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建物賃貸借:承諾転貸借における原賃貸借契約終了による賃貸人から転借人に対する建物明渡請求について

 賃貸人(X)と賃借人(Y)との契約が普通建物賃貸借契約であることを前提に、賃借人(=転貸人)が賃貸人の承諾【※1】を得た上で第三者(=転借人)(Z)に建物を転貸している場合、XY間の賃貸借契約終了をもって、賃貸人(X)は転借人(Z)に対し建物明渡しを求めることができるでしょうか。

 XY間の賃貸借契約の終了原因が、①XYとの合意解除の場合、②Yの債務不履行による解除の場合、③Xからの更新拒絶ないし解約申入れの場合、④Yからの更新拒絶ないし解約申入れの場合に分けて検討します。


【※1】 民法612条

(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第六百十二条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

■ ①賃貸人と賃借人との合意解除の場合


 2020年4月1日に施行された改正民法613条3項本文【※2】が規定するように、賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することはできません。ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りではありません(民法613条3項ただし書【※2】)。

 それまでも、「賃貸人は、賃借人と賃貸借を合意解除しても、特段の事情のない限り、転貸借について承諾を与えた転借人に対しては右合意解除の効果を対抗することはできない」と解されていました(最高裁昭和37年2月1日判決【※3】、最高裁昭和38年2月21日判決【※4】)ので、改正民法613条3項は実質的な改正がなされたわけではなく、判例を明文化したものといえます。

 なお、特段の事情の存在により、合意解除の効果を転借人に対抗できることはあり得ます(最高裁昭和31年4月5日判決の事例【※5】、最高裁昭和38年4月12日判決の事例【※6】参照)。


【※2】 民法613条

(転貸の効果)
第六百十三条 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
2 前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
3 賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない。

【※3】 最高裁昭和37年2月1日判決

「賃借人が賃借家屋を第三者に転貸し、賃貸人がこれを承諾した場合には、転借人に不信な行為があるなどして賃貸人と賃借人との間で賃貸借を合意解除することが信義、誠実の原則に反しないような特段の事由がある場合のほか賃貸人と賃借人とが賃貸借解除の合意をしてもそのため転借人の権利は消滅しない旨の原判決の見解は、これを正当として是認する。」

【※4】 最高裁昭和38年2月21日判決

「上告人と被上告人との間には直接に契約上の法律関係がないにもせよ、建物所有を目的とする土地の賃貸借においては、土地賃貸人は、土地賃借人が、その借地上に建物を建築所有して自らこれに居住することばかりでなく、反対の特約がないかぎりは、他にこれを賃貸し、建物賃借人をしてその敷地を占有使用せしめることをも当然に予想し、かつ認容しているものとみるべきであるから、建物賃借人は、当該建物の使用に必要な範囲において、その敷地の使用収益をなす権利を有するとともに、この権利を土地賃貸人に対し主張し得るものというべく、右権利は土地賃借人がその有する借地権を抛棄することによつて勝手に消滅せしめ得ないものと解するのを相当とするところ、土地賃貸人とその賃借人との合意をもつて賃貸借契約を解除した本件のような場合には賃借人において自らその借地権を抛棄したことになるのであるから、これをもつて第三者たる被上告人に対抗し得ないものと解すべきであり、このことは民法三九八条、五三八条の法理からも推論することができるし、信義誠実の原則に照しても当然のことだからである。」

【※5】 最高裁昭和31年4月5日判決の事例

 家屋の賃貸人(X)が、近く予想されていた賃借人(Y)の家屋退去に至るまでの間を限って、その家屋の一部の転貸借について承諾を与えたものであり、転借人(Z)側も当初よりこの事実関係を了承していたといえるケースにおいて、転借権は、賃貸人と賃借人との賃貸借終了により消滅すると判断された事例

【※6】 最高裁昭和38年4月12日判決の事例

 賃貸人(X)から建物を借り受けて事業を営んでいた賃借人(Y)が、その事業を会社組織とした結果その建物がYから会社(Z)に転貸されたといえ、また、賃貸人(X)と賃借人(Y)間の建物明渡に関する調停等に転借人(Z)も立会っており、ZはXY間の賃貸借終了を了承していたといえるケースにおいて、転貸借はXY間の賃貸借の終了と同時に終了すると判断された事例

■ ②賃借人の債務不履行による解除の場合


 例えば、賃借人の賃料不払いがあった場合、賃貸人は賃借人の債務不履行を理由に契約を解除することができます。この場合、特段の事情がない限り転借人に支払を催告する必要はありません(最高裁昭和49年5月30日判決【※7】、最高裁平成6年7月18日判決【※8】)。

