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土地賃貸借:普通借地権の存続期間と借地上の建物の建替えについて

更新日:2022年5月8日

 今回は、普通借地権(以下、単に「借地権」といいます。)を前提として【※1】、借地権の存続期間や借地上の建物の建替えについて検討します。

 はじめに旧借地法下で設定された借地権に適用される規律を確認します。

 次に、借地権の存続期間について、「旧借地法下で設定された借地権」と「現在の借地借家法下で設定された借地権」とを区別し、それぞれの「当初の存続期間」、「更新後の存続期間」を確認し整理していきます。

 その上で、借地上の建物の建替えについて、増改築禁止特約がある場合とない場合に分けて検討していきます。増改築禁止特約がない場合であっても再築に関する規律が問題となりますので、「旧借地法下で設定された借地権の場合の再築」と「借地借家法下で設定された借地権の場合の再築」とを区別して、それぞれ検討を加えていきます。


 【※1】

本稿では、存続期間の更新がある普通借地権を前提としています。更新がない定期借地権(一般定期借地権、建物譲渡特約付借地権、事業用借地権)については別で触れることにします。

■ はじめに(旧借地法下で設定された借地権について)


1 旧借地法の規律が適用される事項


 現在の借地借家法は1992年8月1日に施行されています。その前は借地法(以下、便宜上「旧借地法」といいます。)が存在しました。

 旧借地法のもとで成立していた借地権については、借地借家法が適用されるのか、それとも旧借地法の規律が適用されるのかをまず確認しておく必要があります。

 旧借地法の規律が適用されるものとしては下記(1)〜(5)の事項が挙げられます。なお、借地借家法で新設された下記(6)〜(8)の規定は、旧借地法のもとで設定された借地権には適用されませんので、その意味で従前(旧借地法)の規律のままとなります。


(1)旧借地法2条の規定に基づく当初の存続期間(借地借家法附則4条ただし書)【※2】

(2)旧借地法2条1項・5条1項の規定に基づく建物朽廃による借地権の消滅(借地借家法附則5条)【※2】

(3)旧借地法7条の規定に基づく建物再築による期間の延長(借地借家法附則7条1項)【※2】

(4)旧借地法5条・4条3項・6条1項の規定に基づく更新後の期間(借地借家法附則6条)【※2】

(5)旧借地法4条・6条2項の規定に基づく更新拒絶の正当事由(借地借家法附則6条)【※2】

(6)借地借家法8条の規定に基づく更新後の建物再築に対する解約(借地借家法附則7条2項)【※2】

(7)借地借家法18条の規定に基づく更新後の建物再築についての裁判所の許可の裁判(借地借家法附則11条)【※2】

(8)借地借家法13条2項の規定に基づく建物買取請求権があった場合の代金支払の期限猶予(借地借家法附則9条1項)【※2】


 【※2】 借地借家法附則1条〜11条

(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

(建物保護に関する法律等の廃止)
第二条 次に掲げる法律は、廃止する。
 一 建物保護に関する法律(明治四十二年法律第四十号)
 二 借地法(大正十年法律第四十九号)
 三 借家法(大正十年法律第五十号)

(旧借地法の効力に関する経過措置)
第三条 接収不動産に関する借地借家臨時処理法(昭和三十一年法律第百三十八号)第九条第二項の規定の適用については、前条の規定による廃止前の借地法は、この法律の施行後も、なおその効力を有する。

(経過措置の原則)
第四条 この法律の規定は、この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行前に生じた事項にも適用する。ただし、附則第二条の規定による廃止前の建物保護に関する法律、借地法及び借家法の規定により生じた効力を妨げない。

(借地上の建物の朽廃に関する経過措置)
第五条 この法律の施行前に設定された借地権について、その借地権の目的である土地の上の建物の朽廃による消滅に関しては、なお従前の例による。

(借地契約の更新に関する経過措置)
第六条 この法律の施行前に設定された借地権に係る契約の更新に関しては、なお従前の例による。

(建物の再築による借地権の期間の延長に関する経過措置)
第七条 この法律の施行前に設定された借地権について、その借地権の目的である土地の上の建物の滅失後の建物の築造による借地権の期間の延長に関しては、なお、従前の例による。
2 第八条の規定は、この法律の施行前に設定された借地権については、適用しない。

