今回は、以下のようなご質問について検討します。
私は、1棟の建物(複数の住戸)を所有し各住戸を賃貸しています。
101号室の賃借人から、「上から漏水している」という連絡がありました。私や賃貸管理会社は、上階(201号室)の配管等に原因があるのではないかと考え、201号室の賃借人に立入調査の協力を求めました。
ところが、201号室の賃借人は、私や賃貸管理会社の過去の言動等に難癖をつけて、一向に協力してくれません。
漏水問題が解決しないので、私は101号室の賃借人ともトラブルになっています。
上階(201号室)の賃借人との賃貸借契約を解除することはできますか。
■ 検討
1 民法606条2項に基づく賃借人の義務について
民法606条2項【※】は、「賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。」と規定しています。
賃貸人が賃貸物の保存に必要な修繕等の行為をすることは、賃貸人の義務でもありますが、権利でもあります。
東京地裁平成26年10月20日判決の表現を借りると、「建物賃借人は,賃貸人が行おうとする賃貸建物の保存行為に対する受忍義務を負っているから(民法606条2項),建物保存のための調査や工事を当該賃借人の賃借部分で実施する必要があるときは,賃借人は,正当な理由なくして自己の賃借部分への立入り等を拒むことができない。」ということになります。
2 民法606条2項の義務違反を理由とする契約解除について
賃借人が正当な理由なく賃貸物の保存行為を拒絶する場合には債務不履行を構成することになります。
ただし、建物賃貸借契約の解除が認められるためには,同賃貸借契約の基礎をなす信頼関係が破壊されたといえる必要があります。
信頼関係破壊の有無の判断に際しては、実際の賃貸人と賃借人とのやり取り、賃貸人側の対応及び賃借人側の対応等についても考慮されるでしょう。
本件において、例えば、賃貸人側は賃借人の協力を得るために必要十分な説明・対応をしているにもかかわらず、賃借人側が独善的かつ不合理な言い分・理由をもとに拒絶し続けているような場合には、賃借人側の行為は契約関係の継続を著しく困難ならしめる程度の不信行為にあたるといえるでしょうから、信頼関係破壊を理由とする契約解除は認められると思います。
【※】民法606条
(賃貸人による修繕等)
第六百六条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
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