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  • @lawyer.hiramatsu

建物賃貸借契約の連帯保証人が死亡した場合の相続人の責任について

 今回は、以下のような設例(以下「本件」といいます。)について検討します。

 私(甲)は建物(住宅)の賃貸人です。2018年10月に、賃借人(Y)との間で建物賃貸借契約を締結しました。その賃貸借契約締結の際に、賃借人(Y)の債務について、連帯保証人(乙)と連帯保証契約を締結しました。その契約書には「連帯保証人は、賃貸借契約が合意更新又は法定更新された場合にも引き続き賃借人の債務を連帯して履行する責めを負う」旨の約定があります。
 建物賃貸借契約については2年毎に更新されていますが、連帯保証契約については更新のような手続は何もしていません。
 2024年に入り、現在(2024年3月)まで賃借人(Y)から賃料の支払がありません。私は、連帯保証人(乙)に連絡しようとしたところ、連帯保証人(乙)は2023年に死亡していることが判明しました。そして、乙には相続人となるべき配偶者(丙)及び子(丁)がいることが判明しました。
 私は、丙や丁に対し、保証債務の履行を求めることができますか。

■ はじめに


 本件に関しては、まず「建物賃貸借契約の連帯保証人について」をご参照ください。

 2020年(令和2年)4月1日以降に締結された根保証契約については2020年4月1日施行の民法(以下「改正民法」といいます。)が適用されますので、建物賃貸借契約の連帯保証人の死亡は元本確定事由となります(改正民法465条の4第1項3号【※1】)。

 仮に2020年(令和2年)4月1日以降に改めて甲と乙との間で連帯保証契約が締結されているような場合には改正民法が適用されることになります。


 【※1】改正民法465条の4

(個人根保証契約の元本の確定事由)
第465条の4 次に掲げる場合には、個人根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。ただし、第一号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
 一 債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
 二 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
 三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
2 前項に規定する場合のほか、個人貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、次に掲げる場合にも確定する。ただし、第一号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
 一 債権者が、主たる債務者の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
 二 主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。

 本件においては2018年の連帯保証契約が存在しているのみで、その後、更新のような手続は何もしていないようです。この場合、次のようなことが問題となります。

 ① 2020年(令和2年)4月1日以降になされた賃貸借契約の更新(本件では2020年10月と2022年10月になされた賃貸借契約の更新)は、乙の連帯保証契約にどのような影響を与えるのか

 ② 丙及び丁は、連帯保証人(乙)の地位を相続するのか

 ③ 連帯保証人(乙)の地位を相続する者が複数の場合、各相続人(丙及び丁)はそれぞれ全部給付義務を負うのか、それとも相続分に応じた給付義務を負うのか


 以下、上記①から③の問題について検討します。


■ 上記①の問題


 2020年(令和2年)4月1日以降になされた賃貸借契約の更新は乙の連帯保証契約にどのような影響を与えるのでしょうか。連帯保証人(乙)の死亡時点において、甲と乙との間で連帯保証契約が有効に存在していたといえるでしょうか。


 この点については以下の判例【※2】ないし裁判例【※3】が参考になります。


 【※2】最一小判平成9年11月13日裁判集民186号105頁参照

期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れないというべきである。

 【※3】東京地判令和3年4月23日(2021WLJPCA04238024)より

本件連帯保証契約は、改正民法の施行日(令和2年4月1日)より前に締結されたものであり、その後、本件賃貸借契約の更新に合わせて更新されることもなかったから、改正民法の適用がなく(平成29年法律第44号附則21条1項)、また、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情は認められないから、被告Y2において、各更新(平成30年11月4日付けの合意更新及び令和2年11月13日の法定更新)後の本件賃貸借契約から生ずる被告Y1の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたもの(このことは、本件賃貸借契約の19条1項が、連帯保証債務について「本契約が合意更新あるいは法定更新された場合も同様とする。」と定めていることにより裏付けられている。)と解するのが相当である。

 上記【※2】【※3】の規範をもとに本件についてみると、基本的には連帯保証人(乙)の死亡時点において甲乙間の連帯保証契約は有効に存在していたといえるでしょう。


■ 上記②の問題


 丙及び丁は連帯保証人(乙)の地位を相続し、乙が死亡した後に発生する賃借人(Y)の債務についても責任を負うのでしょうか。

 建物賃貸借契約の連帯保証人の地位の相続に関しては、判例(大判昭和9年1月30日大民集13巻103頁)が相続性を肯定し、その後の裁判例も相続性を肯定しています(例えば、東京地判平成27年9月29日(2015WLJPCA09298023)、東京地判平成29年6月28日(2017WLJPCA06288010)、東京地判令和3年9月30日(2021WLJPCA09308011))ので、本件の丙及び丁は連帯保証人(乙)の地位を相続するということになるでしょう。


【注】改正民法後の根保証契約については民法465条の4第1項3号【※1】が適用されます(元本確定により根保証は終了します)ので、保証人の相続人は、保証人死亡後に発生する主債務者の債務について責任を負うことはありません。


■ 上記③の問題


 丙及び丁が連帯保証人(乙)の地位を相続するとして、各相続人(丙及び丁)は、主債務者(Y)の債務について全部給付義務を負うのでしょうか。それとも相続分に応じた給付義務を負うのでしょうか。

 この点については、最判昭和34年6月19日【※4】が参考になります。


 【※4】最二小判昭和34年6月19日民集13巻6号757頁参照

連帯債務は、数人の債務者が同一内容の給付につき各独立に全部の給付をなすべき債務を負担しているのであり、各債務は債権の確保及び満足という共同の目的を達する手段として相互に関連結合しているが、なお、可分なること通常の金銭債務と同様である。ところで、債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきであるから(大審院昭和5年(ク)第1236号、同年12月4日決定、民集9巻1118頁、最高裁昭和27年(オ)第1119号、同29年4月8日第一小法廷判決、民集8巻819頁参照)、連帯債務者の一人が死亡した場合においても、その相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解するのが相当である。

 上記判例を参考に検討すると、相続人は相続分に応じた給付義務を負うことになるでしょう。

 本件についてみると、配偶者(丙)と子(丁)が相続人ということですから、配偶者と子はそれぞれ2分の1の割合で保証債務を履行する義務を負うことになります(東京地判平成27年9月29日(2015WLJPCA09298023)、東京地判平成29年6月28日(2017WLJPCA06288010)、東京地判令和3年9月30日(2021WLJPCA09308011)参照)。


■ おわりに


 本件の甲さんは、連帯保証人の地位を相続した丙さんや丁さんに対し、その相続分に応じて保証債務の履行を求めることができるでしょう。ただし、事実関係(特段の事情の有無等)によっては結論が変わってきます。

 甲さんの立場、丙さん又は丁さんの立場にかかわらず、専門家(弁護士等)に相談することをお勧めします。




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