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マンション管理:外国にいる区分所有者への訴状等の送達

  • @lawyer.hiramatsu
  • 2023年10月22日
  • 読了時間: 4分

更新日:2023年12月13日

 今回は、以下のような質問について検討します。

 当マンションの区分所有者Yさんは外国人(韓国籍)です。
 Yさんは、現在、日本に居住しておらず、外国に居住しています。
 当マンション管理組合は、Yさんに対し、管理費等請求訴訟を提起したいのですが、そもそも外国にいるYさんに訴状等の送達は可能なのでしょうか。

■ はじめに

 

 外国にいる人に対する送達に関しては、民事訴訟法108条【※1】や110条1項3号【※2】による方法が考えられます。

 まず、民事訴訟法108条による送達(裁判長がその国の管轄官庁又はその国に駐在する日本の大使、公使若しくは領事に嘱託してする送達)は裁判権の行使であることから、外国にいる人に対してこれを行使するためには、当該外国との間に、①民事訴訟手続に関する条約(民訴条約)、②民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約(送達条約)、③日本国とアメリカ合衆国との領事条約(日米領事条約)、④日本国とグレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国との領事条約(日英領事条約)、⑤二国間共助取決め、または⑥個別の応諾といった根拠がなければなりません。

 その根拠を欠く国(国交がない国)、例えば中華民国(台湾)や朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)については民訴法108条による送達はできません。その場合の訴状等の送達については、民訴法110条1項3号前段の公示送達によることになります。公示送達の方法は民事訴訟法111条【※3】が適用されます。その場合の訴状等の公示送達の効力発生時期については民事訴訟法112条2項【※4】が適用されます。


■ ご質問の検討


 Yさんが居住している国によって具体的な送達方法(送達ルート)が異なります。

 Yさんが居住している国が台湾や北朝鮮の場合には、前記のとおり公示送達(民訴法110条1項3号前段)によることとなります。

 ここでは、ご質問の「外国」が大韓民国(韓国)であるという前提で検討します。


 まず、韓国は送達条約に加入しています。理論上は送達可能です。

 なお、Yさんは日本人ではありませんので、送達ルートは中央当局送達ということになるでしょう。

 ただし、その中央当局送達の手続にはかなりの期間を要します(なお、韓国における中央当局送達には4か月はかかるといわれていますが、実務上はそれ以上の期間を要する前提でスケジュールが組まれています)。

 そのため、第1回口頭弁論期日はかなり先となってしまいます。

 また、Yさん(外国人)への送達の場合には訳文の添付も求められます。

 実際、筆者が経験したケースでは、韓国語の訳文も必要なこともあり(原告側で適切な翻訳人を見出せなかったため、裁判所に翻訳人を探してもらい、それに要する費用を原告が予納することになりました。)、中央当局送達を行うことが決まってから、約1年先を第1回口頭弁論期日として指定されました。


■ 補足


 中央当局送達の結果、Yさんがそこ(宛所)にいないため送達できなかった場合(ただし、Yさんが日本に居ないことが前提)、管理組合としては、民訴法110条1項3号後段に基づく公示送達を申し立てざるを得ないでしょう。

 なお、その公示送達による訴状送達の効力は、民訴法111条【※3】の規定による掲示を始めた日から6週間を経過することによって生じます(民訴法112条2項【※4】)。


 【※1】民事訴訟法108条

(外国における送達)
第108条 外国においてすべき送達は、裁判長がその国の管轄官庁又はその国に駐在する日本の大使、公使若しくは領事に嘱託してする。

 【※2】民事訴訟法110条

(公示送達の要件)
第110条 次に掲げる場合には、裁判所書記官は、申立てにより、公示送達をすることができる。
 一 当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合
 二 第107条第1項の規定により送達をすることができない場合
 三 外国においてすべき送達について、第108条の規定によることができず、又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合
 四 第108条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後6月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合
2 前項の場合において、裁判所は、訴訟の遅滞を避けるため必要があると認めるときは、申立てがないときであっても、裁判所書記官に公示送達をすべきことを命ずることができる。
3 同一の当事者に対する二回目以降の公示送達は、職権でする。ただし、第1項第4号に掲げる場合は、この限りでない。

 【※3】民事訴訟法111条

(公示送達の方法)
第111条 公示送達は、裁判所書記官が送達すべき書類を保管し、いつでも送達を受けるべき者に交付すべき旨を裁判所の掲示場に掲示してする。

 【※4】民事訴訟法112条

(公示送達の効力発生の時期)
第112条 公示送達は、前条の規定による掲示を始めた日から二週間を経過することによって、その効力を生ずる。ただし、第110条第3項の公示送達は、掲示を始めた日の翌日にその効力を生ずる。
2 外国においてすべき送達についてした公示送達にあっては、前項の期間は、六週間とする。
3 前二項の期間は、短縮することができない。


 



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