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@lawyer.hiramatsu

マンション管理:マンション内の騒音トラブルに対する管理組合理事長の対応

更新日:2023年12月13日

 今回は、次の二つのご質問について検討します。


 ご質問1

 私は管理組合の理事長ですが、居住者(区分所有者Aさん)から、その上階(Yさんのの部屋)からの騒音に困っているのでどうにかして欲しい旨の話がありました。他の居住者(区分所有者)からはそのような話はありません。
 このような場合、理事長として対応しなければならないのでしょうか。

 ご質問2

 区分所有法6条1項の「共同の利益に反する行為」とは、例えばどういう行為を指すのでしょうか。また、「共同の利益に反する行為」を行う者に対する管理組合(理事長)側の対応(請求)はどうなりますか。

Ⅰ ご質問1について 


■ Yさんの行為が「共同の利益に反する行為」に該当するか


 まず、Yさんの部屋からの騒音に対し、被害を訴えているのはAさんだけのようですから、Yさんの行為は「共同の利益に反する行為」(区分所有法6条1項)【※1】に該当するとまではいえないでしょう。「共同の利益に反する」という以上は、相当範囲の区分所有者の生活利益に影響していることが必要ですから、単なる上下階の騒音問題はこれに該当しないといえます。そのため、理事長として、区分所有法57条1項【※2】に基づく請求をすることは難しいといえます。


 【※1】区分所有法6条

(区分所有者の権利義務等)
第6条 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。
2 区分所有者は、その専有部分又は共用部分を保存し、又は改良するため必要な範囲内において、他の区分所有者の専有部分又は自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる。この場合において、他の区分所有者が損害を受けたときは、その償金を支払わなければならない。
3 第一項の規定は、区分所有者以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)に準用する。

 【※2】区分所有法57条

(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第57条 区分所有者が第6条第1項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。
2 前項の規定に基づき訴訟を提起するには、集会の決議によらなければならない。
3 管理者又は集会において指定された区分所有者は、集会の決議により、第1項の他の区分所有者の全員のために、前項に規定する訴訟を提起することができる。
4 前3項の規定は、占有者が第6条第3項において準用する同条第1項に規定する行為をした場合及びその行為をするおそれがある場合に準用する。

■ Aさん個人としての請求


 被害を訴えているAさん個人が、Yさんに対し、自らの人格権や民法709条【※3】等を根拠として、何らかの請求をすること自体は自由でしょう。ただし、Yさんの行為がそもそも不法行為に該当するかどうかの判断は容易ではありません【※4】。


 【※3】民法709条

(不法行為による損害賠償)
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 【※4】不法行為該当性について

 マンションのような集合住宅にあっては、その構造上、ある居宅における騒音や振動が他の居宅に伝播して、そこでの平穏な生活や安眠を害するといった生活妨害の事態がしばしば発生するところですが、どういう場合が不法行為を構成するといえるかは難しい問題です。
 この点に関しては、「加害行為の有用性、妨害予防の簡便性、被害の程度及びその存続期間、その他の双方の主観的及び客観的な諸般の事情に鑑み、平均人の通常の感覚ないし感受性を基準として判断して、一定の限度までの生活妨害は、このような集合住宅における社会生活上やむを得ないものとして互いに受忍すべきである一方、右の受忍の限度を超えた騒音や振動による他人の生活妨害は、権利の濫用として不法行為を構成することになる」(東京地裁平成6年5月9日判決)といわれています。

■ 理事長としての対応


 現時点で、理事長としては、上記Aさん個人の請求に直接介入することは避けるべきでしょう。Yさんとしては、「自分は騒音を出していない」という認識かもしれません(そもそも、Yさんの行為は不法行為に該当しないかもしれません)し、理事長の介入の仕方によっては、Yさんとしては「名誉を毀損された」と主張して(その主張の当否はさて措き)、理事長に対し損害賠償請求等をしてくる可能性も否定できません。

 仮に、このようなケースにおいて理事長として対応しようとすれば、Yさん個人を加害者扱いすることなく、全居住者に向けた一般的抽象的な注意文書の掲示(配付)等にとどめておいたほうがよいでしょう。


Ⅱ ご質問2について 


■ 「共同の利益に反する行為」とは


1 区分所有者・占有者の義務

 区分所有法において、「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。」と定められています(区分所有法6条1項)【※1】。

 区分所有者以外の専有部分の占有者も区分所有法6条1項が準用されます(区分所有法6条3項)【※1】ので、占有者も同様の義務を負っています。


2 区分所有法6条1項で規定する禁止行為

 区分所有法6条1項の「建物の保存に有害な行為」とは、建物全体の安全性を損なうような物的侵害行為(共用部分の毀損行為のほか、専有部分の毀損であってもそれが建物全体の安全性を損なうような行為)などが該当します。ただし、次に述べる「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」と明確に区別できない場合もあります。

