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  • @lawyer.hiramatsu

マンション管理:滞納者の保有財産の調査について

更新日:2023年12月13日

 今回は、以下のようなご質問について検討します。

 現在(令和5年9月時点)のマンション標準管理規約コメント別添3「滞納管理費等回収のための管理組合による措置に係るフローチャート」の解説(2)【※1】や「補足解説1.滞納者の保有資産の調査」【※2】の部分に、滞納者の保有財産の調査に関する記載があります。
 この記載【※1】【※2】に従って滞納者の財産を調査したいのですが、実際、どうすればよいでしょうか。

 【※1】マンション標準管理規約コメント別添3の「滞納管理費等回収のための管理組合による措置に係るフローチャート」の解説(2)の部分

(2)滞納者の保有財産の調査
 滞納者の専有部分等について、抵当権等の設定の有無を調査するとともに、専有部分等以外の資産について、現住所と最低限その直前に居住していた市区町村内と勤務先の市区町村内の調査を行う。
 金融資産については、金融機関が顧客情報の流出を懸念して本人の同意を求める可能性が考えられるため、区分所有者間の同意を事前にとって銀行等から情報開示を得ることが考えられる。
 また、課税当局(地方自治体)の固定資産課税台帳については、本人の同意書を携えて調査する。
 登記情報については、地番や家屋番号等が分かれば情報の取得が可能であるので、それまでの調査結果に基づき取得した地番や家屋番号等を基に各登記所で確認の閲覧調査を行う。

 【※2】「補足解説1.滞納者の保有資産の調査」の部分

上記(2)の滞納者の保有資産の調査について、以下のとおり補足する。
(1)金融資産の調査
 金融資産については、滞納者本人から情報提供の協力が得られない場合には、銀行等に預金等の有無の情報開示を求めることが考えられるが、金融機関は顧客情報の流出を懸念して本人の同意を求める可能性が考えられる。開示を求める範囲としては、現住所と最低限その直前に居住していた市区町村内の銀行等や勤務先の市区町村内の銀行等が考えられる注。
 注 銀行等の本店による一括照会を請求する。
(2)不動産の調査
 一方、不動産については、滞納者本人から情報提供の協力が得られない場合には、課税当局が保有する情報から検索することと登記情報から検索することが考えられる。
 このうち、課税当局の固定資産課税台帳による調査も保有不動産を確認する手段として考えられる。地方自治体は、地方税法上の守秘義務に抵触することを懸念するものの、固定資産課税台帳は、本人の同意を書面で確認できれば代理人が閲覧したり、記載事項の証明書の交付を受けることができる。調査する範囲としては、滞納者の現住所と最低限その直前に居住していた市区町村とすることが費用対効果の観点から適切である
 また、登記情報については、地番や家屋番号等が分かれば情報の取得をすることが可能であるので、それまでの調査結果に基づき取得した地番や家屋番号等を基に各登記所で確認の閲覧調査を行う。
 なお、登記情報は、どの登記所においても全国の登記情報を閲覧することができ、登記情報提供サービス(http://www1.touki.or.jp/)を利用してインターネット上で確認することも可能である。

■ 回答(私見)


 上記の解説部分【※1】には、「金融資産については、・・・同意を事前にとって銀行等から情報開示を得ることが考えられる。」、「課税当局(地方自治体)の固定資産課税台帳については、本人の同意書を携えて調査する。」といった記載がありますが、現実問題として、滞納者がそのようなことに同意(協力)するとは考えられません。

 付言すると、仮に、管理規約に滞納者の同意擬制の規定を置いたとしても、当該管理規約の規定は第三者(銀行等や地方自治体)を拘束するものでもないため、第三者(銀行等や地方自治体)が、管理組合に対し、滞納者の財産情報を開示するとは考えられません。

 現実的なことを述べると、管理組合としては、債務名義を取得した後に財産開示手続を利用して滞納者の財産に関する情報を取得することが考えられます。もちろん、滞納者の財産情報(不動産、預貯金、勤務先等の情報)を既に入手しているのであれば、財産開示手続を利用するまでもなく、債務名義に基づいて強制執行を申し立てることが考えられます。


 財産開示手続に関しては下記サイトをご参照ください。


■ 補足(私見)


(1)預貯金情報について

 預貯金情報については、第三者からの預貯金情報取得手続(民事執行法207条1項1号)において解説したとおり、一定の要件を充たせば(財産開示手続を経ることなく)、第三者である銀行等から情報を取得することができます。もし強制執行準備のために滞納者の預貯金情報を知りたいというのであれば直截に第三者からの預貯金情報取得手続(民事執行法207条1項1号)を活用されたほうがよいでしょう。


(2)不動産情報について

 不動産情報に関しても、一定の要件を充たせば、第三者である法務局(現在は「東京法務局」)から47都道府県の不動産に係る情報を取得することできます。ただし、第三者から不動産情報を取得するためには、財産開示手続が実施されていること(民事執行法205条2項【※3】参照)が要件となります。


 【※3】民事執行法205条

(債務者の不動産に係る情報の取得)
第205条 執行裁判所は、次の各号のいずれかに該当するときは、それぞれ当該各号に定める者の申立てにより、法務省令で定める登記所に対し、債務者が所有権の登記名義人である土地又は建物その他これらに準ずるものとして法務省令で定めるものに対する強制執行又は担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項として最高裁判所規則で定めるものについて情報の提供をすべき旨を命じなければならない。ただし、第一号に掲げる場合において、同号に規定する執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないときは、この限りでない。
 一 第197条第1項各号のいずれかに該当する場合 執行力のある債務名義の正本を有する金銭債権の債権者
 二 第197条第2項各号のいずれかに該当する場合 債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者
2 前項の申立ては、財産開示期日における手続が実施された場合(当該財産開示期日に係る財産開示手続において第200条第1項の許可がされたときを除く。)において、当該財産開示期日から3年以内に限り、することができる。
3~5項略

(3)第三者からの情報取得手続全般について

 第三者からの情報取得手続に関しては下記サイトが参考になります。書式等も掲載されています。


■ さいごに


 前記の【※1】や【※2】に従って滞納者の財産を調査するというのは現実的ではありません。管理組合として滞納者の財産状況を調査したいのであれば、滞納者の同意(協力)など期待せずに、民事執行法に基づく「財産開示手続」や「第三者からの情報取得手続」を利用されたほうがよいと思われます。

 

 

 


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