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  • @lawyer.hiramatsu

マンション管理:瑕疵ある理事会決議に基づく総会提出議案について

更新日:2023年12月13日

 今回は、以下のような質問について検討します。

 本件マンションにおいて、先日、通常総会が開催され、①収支決算及び事業報告、②収支予算及び事業計画、③役員の選任について決議されました。
 その後、総会提出議案を決議した際の理事会に、理事Aさん宛の招集通知の発信が漏れていたことが判明しました。その事実をもとに、区分所有者Xさんが、「理事会決議に瑕疵があり、その瑕疵ある理事会決議に基づき提出された総会議案の決議についても瑕疵があるため総会決議は無効である。」と主張しています。
 たしかに理事会決議には多少の瑕疵がありそうですが、このようなケースにおいて、総会決議も無効となってしまうのでしょうか。

■ はじめに


 本件マンションの管理規約が、2023年9月末日時点のマンション標準管理規約(単棟型)(以下単に「管理規約」といいます。)と同じ内容であるという前提で検討します。

 ご質問の趣旨は、管理規約54条1項1号及び4号に掲げる事項の理事会決議【※1】に瑕疵がある場合、管理規約48条2号ないし4号に掲げる事項の総会決議【※2】も無効となってしまうのかということだと思います。

 区分所有者Xさんの主張は、管理規約52条4項【※3】が準用する管理規約43条2項・3項【※4】が定める招集手続が履践されておらず、その瑕疵は重大であって理事会決議は無効であり、そのため総会決議も無効であるというものだと思います。

 そのような前提で以下検討します。


 【※1】マンション標準管理規約(単棟型)54条

(議決事項)
第54条 理事会は、この規約に別に定めるもののほか、次の各号に掲げる事項を決議する。
 一 収支決算案、事業報告案、収支予算案及び事業計画案
 二 規約及び使用細則等の制定、変更又は廃止に関する案
 三 長期修繕計画の作成又は変更に関する案
 四 その他の総会提出議案
 五 第17条、第21条及び第22条に定める承認又は不承認
 六 第58条第3項に定める承認又は不承認
 七 第60条第4項に定める未納の管理費等及び使用料の請求に関する訴訟その他法的措置の追行
 八 第67条に定める勧告又は指示等
 九 総会から付託された事項
 十 災害等により総会の開催が困難である場合における応急的な修繕工事の実施等
 十一 理事長、副理事長及び会計担当理事の選任及び解任
2 第48条の規定にかかわらず、理事会は、前項第十号の決議をした場合においては、当該決議に係る応急的な修繕工事の実施に充てるための資金の借入れ及び修繕積立金の取崩しについて決議することができる。

 【※2】マンション標準管理規約(単棟型)48条

(議決事項)
第48条 次の各号に掲げる事項については、総会の決議を経なければならない。
 一 規約及び使用細則等の制定、変更又は廃止
 二 役員の選任及び解任並びに役員活動費の額及び支払方法
 三 収支決算及び事業報告
 四 収支予算及び事業計画
 五 長期修繕計画の作成又は変更
 六 管理費等及び使用料の額並びに賦課徴収方法
 七 修繕積立金の保管及び運用方法
 八 適正化法第5条の3第1項に基づく管理計画の認定の申請、同法第5条の6第1項に基づく管理計画の認定の更新の申請及び同法第5条の7第1項に基づく管理計画の変更の認定の申請
 九 第21条第2項に定める管理の実施
 十 第28条第1項に定める特別の管理の実施並びにそれに充てるための資金の借入れ及び修繕積立金の取崩し
 十一 区分所有法第57条第2項及び前条第3項第三号の訴えの提起並びにこれらの訴えを提起すべき者の選任
 十二 建物の一部が滅失した場合の滅失した共用部分の復旧
 十三 円滑化法第102条第1項に基づく除却の必要性に係る認定の申請
 十四 区分所有法第62条第1項の場合の建替え及び円滑化法第108条第1項の場合のマンション敷地売却
 十五 第28条第2項及び第3項に定める建替え等に係る計画又は設計等の経費のための修繕積立金の取崩し
 十六 組合管理部分に関する管理委託契約の締結
 十七 その他管理組合の業務に関する重要事項