(借地権の対抗力に関する経過措置)
第八条 第十条第二項の規定は、この法律の施行前に借地権の目的である土地の上の建物の滅失があった場合には、適用しない。

(建物買取請求権に関する経過措置)
第九条 第十三条第二項の規定は、この法律の施行前に設定された借地権については、適用しない。
2 第十三条第三項の規定は、この法律の施行前に設定された転借地権については、適用しない。

(借地条件の変更の裁判に関する経過措置)
第十条 この法律の施行前にした申立てに係る借地条件の変更の事件については、なお従前の例による。

(借地契約の更新後の建物の再築の許可の裁判に関する経過措置)
第十一条 第十八条の規定は、この法律の施行前に設定された借地権については、適用しない。

2 旧借地法下で設定された借地権の存続期間について


 旧借地法下で設定された借地権の存続期間については、借地借家法施行(旧借地法の廃止)によって変更されることはありません(借地借家法附則4条ただし書)。更新に関しても旧借地法の規律に従います(借地借家法附則6条)。なお、借地上の建物が堅固建物か非堅固建物かどうかで存続期間に違いが生じます。

 条文上は「石造、土造、煉瓦造又ハ之ニ類スル」建物が「堅固ノ建物」(旧借地法2条)ということになります。一般的には、コンクリート建物は堅固建物に該当し、木造建物は非堅固建物に該当すると考えてよいでしょう。

 ただし、現在の建築技術を前提とすれば、堅固・非堅固の判断は容易ではありません。現在の借地借家法(平成4年8月1日施行)のもとで設定された借地権については、堅固・非堅固による区別はありません。


 【※3】 旧借地法2条〜6条

第二条 借地権ノ存続期間ハ石造、土造、煉瓦造又ハ之ニ類スル堅固ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ六十年、其ノ他ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ三十年トス但シ建物カ此ノ期間満了前朽廃シタルトキハ借地権ハ之ニ因リテ消滅ス 
2 契約ヲ以テ堅固ノ建物ニ付三十年以上、其ノ他ノ建物ニ付二十年以上ノ存続期間ヲ定メタルトキハ借地権ハ前項ノ規定ニ拘ラス其ノ期間ノ満了ニ因リテ消滅ス 

第三条 契約ヲ以テ借地権ヲ設定スル場合ニ於テ建物ノ種類及構造ヲ定メサルトキハ借地権ハ堅固ノ建物以外ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノト看做ス

第四条 借地権消滅ノ場合ニ於テ借地権者カ契約ノ更新ヲ請求シタルトキハ建物アル場合ニ限リ前契約ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ借地権ヲ設定シタルモノト看做ス但シ土地所有者カ自ラ土地ヲ使用スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由アル場合ニ於テ遅滞ナク異議ヲ述ヘタルトキハ此ノ限ニ在ラス
2 借地権者ハ契約ノ更新ナキ場合ニ於テハ時価ヲ以テ建物其ノ他借地権者カ権原ニ因リテ土地ニ附属セシメタル物ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得
3 第五条第一項ノ規定ハ第一項ノ場合ニ之ヲ準用ス

第五条 当事者カ契約ヲ更新スル場合ニ於テハ借地権ノ存続期間ハ更新ノ時ヨリ起算シ堅固ノ建物ニ付テハ三十年、其ノ他ノ建物ニ付テハ二十年トス此ノ場合ニ於テハ第二条第一項但書ノ規定ヲ準用ス 
2 当事者カ前項ニ規定スル期間ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ其ノ定ニ従フ

第六条 借地権者借地権ノ消滅後土地ノ使用ヲ継続スル場合ニ於テ土地所有者カ遅滞ナク異議ヲ述ヘサリシトキハ前契約ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ借地権ヲ設定シタルモノト看做ス此ノ場合ニ於テハ前条第一項ノ規定ヲ準用ス 
2 前項ノ場合ニ於テ建物アルトキハ土地所有者ハ第四条第一項但書ニ規定スル事由アルニ非サレハ異議ヲ述フルコトヲ得ス

