを排除するものではないと解される。
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