 賃借人の債務不履行を理由とする解除によって賃貸借契約が終了した場合、転借人は、賃貸人からの建物明渡請求を拒むことはできません。


【※7】最高裁昭和49年5月30日判決

「賃借家屋につき適法に転貸借がなされた場合であっても、賃貸人が賃借人の賃料延滞を理由として賃貸借契約を解除するには、賃借人に対して催告すれば足り、転借人に対して右延滞賃料の支払いの機会を与えなければならないものではない。」

【※8】最高裁平成6年7月18日判決

「土地の賃貸借契約において、適法な転貸借関係か存在する場合に、賃貸人か賃料の不払を理由に契約を解除するには、特段の事情のない限り、転借人に通知等をして賃料の代払の機会を与えなければならないものではない。」

■ ③賃貸人から賃借人に対する更新拒絶ないし解約申入れの場合


 賃貸人から賃借人に対する更新拒絶ないし解約申入れによって契約を終了させるためには、「正当の事由」(借地借家法28条)【※9】が認められる場合でなければなりません。

 適法な転借人がいる場合には、転借人の事情も考慮されます。

 賃貸人からの更新拒絶ないし解約申入れにより賃貸借が終了する場合(ただし、正当事由については容易に認められるものではありません)、賃貸人は転借人に対する通知(借地借家法34条【※10】)をなした上で、転借人に対し建物明渡しを求めることになります。転借人に通知をなす時期について特に制限はありませんが、もともと「正当事由」の有無に関しては転借人の事情が考慮されますので、賃貸人としては、賃借人に対する更新拒絶ないし解約申入れと同時に転借人に対する通知(借地借家法34条)をするのがベターでしょう。

 なお、借地借家法34条は片面的強行規定であり、同規定に反する特約で転借人に不利なものは無効となります(借地借家法37条)【※11】。


【※9】 借地借家法28条

(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

【※10】 借地借家法34条

(建物賃貸借終了の場合における転借人の保護)
第三十四条 建物の転貸借がされている場合において、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときは、建物の賃貸人は、建物の転借人にその旨の通知をしなければ、その終了を建物の転借人に対抗することができない。
2 建物の賃貸人が前項の通知をしたときは、建物の転貸借は、その通知がされた日から六月を経過することによって終了する。

【※11】 借地借家法37条

(強行規定)
第三十七条 第三十一条、第三十四条及び第三十五条の規定に反する特約で建物の賃借人又は転借人に不利なものは、無効とする。

■ ④賃借人から賃貸人に対する更新拒絶ないし解約申入れの場合


 賃借人から賃貸人に対する更新拒絶ないし解約申入れについては借地借家法28条【※9】の規定の適用はありません。つまり正当事由は要求されません。

 賃借人から賃貸人に対する更新拒絶や解約申入れによって賃貸借契約が終了する場合において、賃貸人から転借人に対する建物明渡請求が認められるかどうかは、「信義則」をもとにケースバイケースで判断されることになります(最高裁平成14年3月28日判決の事例【※12】、東京地裁平成28年2月22日判決の事例【※13】、東京地裁平成22年6月25日判決の事例【※14】参照)。


【※12】 最高裁平成14年3月28日判決の事例

下記のような事実関係の下において、賃借人が更新拒絶の通知をして賃貸借が期間満了により終了しても、賃貸人は、信義則上、賃貸借の終了をもって再転借人に対抗することはできず、再転借人は、再転貸借に基づく転貸部分の使用収益を継続することができると判断された事例
(事実関係)
①賃貸人は、建物の建築、賃貸、管理に必要な知識、経験、資力を有する賃借人と共同して事業用ビルの賃貸による収益を得る目的の下に、賃借人から建設協力金の拠出を得て本件ビルを建築し、その全体を一括して賃貸したものであって、本件賃貸借は、賃借人が賃貸人の承諾を得て本件ビルの各室を第三者に店舗又は事務所として転貸することを当初から予定して締結されたものである。
②賃貸人による転貸の承諾は、賃借人においてすることを予定された賃貸物件の使用を転借人が賃借人に代わってすることを容認するというものではなく、自らは使用することを予定していない賃借人にその知識、経験等を活用して本件ビルを第三者に転貸し収益を上げさせるとともに、賃貸人も、各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れ、かつ、賃借人から安定的に賃料収入を得るためにされたものである。
③再転借人も、賃借人の業種、本件ビルの種類や構造などから、上記のような趣旨、目的の下に本件賃貸借が締結され、賃貸人による転貸の承諾並びに賃貸人及び賃借人による再転貸の承諾がされることを前提として本件再転貸借を締結したものである。そして、再転借人は現に本件転貸部分を占有している。