■ 普通借地権の存続期間の整理


1 旧借地法下で設定された借地権について


(1)当初の存続期間

 ア 堅固建物である場合

 (ア)合意により30年以上の期間を定めたときはその期間(約定期間)となります(旧借地法2条2項)【※3】。

 (イ)30年未満の期間の合意をしたとき又は何ら期間を定めなかったときは、旧借地法2条1項【※3】が定める法定期間(60年)となります。


 イ 非堅固建物である場合

 (ア)合意により20年以上の期間を定めたときはその期間(約定期間)となります(旧借地法2条2項)【※3】。

 (イ)20年未満の期間の合意をしたとき又は何ら期間を定めなかったときは、旧借地法2条1条【※3】が定める法定期間(30年)となります。


(2)更新後の存続期間

 ア 堅固建物である場合

 (ア)合意により30年以上の期間を定めたときはその期間(約定期間)となります(旧借地法5条2項)【※3】。

 (イ)30年未満の期間の合意をしたとき又は何ら期間を定めなかったときは、旧借地法5条1項【※3】が定める法定期間(30年)となります。


 イ 非堅固建物である場合

 (ア)合意により20年以上の期間を定めたときはその期間(約定期間)となります(旧借地法5条2項)【※3】。

 (イ)20年未満の期間の合意をしたとき又は何ら期間を定めなかったときは、旧借地法5条1項【※3】が定める法定期間(20年)となります。


2 現在の借地借家法下で設定された借地権について


 平成4年8月1日以降に設定された借地権の存続期間(借地借家法3条・4条)【※4】

は堅固建物か非堅固建物かどうかで違いは生じません。

(1)当初の存続期間

 ア 合意により30年以上の期間を定めたときは、その期間(約定期間)となります(借地借家法3条ただし書)【※4】。

 イ 30年未満の期間の合意をしたとき又は何ら期間を定めなかったとき、借地借家法3条本文【※4】が定める法定期間(30年)となります。


(2)更新後の存続期間

 ア 初回(1回目)の更新の場合

 (ア)合意により20年以上の期間を定めたときはその期間(約定期間)となります(借地借家法4条ただし書)【※4】。

 (イ)20年未満の期間の合意をしたとき又は何ら期間を定めなかったときは借地借家法4条本文括弧書【※4】が定める法定期間(20年)となります【※4】。


 イ 2回目以降の更新の場合

 (ア)合意により10年以上の期間を定めたときはその期間(約定期間)となります(借地借家法4条ただし書)【※4】。

 (イ)10年未満の期間の合意をしたとき又は何ら期間を定めなったときは借地借家法4条本文【※4】が定める法定期間(10年)となります。


 【※4】 借地借家法3条〜6条

(借地権の存続期間)
第三条 借地権の存続期間は、三十年とする。ただし、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。

(借地権の更新後の期間)
第四条 当事者が借地契約を更新する場合においては、その期間は、更新の日から十年(借地権の設定後の最初の更新にあっては、二十年)とする。ただし、当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。

(借地契約の更新請求等)
第五条 借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。
2 借地権の存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するときも、建物がある場合に限り、前項と同様とする。
3 転借地権が設定されている場合においては、転借地権者がする土地の使用の継続を借地権者がする土地の使用の継続とみなして、借地権者と借地権設定者との間について前項の規定を適用する。