 「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」とは、区分所有者の生活上の利益を含む建物の管理又は使用に対する共同利益に反する行為が該当します。

 例えば、共用部分の不当使用行為のほか、いわゆるニューサンス(騒音・振動・悪臭などの発生行為)なども、それが相当範囲の区分所有者の生活利益に影響するような場合には「共同の利益に反する行為」に該当し得ます。また、マンションの正常な管理又は使用を阻害する行為(最高裁平成24年1月17日判決の事案【※5】参照)も「共同の利益に反する行為」に該当し得ます。さらに、管理費等の滞納行為も「共同の利益に反する行為」に該当し得ます【※6】。

 なお、「共同の利益に反する行為」にあたるかどうかは、「当該行為の必要性の程度、これによって他の区分所有者が被る不利益の態様、程度等の諸事情を比較考量して決すべき」(東京高裁昭和53年2月27日判決)といわれています。


 【※5】最高裁平成24年1月17日判決の事案

 マンションの区分所有者が、業務執行に当たっている管理組合の役員らをひぼう中傷する内容の文書を配布し、マンションの防音工事等を受注した業者の業務を妨害するなどする行為は、それが単なる特定の個人に対するひぼう中傷等の域を超えるもので、それにより管理組合の業務の遂行や運営に支障が生ずるなどしてマンションの正常な管理又は使用が阻害される場合には、「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たる余地があるとされた事案。

 【※6】管理費等の滞納

 管理費等の滞納行為が「共同の利益に反する行為」に該当するという意義(実益)は、管理費等滞納行為を理由として区分所有法59条に基づく競売請求を求めることにあります。
 ちなみに、区分所有法57条の差止請求との関係で敢えて「必要な措置」について考えてみると、結局、管理費等の支払を求めること(通常の管理費等請求)になりますので、管理費等の滞納につき区分所有法57条の差止請求を求める意義(実益)はありません。
 また、専有部分使用禁止請求(区分所有法58条1項)との関係においては、専有部分の使用を禁止することによって当該区分所有者が滞納管理費等を支払うとはいえません(却って滞納が拡大する可能性もあります)ので、この請求が管理費等滞納問題解決に効果があるとはいえません。裁判例としても、管理費等滞納を理由とする専有部分使用禁止請求を否定しています(大阪高裁平成14年5月16日判決)。
 他方、区分所有法59条の競売請求については、競売による買受人が未払の管理費等の支払義務を承継する(同法8条)ことになりますので、同条の競売請求は管理費等の滞納問題解決に効果があるといえます。実際、管理費等滞納を理由とする競売請求(区分所有法59条)は積極的に活用されており、非常に多くの裁判でこれが認められています。

3 義務違反行為者に対する措置

 仮に「共同の利益に反する行為」に該当する場合には、管理組合理事長側は、区分所有法57条1項【※2】に基づく行為停止等請求が可能となります。


■ 区分所有法57条【※2】に基づく行為停止等請求について


1 留意事項1

 区分所有法57条1項に基づく行為停止等の請求は裁判外でも可能です【※7】が、訴訟を提起する場合には「集会の決議」が必要です(同条2項)。この場合の「集会の決議」は普通決議で足ります。

 法人化されていない団体においては「管理者」又は「集会において指定された区分所有者」が訴訟追行する必要がありますので、授権のための「集会の決議」も必要となります(同条3項)。この場合の「集会の決議」も普通決議で足ります。


 【※7】裁判外での請求について

 マンション標準管理規約(単棟型)と同様の規約が設定されている管理組合が、仮に裁判外で行為停止等を求めようとする場合には、理事長の独断で行うのではなく、「理事会の決議」を経て行うべきでしょう(同管理規約67条1項参照)。

2 留意事項2

 訴訟提起のための集会の決議(区分所有法57条2項)に際し、区分所有者であれば当然に集会に参加することができますが、単なる占有者については当然に集会に参加できるとはいえません。

 また、区分所有法57条には、区分所有法60条(占有者に対する引渡し請求)における「弁明の機会」(60条2項が準用する58条3項)に関する規定もありません。

 そこで、区分所有法57条に基づいて占有者に対し訴訟提起しようとする場合、同占有者(被告となるべき者)に対し、集会に出席して意見を述べる機会(区分所有法44条1項参照)を与えるべきかどうかが問題となります。

 これについては不要とする見解が多いようですが、筆者としては、占有者にも集会に出席して意見を述べる機会(区分所有法44条1項参照)を与えたほうがよいと考えています。そうすれば、占有者が任意に共同利益背反行為を止めることもあり得るでしょうし、また、訴訟に移行した場合においても無益な争点を一つ回避することができるといえます。

 

 

 


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