 【※3】マンション標準管理規約(単棟型)52条

(招集)
第52条 理事会は、理事長が招集する。
2 理事が○分の1以上の理事の同意を得て理事会の招集を請求した場合には、理事長は速やかに理事会を招集しなければならない。
3 前項の規定による請求があった日から○日以内に、その請求があった日から○日以内の日を理事会の日とする理事会の招集の通知が発せられない場合には、その請求をした理事は、理事会を招集することができる。
4 理事会の招集手続については、第43条(建替え決議又はマンション敷地売却決議を会議の目的とする場合の第1項及び第4項から第8項までを除く。)の規定を準用する。この場合において、同条中「組合員」とあるのは「理事及び監事」と、同条第9項中「理事会の承認」とあるのは「理事及び監事の全員の同意」と読み替えるものとする。ただし、理事会において別段の定めをすることができる。

 【※4】マンション標準管理規約(単棟型)43条(ただし第1項及び第4項から第8項までは省略)

(招集手続)
第43条 
2 前項の通知は、管理組合に対し組合員が届出をしたあて先に発するものとする。ただし、その届出のない組合員に対しては、対象物件内の専有部分の所在地あてに発するものとする。
3 第1項の通知は、対象物件内に居住する組合員及び前項の届出のない組合員に対しては、その内容を所定の掲示場所に掲示することをもって、これに代えることができる。
9 第1項(会議の目的が建替え決議又はマンション敷地売却決議であるときを除く。)にかかわらず、緊急を要する場合には、理事長は、理事会の承認を得て、5日間を下回らない範囲において、第1項の期間を短縮することができる。

■ 検討


 本件マンションにおいては、たしかに、管理規約54条1項において、収支決算案等(1号)や総会提出議案(4号)は理事会が決議すると定められています。

 しかし、本件で問題となっている①収支決算及び事業報告、②収支予算及び事業計画、③役員の選任についての決議は、いずれも総会の決議事項とされており(管理規約48条2号ないし4号)、管理規約54条1項1号や4号の理事会決議は、それによって直ちに組合員(区分所有者)の権利に影響を及ぼすようなものではなく、いわば総会の審議や決議のための準備行為にすぎないものといえます。

 そうだとすると、総会提出議案を決めた理事会決議に瑕疵があったというだけで、その後の総会決議まで当然に無効とする必要はないでしょう。

換言すると、仮に理事会の決議が不存在ないし無効であったとしても、それにより直ちに総会決議が無効となるわけではないといえます。

 前記質問の事案についてみると、他に総会決議を無効とすべき理由が存在しないのであれば、本件総会決議は無効とならないと考えます。


■ 参考裁判例


 参考として、東京地裁平成22年8月27日判決(管理組合総会決議無効確認請求事件/ウエストロージャパン2010WLJPCA08278029)を紹介しておきます【※5】。

筆者としては、下記裁判所の判断内容を全面的に支持しているわけではありませんので、念のため付言しておきます。


 【※5】東京地裁平成22年8月27日判決の要旨(筆者により要約)

(事実関係)
① 本件総会に先立つ平成21年8月20日に本件理事会が開催されたが、3人の理事のうちBに対する招集の通知がされなかった。
② 本件理事会において、本件総会に係る総会提出議案の審議がされ、その後、理事長は、本件マンションの区分所有者らに対し、本件総会の招集の通知をした。
③ 上記招集通知に各議案が記載され、その資料が添付されていた。

(裁判所の判断内容)
 争いのない事実によれば、本件規約は、理事会を設置することとした上、その50条において、理事会で総会提出議案等の議決をすることを定めているが、区分所有法上、理事会は必須の機関ではなく、区分所有者の財産権に影響する事項はすべて集会(総会)決議事項とされていることにも照らすと、理事会は、集会(総会)提出議案の準備をするための機関にすぎず、ここにおいて区分所有者の財産権に影響を及ぼす事項を実質的に決定することは、区分所有法上も本件規約上も、予定されていないものというべきである。
 以上にかんがみると、適法な理事会の議決を欠いたまま理事長が招集した総会の決議は、そのことをもって直ちに無効ということはできないものと解すべきである。
 そうすると、上記の事実関係の下において、本件決議は、直ちに無効ということはできず、本件全証拠を検討しても、他にこれを無効とすべき事情を認めることはできない。
 したがって、本件決議の無効確認を求める原告の請求は理由がない。


  

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