(借地契約の更新拒絶の要件)
第六条 前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。

■ 借地上の建物の建替え


 借地人が、朽廃【※5】していない建物を取り壊して、借地権の残存期間を超えて存続するような建物を築造する場合について検討します。

 まず、増改築禁止特約があるかどうかに注意しなければなりません。増改築禁止特約がない場合においても、再築に関する規律に注意しなければなりません。


 【※5】 建物の朽廃

 建物の朽廃とは、建物が自然の推移により腐朽頽廃し、その効用を失ったこと(つまり経年劣化により腐朽損壊したこと)をいいます。
 「朽廃」という文言は、旧借地法2条1項ただし書【※3】と借地借家法附則5条【※2】に存在します。
 建物の朽廃によって借地権が消滅するのは、旧借地法のもとで設定された借地権であり、かつ法定期間中(最初の法定期間、その後の法定更新を含みます。)に建物が「朽廃」したとき(旧借地法2条1項ただし書・5条1項後段)ということになります。つまり、約定期間中は建物朽廃による借地権消滅はありません。
 旧借地法下で設定された借地権の法定期間中に建物を建て替える場合には、「朽廃」の規定との関係で問題(トラブル)が生じることがあります。
 具体的に述べますと、旧借地法2条1項ただし書は、建物の朽廃とともに借地権が消滅すると定めていますが、借地権の法定期間満了前に建物が朽廃したであろうといえる状態のもとで借地人が地主の反対(異議)を押し切って建物を建替え(改築)したような場合には、もともとの建物が朽廃すべかりし時期をもって借地権が消滅すると判断されてしまう可能性があります(最高裁昭和42年9月21日判決参照)し、そうでなかったとしても地主とのトラブルになりかねません。
 そのようなとき、借地人側としては、あえて裁判所の手続(借地借家法17条に基づく裁判の申立て等)を利用するという方法が考えられます。なお、旧借地法下で設定された借地権であっても、1992年8月1日以降に借地条件変更の裁判や地主の承諾に代わる裁判所の許可の裁判を申し立てるのであれば、借地借家法17条【※6】が適用されます(借地借家法附則4条本文・10条【※2】参照)。

 【※6】 借地借家法17条

(借地条件の変更及び増改築の許可)
第十七条 建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合において、法令による土地利用の規制の変更、付近の土地の利用状況の変化その他の事情の変更により現に借地権を設定するにおいてはその借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず、借地条件の変更につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、当事者の申立てにより、その借地条件を変更することができる。
2 増改築を制限する旨の借地条件がある場合において、土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、その増改築についての借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。
3 裁判所は、前二項の裁判をする場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、他の借地条件を変更し、財産上の給付を命じ、その他相当の処分をすることができる。
4 裁判所は、前三項の裁判をするには、借地権の残存期間、土地の状況、借地に関する従前の経過その他一切の事情を考慮しなければならない。
5 転借地権が設定されている場合において、必要があるときは、裁判所は、転借地権者の申立てにより、転借地権とともに借地権につき第一項から第三項までの裁判をすることができる。
6 裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、第一項から第三項まで又は前項の裁判をする前に鑑定委員会の意見を聴かなければならない。

1 増改築禁止特約との関係


(1)増改築禁止特約がある場合

 建物所有を目的とする土地賃貸借においては、借地権者が、自身の所有する建物を増改築することは、借地条件(例えば、建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の条件)に反しない限り、本来自由にできるはずですが、実務的には、地主の承諾なく増改築してはならない旨の特約(増改築禁止特約)が結ばれていることがあります(むしろそのほうが多いでしょう)。

 増改築禁止特約がある場合、無断で増改築してしまうと、地主との信頼関係を破壊したとして契約を解除されてしまうおそれがあります。

 そこで、増改築禁止特約がある場合に借地人が建物を建て替えようとすれば、地主の承諾を得ておく必要があります。

 仮に、地主が承諾しないような場合には、地主の承諾に代わる裁判所の許可の申立て(借地借家法17条2項)【※6】をすべきでしょう。

 なお、増改築禁止特約の存在が不明確なケースにおいても、借地人側としてはリスク(地主とのトラブル)を避けるために、借地借家法17条2項【※6】の規定に基づく申立てを行い、あえて増改築禁止特約の不存在を理由とする却下決定をもらったうえで増改築に着手するという方法も考えられます。


(2)増改築禁止特約がない場合

 増改築特約がない場合、借地条件(例えば、建物の種類、構造、規模又は用途を制限する旨の条件)に反しない限り、本来、増改築は自由です。

 ただし、既存の建物を取り壊して新しい建物を建築するという場合、建物が滅失した場合の築造(再築)に該当すると解されますので、再築に関する規律に注意する必要があります。

