今回は、借地借家法22条〜24条【※1】の規定に基づく借地権(広義の定期借地権)について確認します。
■ はじめに
定期借地権の制度は、1992年8月1日施行の借地借家法により創設されました。その後、借地借家法の一部を改正する法律(2008年1月1日施行)により現在の内容【※1】となっています。
なお、1992年8月1日施行時の条文は後記【※2】のとおりです。現在の条文【※1】と以前の条文【※2】を比較すると分かりますが、条文(23条と24条)の順序も変わっています。
【※1】 現在の借地借家法22条~24条
(定期借地権)
第二十二条 存続期間を五十年以上として借地権を設定する場合においては、第九条及び第十六条の規定にかかわらず、契約の更新(更新の請求及び土地の使用の継続によるものを含む。次条第一項において同じ。)及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。この場合においては、その特約は、公正証書による等書面によってしなければならない。
(事業用定期借地権等)
第二十三条 専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く。次項において同じ。)の所有を目的とし、かつ、存続期間を三十年以上五十年未満として借地権を設定する場合においては、第九条及び第十六条の規定にかかわらず、契約の更新及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。
2 専ら事業の用に供する建物の所有を目的とし、かつ、存続期間を十年以上三十年未満として借地権を設定する場合には、第三条から第八条まで、第十三条及び第十八条の規定は、適用しない。
3 前二項に規定する借地権の設定を目的とする契約は、公正証書によってしなければならない。
(建物譲渡特約付借地権)
第二十四条 借地権を設定する場合(前条第二項に規定する借地権を設定する場合を除く。)においては、第九条の規定にかかわらず、借地権を消滅させるため、その設定後三十年以上を経過した日に借地権の目的である土地の上の建物を借地権設定者に相当の対価で譲渡する旨を定めることができる。
2 前項の特約により借地権が消滅した場合において、その借地権者又は建物の賃借人でその消滅後建物の使用を継続しているものが請求をしたときは、請求の時にその建物につきその借地権者又は建物の賃借人と借地権設定者との間で期間の定めのない賃貸借(借地権者が請求をした場合において、借地権の残存期間があるときは、その残存期間を存続期間とする賃貸借)がされたものとみなす。この場合において、建物の借賃は、当事者の請求により、裁判所が定める。
3 第一項の特約がある場合において、借地権者又は建物の賃借人と借地権設定者との間でその建物につき第三十八条第一項の規定による賃貸借契約をしたときは、前項の規定にかかわらず、その定めに従う。
【※2】 以前(2007年まで)の借地借家法22条〜24条
(定期借地権)
第二十二条 存続期間を五十年以上として借地権を設定する場合においては、第九条及び第十六条の規定にかかわらず、契約の更新(更新の請求及び土地の使用の継続によるものを含む。)及び建物の築造による存続期間の延長がなく、並びに第十三条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができる。この場合においては、その特約は、公正証書による等書面によってしなければならない。
(建物譲渡特約付借地権)
第二十三条 借地権を設定する場合においては、第九条の規定にかかわらず、借地権を消滅させるため、その設定後三十年以上を経過した日に借地権の目的である土地の上の建物を借地権設定者に相当の対価で譲渡する旨を定めることができる。
2 前項の特約により借地権が消滅した場合において、その借地権者又は建物の賃借人でその消滅後建物の使用を継続しているものが請求をしたときは、請求の時にその建物につきその借地権者又は建物の賃借人と借地権設定者との間で期間の定めのない賃貸借(借地権者が請求をした場合において、借地権の残存期間があるときは、その残存期間を存続期間とする賃貸借)がされたものとみなす。この場合において、建物の借賃は、当事者の請求により、裁判所が定める。
(事業用借地権)
第二十四条 第三条から第八条まで、第十三条及び第十八条の規定は、専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く。)の所有を目的とし、かつ、存続期間を十年以上二十年以下として借地権を設定する場合には、適用しない。
2 前項に規定する借地権の設定を目的とする契約は、公正証書によってしなければならない。
■ 一般定期借地権(借地借家法22条)【※1】
借地借家法22条に基づく定期借地権(以下「一般定期借地権」といいます。)については、建物の所有を目的とする借地権を設定する際に存続期間を50年以上と定めるとともに、①契約の更新がないこと、②建物の再築による期間の延長がないこと、③存続期間満了による建物買取請求【※注】をしないことの特約を定め、かつ、この特約を書面(公正証書等)によってすることで認められます。書面がない場合には特約が無効となり、結果として50年以上の普通借地権として扱われるでしょう。
【※注】
特約で排除できるのは借地借家法13条【※3】に基づく建物買取請求権です。
下記の借地借家法14条に基づく建物買取請求権については排除することができません。
(第三者の建物買取請求権)
第十四条 第三者が賃借権の目的である土地の上の建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を取得した場合において、借地権設定者が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、その第三者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原によって土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
では、例えば上記③の特約をしない定期借地権(つまり存続期間満了による建物買取請求を可能とする定期借地権)は認められるでしょうか。
この点に関しては下記のように否定的見解や肯定的見解があります。地主の立場からすれば、リスク(普通借地権として扱われるリスク)を回避するために下記見解1に従っておくべきといえますが、他方で借地権者の利益となる合意(建物買取請求権の許容)が認められないというのも不合理です。そこで、とりあえず、3つの特約を借地権設定と同時にしておき、その借地権設定契約とは別に、借地権者から借地権設定者に対する建物買取請求ができる旨の合意をしておいたほうがよいと考えます。