【※13】 東京地裁平成28年2月22日判決の事例

下記のような事実関係の下において、賃借人の更新拒絶により、賃貸借契約が期間満了により終了したとしても、賃貸人は、信義則上、賃貸借契約の終了をもって転借人に対抗することはできず、転借人は、賃貸借契約と同一の条件で転貸借契約に基づく転借部分の使用収益を継続することができると判断された事例
(事実関係)
①原賃貸借契約は、賃借人が賃貸人の承諾を得て本件各建物の各室を第三者に転貸して入居させることを当初から予定して締結されたものである。
②賃貸人による転貸の承諾は、賃借人において行使することを予定された賃貸物件の使用を転借人が原賃借人に代わって行使することを容認するという類いのものではなく、自らは使用することを予定していない賃借人にその公的な立場や財源等を活用して本件各建物を第三者に転貸させるとともに、賃貸人も、各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れ、かつ、転賃料と区の財源とから安定的に賃料収入を得ようとする目的に出たものである。
③転借人も、上記のような趣旨、目的の下に原賃貸借契約が締結され、賃貸人による転貸の承諾がされることを前提として転貸借契約を締結し、現に各居住部分に入居してこれを占有している。
④さらに、賃貸人は、原賃貸借契約が期間満了により終了する場合においても、転借人との間で賃貸借関係が継続することを相当程度覚悟していたものといえる。

【※14】 東京地裁平成22年6月25日判決の事例


 下記のような事実関係の下において、本件更新拒絶による本件賃貸借契約の終了を被告に対抗することが信義則上相当でないというべき事情は認められないというべきであるから、賃貸人(建物所有者)は転借人(建物占有者)に対し、建物明渡しを求めることができると判断された事例
(事実関係)
①本件転貸借契約は、賃貸借契約後経営の悪化した賃借人が、民事再生手続において、不採算店舗からの撤退を進めていた中で、中途解約のできなかった賃貸借契約を期間満了まで維持する目的で締結されたものであって、賃借人は、平成17年12月14日に各契約の当初の期間が満了するにあたり、賃貸人と転借人の直接契約に切り替えて、契約関係からの離脱を図ったが、賃貸人が転借人との直接契約を拒絶し、転借人も契約終了を拒絶したことから、暫時本件賃貸借契約の期間を延長してきたものであり、平成20年12月14日に本件賃貸借契約の延長後の期間が満了するに際して更新を拒絶した(本件更新拒絶)ものである。
②本件転貸借契約は、専ら賃借人の経済的要請により締結されたもので、本件更新拒絶も、同契約の締結当初から本件建物からの撤退を希望していた賃借人が、その既定路線にしたがってなしたものに過ぎず、いずれも賃借人の主導によりなされたものであって、転借人との転貸借関係の形成に賃貸人が積極的に加功し、あるいは賃貸人が賃借人に本件更新拒絶を働きかけたといった事情は認められない。

■ (派生論点)賃貸人(X)から転借人(Z)に対する建物明渡請求が否定される場合のXZ間の法律関係


 賃貸人から転借人に対する建物明渡請求が否定される場合において、賃貸人と転借人間の法律関係はどうなるでしょうか。

 この点について、一般的には賃貸人(X)が転貸人(Y)の地位を承継するといえます(東京地裁平成22年3月31日判決【※15】参照)が、単純にそのようにいうことができない場合もあります(東京地裁平成28年2月22日判決の事例【※13】参照)。


【※15】 東京地裁平成22年3月31日判決

「適法な転貸借契約が締結されている場合において、賃貸借契約が合意解除により終了したとしても、特段の事情のない限り、賃貸人は、転借人に対し、信義則上、賃貸借契約の終了を対抗することはできないというべきである(最高裁昭和37年2月1日第一小法廷判決・裁判集民事58号441頁等参照)。そして、この場合には、賃借人は転貸人の地位から離脱し、賃貸人がその地位を承継するものと解するのが相当である。したがって、転貸借契約の契約内容(賃料、存続期間等)がそのまま賃貸人と転借人との間の契約内容となる。これに対し、賃貸借契約の合意解除が効力を生じないとしたり、転借人との関係では、転借権を存立させるために必要な範囲で賃貸借契約も存続するという考え方もあり得るが、これでは、賃貸人と賃借人が解消しようとした賃貸借関係を強制的に存続せしめることになるところ、転借人を保護するため、そこまでの効力を認めることは行き過ぎであるし、法律関係も複雑となり、相当とはいい難い。また、転借人が賃借人の地位を引き継ぐという考え方もあり得るが、これでは転貸借契約よりも賃貸借契約の方が、賃料が高額であったり、存続期間が短いなど契約内容が転借人にとって不利である場合、転借人の保護に欠けることとなる。」

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