 ちなみに、建物の滅失(旧借地法7条)【※7】とは、もともと地震や火災のような自然力によって建物が消滅した場合を意味していましたが、次第に緩やかに解釈されるようになり、借地権者による任意の取り壊しの場合もこれに含むと解されています(最高裁昭和38年5月21日判決参照)。

 以下、再築に関する規律について確認します。


ア 旧借地法下で設定された借地権の場合の再築

 最初の存続期間の場合と更新後の存続期間の場合が想定されますが、これらの場合で違いはなく、旧借地法7条【※7】の規律に従います。

(ア)地主から遅滞なき異議がなかった場合

 借地権者が、残存期間を超えて存続する建物を築造するのに対し、土地所有者が遅滞なく異議を述べなかったときは、借地権は建物滅失の日より起算して、堅固建物については30年間、非堅固建物については20年間存続することになります。

(イ)地主から遅滞なき異議があった場合

 土地所有者から遅滞なく異議が述べられたときは、もともとの存続期間のままとなります(ただし、前述した朽廃との関係【※5】では注意が必要です)。

もともとの存続期間満了時には、旧借地法4条・5条・6条【※3】の適用が問題となります。地主側が更新を拒絶するには正当事由が必要となります(旧借地法4条1項ただし書)。


イ 借地借家法下で設定された借地権の場合の再築

 最初の存続期間の場合と更新後の存続期間の場合とで規律が異なります。

(ア)最初の存続期間の場合

 借地借家法7条【※8】の規律に従います。

 a 地主の承諾がある場合

 その建物を築造するにつき地主の承諾があれば、借地権は、承諾があった日又は建物が築造された日のいずれか早い日から20年間存続します。ただし、当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間となります(借地借家法7条1項)【※8】。

 b 承諾擬制

 借地権者が地主に対し残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造する旨を通知した場合において、地主がその通知を受けた後2月以内に異議を述べなかったときは、原則としてその建物を築造するにつき地主の承諾があったものとみなされます(借地借家法7条2項本文)【※8】。

 c 地主の承諾なく、承諾擬制も認められない場合

 承諾が得られず、承諾擬制も認められない場合には、当初の借地権の存続期間が維持されます。存続期間満了時に地主側が更新拒絶するには正当事由が必要となります(借地借家法6条)【※4】。


(イ)更新後の存続期間の場合

 借地借家法8条【※9】が適用されます。なお、借地人側は、同法18条【※10】の規定に基づき、地主の承諾に代わる裁判所の許可の裁判を申し立てることができます。

 a 地主の承諾がある場合

 地主の承諾(借地借家法8条)【※9】があった場合、同法7条1項【※8】の規律に従い、承諾があった日又は建物の築造された日のいずれか早い日から20年間存続します。ただし、当事者がこれより長い期間を定めたときはその期間となります。

 b 地主の承諾に代わる裁判所の許可がある場合

地主の承諾に代わる裁判所の許可(借地借家法18条【※10】)によって裁判所が期間を定めたときはその期間となります。なお、裁判所は、同法7条1項の期間と異なる期間を定めることができるほか、他の借地条件を変更したり、財産上の給付(いわゆる承諾料)を命じたりすることもできます。

 c (地主の承諾なく、裁判所の許可もなく)地主が解約権を行使した場合

 借地人が地主の承諾も裁判所の許可も得ずに建物を再築した場合、地主は解約を申し入れることができます(ただし、地主からの解約申入れができない旨の特約がある場合を除きます)。地主が解約を申し入れたときは、その日から3か月経過により借地権は消滅します(借地借家法8条3項)【※9】。この場合には、借地人側の建物買取請求権(借地借家法13条)【※11】は認められないと解されています(法務省民事局参事官室『一問一答 新しい借地借家法』(商事法務研究会、1992年3月)66頁参照)。

 d (地主の承諾なく、裁判所の許可もなく)地主が解約権を行使しなかった場合

 借地人が地主の承諾も裁判所の許可も得ずに建物を再築したものの、地主が解約権を行使しなかった場合には、その借地権の存続期間満了時において更新(地主側は正当事由を具備した更新拒絶)の問題が生じることになります。