(1)見解1
「本条の形式から3つの特約は必ず借地権設定に際し同時にすることを要するものと解すべきであろう。そのことが、長期の存続期間満了後の借地の解消に際しての紛争を未然に防止することにもつながるものである。」(田山輝明・澤野順彦・野澤正充編『新基本法コンメンタール借地借家法」(日本評論社、2014年5月)132頁)。
(2)見解2
「建物買取請求権を排除しない形態の定期借地権の設定を許容すべきである。これを許容しない場合には、契約更新等を排除しつつ建物買取請求権の排除を欠く特約が全体として無効になり、当該借地権が存続期間50年以上の普通借地権として扱われる極端な結果を招くからである(吉田・ジュリ1006-53)。」(稻本洋之助・澤野順彦編『コンメンタール借地借家法(第4版)』(日本評論社、2019年6月)170頁)。
■ 事業用定期借地権(借地借家法23条)【※1】
もっぱら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く。)の所有を目的とする借地権の設定に関しては、借地借家法23条の規定に基づく定期借地権とすることが認められます。
借地借家法23条1項においては存続期間30年以上50年未満の事業用定期借地権を定めており(以下「1項事業用定期借地権」といいます。)、同条2項においては存続期間10年以上30年未満の事業用定期借地権(以下「2項事業用定期借地権」といいます。)を定めています。後述するように1項事業用定期借地権と2項事業用定期借地権は異質の内容となっています。
これらの事業用定期借地権の設定契約は公正証書によってしなければなりません。特約だけを公正証書でするのではありません。
なお、事業用であっても居住の用に供されるもの(例えば賃貸マンション)の所有を目的とする借地権については、この事業用定期借地権とすることはできません。
(1)1項事業用定期借地権について
前述の借地借家法22条が定める一般定期借地権は存続期間50年以上でなければなりませんが、もっぱら事業の用に供する建物の所有を目的とする借地権の設定については、①契約の更新がないこと、②建物の再築による期間の延長がないこと、③存続期間満了による建物買取請求をしないことの特約ある借地権設定契約を公正証書によってすることで、存続期間を30年以上50年未満の定期借地権とすることが認められます。
(2)2項事業用定期借地権について
事業の用に供する建物の所有を目的とし(用途限定)、かつ、存続期間10年以上30年未満とする借地権設定契約を公正証書によってすることで、定期借地権とすることが認められます。これにより、借地借家法3条から8条まで、13条及び18条の規定【※3】の適用が排除される(つまりは、①契約更新がなく、②建物再築による期間の延長もなく、また、③期間満了による建物買取請求も認められない)ことになります。
(3)補足
事業の用に供する建物の所有を目的とする借地権について、上記の事業用定期借地権(存続期間は10年以上50年未満)ではなく、借地借家法22条に基づく一般定期借地権(存続期間は50年以上)として設定することも可能です。
【※3】 借地借家法3条~8条、13条及び18条
(借地権の存続期間)
第三条 借地権の存続期間は、三十年とする。ただし、契約でこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。
(借地権の更新後の期間)
第四条 当事者が借地契約を更新する場合においては、その期間は、更新の日から十年(借地権の設定後の最初の更新にあっては、二十年)とする。ただし、当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間とする。
(借地契約の更新請求等)
第五条 借地権の存続期間が満了する場合において、借地権者が契約の更新を請求したときは、建物がある場合に限り、前条の規定によるもののほか、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、借地権設定者が遅滞なく異議を述べたときは、この限りでない。
2 借地権の存続期間が満了した後、借地権者が土地の使用を継続するときも、建物がある場合に限り、前項と同様とする。
3 転借地権が設定されている場合においては、転借地権者がする土地の使用の継続を借地権者がする土地の使用の継続とみなして、借地権者と借地権設定者との間について前項の規定を適用する。
(借地契約の更新拒絶の要件)
第六条 前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。
(建物の再築による借地権の期間の延長)
第七条 借地権の存続期間が満了する前に建物の滅失(借地権者又は転借地権者による取壊しを含む。以下同じ。)があった場合において、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは、その建物を築造するにつき借地権設定者の承諾がある場合に限り、借地権は、承諾があった日又は建物が築造された日のいずれか早い日から二十年間存続する。ただし、残存期間がこれより長いとき、又は当事者がこれより長い期間を定めたときは、その期間による。
2 借地権者が借地権設定者に対し残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造する旨を通知した場合において、借地権設定者がその通知を受けた後二月以内に異議を述べなかったときは、その建物を築造するにつき前項の借地権設定者の承諾があったものとみなす。ただし、契約の更新の後(同項の規定により借地権の存続期間が延長された場合にあっては、借地権の当初の存続期間が満了すべき日の後。次条及び第十八条において同じ。)に通知があった場合においては、この限りでない。
3 転借地権が設定されている場合においては、転借地権者がする建物の築造を借地権者がする建物の築造とみなして、借地権者と借地権設定者との間について第一項の規定を適用する。
(借地契約の更新後の建物の滅失による解約等)
第八条 契約の更新の後に建物の滅失があった場合においては、借地権者は、地上権の放棄又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができる。
