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@lawyer.hiramatsu

借地借家:建物(住宅)賃貸借契約の中途解約における違約金条項について

 今回は、以下のような質問について検討します。

 当社(X)は、建物(住宅)の賃貸人であり、個人(Y)に対し、建物を賃貸しています。当社はいわゆるマスターレッシーの立場にあり、サブリースしています。
 当社とYとの契約について消費者契約法の適用があることは理解しています。
 Yとの契約書には、以下のような条項(以下「本件解約予告条項」といいます。)があります。これは当社の契約書雛形に従った内容です。
「1 賃貸借期間内に、Yが本契約を解約しようとするときは、2か月以上の予告期間をもってX宛に書面にて通知し、その通知された解約日をもって本契約を終了させることができる。
 2 Yが予告期間(2か月)に満たない日をもって解約しようとするときは、解約申入れから予告期間(2か月)満了までの賃料等ないし賃料等相当損害金をXに支払うことによって予告期間(2か月)満了前に本契約を解約することができる。」
 この度、Yから解約予定である旨の連絡がありました。その際、Yから、「東京簡裁平成21年2月20日少額訴訟判決」や「東京簡裁平成21年8月7日判決」を根拠として、解約申入れから1か月を超える部分の違約金支払義務は存在しない(その部分は無効である)と主張してきました。
 Yが主張しているように1か月を超える部分は無効となるのでしょうか。

■ はじめに


 本件は、事業者間の契約ではなく、また定期建物賃貸借契約でもないので、それらの契約に関する説明(例えば借地借家法38条7項【※1】の説明)は割愛します。


 【※1】借地借家法38条7項

 第1項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が200平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から1月を経過することによって終了する。

■ 消費者契約法との関係

 

 まず、XY間の契約における本件解約予告条項に基づく違約金の額について、消費者契約法9条1項1号【※2】との関係で問題となります。

 【※2】消費者契約法9条1項1号

(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)
第9条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
 一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの  当該超える部分
 二 (略)
2 事業者は、消費者に対し、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項に基づき損害賠償又は違約金の支払を請求する場合において、当該消費者から説明を求められたときは、損害賠償の額の予定又は違約金の算定の根拠(第12条の4において「算定根拠」という。)の概要を説明するよう努めなければならない。

 消費者契約法9条1項1号によれば、「当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの」は「当該超える部分」について無効となります。

 ただし、ここでいう「平均的な損害」とは、当該消費者契約の当事者たる個々の事業者に生ずべき損害の額について、契約の類型ごとに合理的な算出根拠に基づき算定された平均値を指すのであって、当該業種における業界の水準を指すものではありません。

 本件でいえば、Xが締結する多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額ということになります。

 そこで、Xとしては、自社の多数の同種事案における平均的な損害の額のことを、一応、Yに対し説明したほうがよいでしょう。

 Xの説明に対し、Yが納得しない場合には、訴訟等で解決するほかないかもしれません。


■ 東京簡裁平成21年2月20日少額訴訟判決や東京簡裁平成21年8月7日判決について


 Yが根拠としている東京簡裁平成21年2月20日少額訴訟判決東京簡裁平成21年8月7日判決について、筆者としては立証責任の観点から問題があると考えています。

 そもそも、最高裁平成18年11月27日判決(平成17年(受)第1158号、第1159号事件)の説示【※3】によれば、立証責任は基本的には消費者側にあるはずです。


 【※3】最高裁平成18年11月27日判決より

・・・上記平均的な損害及びこれを超える部分については、事実上の推定が働く余地があるとしても、基本的には、違約金等条項である不返還特約の全部又は一部が平均的な損害を超えて無効であると主張する学生において主張立証責任を負うものと解すべきである。

 ところが、前記東京簡裁の判決をみると、立証責任が事業者側にあるかのような判断になっています。


 本件について立証責任の観点から考えると、本件解約予告条項に基づく違約金額が、Xに生ずべき平均的な損害の額を超えるものであることを立証するのはY側にあるはずです。Yがそれを立証できない場合には、「平均的な額を超えるものとは認められない」という判断になるはずです。

 この点、賃料等の2か月分という金額が問題となった東京地裁平成27年11月4日判決(ウエストロー・ジャパン2015WLJPCA11048010)においても以下【※4】のように説示されています。


 【※4】東京地裁平成27年11月4日判決(ウエストロー・ジャパン2015WLJPCA11048010)

1 争点1(本件解約予告条項の無効原因の有無)について
(1)消費者契約法9条1号に基づく無効について
 控訴人らは、国土交通省作成の「賃貸住宅標準契約書(改訂版)」において解約予告期間が30日と記載されていること(乙1)からすれば、中途解約により被控訴人に生じる「平均的な損害の額」は賃料等1か月分相当額であり、本件解約予告条項のうち上記限度を超える部分は無効である旨を主張する。
 しかしながら、上記標準契約書は一般的な契約条項のひな形を示したものに過ぎないから、上記記載をもって、本件居室賃貸借契約における中途解約により生ずべき「平均的な損害の額」を認定することはできない。
 また、一般的な賃貸借契約においても解約予告期間を1か月とするもの(乙23、24)と2か月とするもの(甲8の1~7、9の1~3)がみられるところであり、その他の証拠に照らしても、本件解約予告条項所定の賃料等2か月分という金額が、中途解約により被控訴人に生ずべき平均的な損害の額を超えるものであったと認めることはできない。
 なお、礼金や更新料は、中途解約の場合に賃貸人に生じ得る損害を填補することを予定した性質の金銭ではないから、これらの金銭が支払われていたとの事実は、上記「平均的な損害の額」を認定するに当たり考慮すべきではない。
 したがって、本件解約予告条項の一部が消費者契約法9条1号により無効となるとの控訴人らの主張は採用できない。

■ 結論

 

 本件において、Xが締結する多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額が2か月分以上となることはあり得ることでしょう。

 本件解約予告条項に基づきYがXに支払うべき違約金額について、必ずしも1か月分を超える部分が無効となるわけではありません。

 本件のこと、また、Xの契約書雛形全般のことも含めて、一度深く検討されることをお勧めします。

 


 

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