 【※7】 旧借地法7条

第七条 借地権ノ消滅前建物カ滅失シタル場合ニ於テ残存期間ヲ超エテ存続スヘキ建物ノ築造ニ対シ土地所有者カ遅滞ナク異議ヲ述ヘサリシトキハ借地権ハ建物滅失ノ日ヨリ起算シ堅固ノ建物ニ付テハ三十年間、其ノ他ノ建物ニ付テハ二十年間存続ス但シ残存期間之ヨリ長キトキハ其ノ期間ニ依ル

 【※8】 借地借家法7条

(建物の再築による借地権の期間の延長)
第七条 借地権の存続期間が満了する前に建物の滅失(借地権者又は転借地権者による取壊しを含む。以下同じ。)があった場合において、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは、その建物を築造するにつき借地権設定者の承諾がある場合に限り、借地権は、承諾があった日又は建物が築造された日のいずれか早い日から二十年間存続する。ただし、残存期間がこれより長いとき、又は当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間による。
2 借地権者が借地権設定者に対し残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造する旨を通知した場合において、借地権設定者がその通知を受けた後二月以内に異議を述べなかったときは、その建物を築造するにつき前項の借地権設定者の承諾があったものとみなす。ただし、契約の更新の後(同項の規定により借地権の存続期間が延長された場合にあっては、借地権の当初の存続期間が満了すべき日の後。次条及び第十八条において同じ。)に通知があった場合においては、この限りでない。
3 転借地権が設定されている場合においては、転借地権者がする建物の築造を借地権者がする建物の築造とみなして、借地権者と借地権設定者との間について第一項の規定を適用する。

 【※9】 借地借家法8条

(借地契約の更新後の建物の滅失による解約等)
第八条 契約の更新の後に建物の滅失があった場合においては、借地権者は、地上権の放棄又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができる。
2 前項に規定する場合において、借地権者が借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは、借地権設定者は、地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができる。
3 前二項の場合においては、借地権は、地上権の放棄若しくは消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れがあった日から三月を経過することによって消滅する。
4 第一項に規定する地上権の放棄又は土地の賃貸借の解約の申入れをする権利は、第二項に規定する地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れをする権利を制限する場合に限り、制限することができる。
5 転借地権が設定されている場合においては、転借地権者がする建物の築造を借地権者がする建物の築造とみなして、借地権者と借地権設定者との間について第二項の規定を適用する。

 【※10】 借地借家法18条

(借地契約の更新後の建物の再築の許可)
第十八条 契約の更新の後において、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造することにつきやむを得ない事情があるにもかかわらず、借地権設定者がその建物の築造を承諾しないときは、借地権設定者が地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができない旨を定めた場合を除き、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、延長すべき借地権の期間として第七条第一項の規定による期間と異なる期間を定め、他の借地条件を変更し、財産上の給付を命じ、その他相当の処分をすることができる。
2 裁判所は、前項の裁判をするには、建物の状況、建物の滅失があった場合には滅失に至った事情、借地に関する従前の経過、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。)が土地の使用を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。
3 前条第五項及び第六項の規定は、第一項の裁判をする場合に準用する。

 【※11】 借地借家法13条

(建物買取請求権)
第十三条 借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
2 前項の場合において、建物が借地権の存続期間が満了する前に借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべきものとして新たに築造されたものであるときは、裁判所は、借地権設定者の請求により、代金の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。
3 前二項の規定は、借地権の存続期間が満了した場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。

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今回は、以下のような質問について検討します。 当社(X)は、建物(住宅)の賃貸人であり、個人(Y)に対し、建物を賃貸しています。当社はいわゆるマスターレッシーの立場にあり、サブリースしています。  当社とYとの契約について消費者契約法の適用があることは理解しています。  Yとの契約書には、以下のような条項(以下「本件解約予告条項」といいます。)があります。これは当社の契約書雛形に従った内容です。

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