2 前項に規定する場合において、借地権者が借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは、借地権設定者は、地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができる。
3 前二項の場合においては、借地権は、地上権の放棄若しくは消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れがあった日から三月を経過することによって消滅する。
4 第一項に規定する地上権の放棄又は土地の賃貸借の解約の申入れをする権利は、第二項に規定する地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れをする権利を制限する場合に限り、制限することができる。
5 転借地権が設定されている場合においては、転借地権者がする建物の築造を借地権者がする建物の築造とみなして、借地権者と借地権設定者との間について第二項の規定を適用する。
(建物買取請求権)
第十三条 借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。
2 前項の場合において、建物が借地権の存続期間が満了する前に借地権設定者の承諾を得ないで残存期間を超えて存続すべきものとして新たに築造されたものであるときは、裁判所は、借地権設定者の請求により、代金の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。
3 前二項の規定は、借地権の存続期間が満了した場合における転借地権者と借地権設定者との間について準用する。
(借地契約の更新後の建物の再築の許可)
第十八条 契約の更新の後において、借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造することにつきやむを得ない事情があるにもかかわらず、借地権設定者がその建物の築造を承諾しないときは、借地権設定者が地上権の消滅の請求又は土地の賃貸借の解約の申入れをすることができない旨を定めた場合を除き、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、延長すべき借地権の期間として第七条第一項の規定による期間と異なる期間を定め、他の借地条件を変更し、財産上の給付を命じ、その他相当の処分をすることができる。
2 裁判所は、前項の裁判をするには、建物の状況、建物の滅失があった場合には滅失に至った事情、借地に関する従前の経過、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。)が土地の使用を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。
3 前条第五項及び第六項の規定は、第一項の裁判をする場合に準用する。
■ 建物譲渡特約付借地権(借地借家法24条)【※1】
借地借家法24条1項【※1】が規定するように、借地権を設定する場合において、借地権を消滅させるため、その設定後30年以上経過した日に借地上の建物を地主(借地権設定者)に相当の対価で譲渡する旨の合意(特約)をしておき、その合意(特約)に基づき建物所有権が地主に移転されることで借地権を消滅させることが可能です。
本条の建物譲渡特約は借地権設定後30年以上経過した日に譲渡することを内容とするものですから、2項事業用定期借地権(存続期間は10年以上30年未満)に本条の適用はありません。
建物譲渡特約付借地権を設定する場合は、特に書面による必要はありませんが、合意(特約)の存在を明らかにしておくためには書面によってするべきでしょう。
建物所有権移転時期についてはあらかじめ確定しておくことも可能ですし、地主(借地権設定者)の意思表示によるとしておくことも可能です(なお、地主としては当該建物に仮登記を経由しておくべきです)。
建物の譲渡(所有権移転)により借地権が消滅した場合において、建物使用者(借地権者又は建物の賃借人で借地権消滅後も建物使用を継続しているもの)が請求をしたときは、請求の時にその建物につきその借地権者又は建物の賃借人と借地権設定者(地主)との間で期間の定めのない賃貸借(ただし、借地権者が請求した場合において借地権の残存期間があるときは、その残存期間を存続期間とする賃貸借)が成立したものとみなされます(借地借家法24条2項)【※1】。この法定借家権は、建物使用者からの請求により成立します。この場合の建物の賃料について当事者の協議が調わない場合には、当事者の請求により裁判所が定めることになります(借地借家法24条2項)【※1】。
法定借家権が成立する前に、建物使用者(借地権者又は建物の賃借人)と借地権設定者(地主)との間で、借家関係について定期建物賃貸借契約(借地借家法38条1項)【※4】とする旨の合意をすることも可能です(借地借家法24条3項)【※1】。もし、借地借家法24条2項の規定に基づき法定借家関係が成立した後に、定期建物賃貸借契約を締結しようとすれば、一旦、法定借家関係(普通建物賃貸借契約)を合意解除した上で定期建物賃貸借契約を締結する必要があるでしょう。
なお、定期建物賃貸借(借地借家法38条)【※4】については別で触れることにします。
【※4】 借地借家法38条
(定期建物賃貸借)
第三十八条 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
2 前項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。
3 建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。
4 第一項の規定による建物の賃貸借において、期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。
5 第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。
6 前二項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。
7 第三十二条の規定は、第一項の規定による建物の賃貸借において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しない。
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