top of page
  • @lawyer.hiramatsu

マンション管理:区分所有者の破産と特定承継人の責任

更新日:2023年12月13日

 今回は、以下のようなご相談について検討します。

 管理費等滞納者(Aさん)が破産し、Aさんは免責許可決定を受けています。その後、抵当権者による担保不動産競売申立手続によって、Aさんの部屋はYさんの所有となりました。Yさん所有となるまでの未納管理費等が約1年分存在します。
 Yさんは、管理組合に対し、Aさんが滞納していた管理費等の一部を支払いません。Yさんの言い分は、「破産債権と財団債権に該当する部分については支払義務がない。根拠は東京高裁平成23年11月16日判決である。」というものです。
Yさんの言い分が正しいのかは分かりません。
 管理組合は、Yさんに対し、Aさんが滞納していた管理費等全額を請求できないのでしょうか。

■ はじめに


 Yさんの言い分は、東京高裁平成23年11月16日判決を根拠としていますが、 同東京高裁判決は、競売手続によりマンションを買い受け、管理組合に対し、未納管理費等全額を支払った買受人(特定承継人)が、前所有者(破産した人)に対し求償できるかどうか、その範囲が問題となったケースです。

 ご相談は、新所有者(特定承継人)が管理組合に対し負うべき責任の範囲(区分所有法8条)が問題となるケースです。

 破産法が規定する破産者の責任の問題と、区分所有法が規定する特定承継人の責任の問題とは区別して検討すべきです。


■ 破産者(Aさん)の責任について

 

 東京高裁平成23年11月16日判決の説示【※1】やその原審たる東京地裁平成23年3月23日の要旨【※2】に従えば、免責許可決定を受けたAさんは破産債権の支払義務を免れ、また、財団債権(破産法148条1項2号)【※3】の支払義務も負いません。

 そして、Yさんは、破産債権と財団債権に該当する部分については、Aさんに対し求償することができません。


 【※1】東京高裁平成23年11月16日判決の説示

・・・破産者が滞納していた区分建物の管理費(修繕管理費を含む。)については、破産手続開始前のものは、破産債権として免責の対象となり、また、同手続開始後のものについても、当該区分建物が破産財団の一部として存在する限り、破産法148条1項2号にいう「破産財団の管理に関する費用」に該当し、財団債権となるから、破産者がこれを弁済する義務を負わない。他方、区分建物に抵当権等が設定されていて余剰価値がなく、破産管財人が破産手続中にこれを放棄した場合、放棄後に生ずる管理費については、破産法や民事執行法に特別の手当がないため、破産者が義務を負わないとする法律上の根拠に欠け、このため、担保不動産競売手続において買い受けた者が、代位弁済した管理費を求償請求した場合、破産者は、これを支払うべき義務を負うことになる。

 【※2】東京地裁平成23年3月23日の要旨

① 破産手続開始決定日までに発生した管理費等(破産債権)について
 特定承継人は、前所有者が滞納した管理費等の支払義務を負うところ(区分所有法8条、7条1項)、これと前所有者の管理費等支払義務とは不真正連帯債務の関係にある。特定承継人は、前所有者に対し、弁済した管理費等について求償できるのが原則である。
 この求償権の根拠は、負担部分を超えてした弁済が他人の債務の弁済になること、言い換えれば不当利得となることにあるところ、免責許可決定の確定により、その部分の破産者の支払義務は自然債務となるため、その後に特定承継人がこれを弁済したとしても、それによって前所有者が利得を得たとみることはできない。
 したがって、その部分については、特定承継人の弁済によって特定承継人の前所有者に対する求償権は発生しない。

② 破産手続開始決定日から破産管財人により本件建物が破産財団から放棄されるまでに発生した管理費等(財団債権)について
 「破産財団の管理に関する費用」(破産法148条1項2号)とは、現有財団の維持、管理に関する費用をいう。本件管理規約が定める管理費等の内容にかんがみれば、破産手続開始決定日から破産管財人により本件建物が破産財団から放棄されるまでに発生した管理費等は「破産財団の管理に関する費用」に該当し、財団債権となる。
 かかる財団債権について支払がされないまま破産手続が廃止により終了したときに、破産者が責任を負うかが問題となるが、その部分の管理費等は破産財団の維持・管理に要した費用であって、当該費用によって利益を得ているのは破産者ではなく破産財団から配当を受け得る地位にある破産債権者であると解されるから、その部分の管理費等に係る債権は破産財団を責任財産とし、破産財団によって弁済されなかったものについて破産者は責任を負わないと解すべきである。
 前所有者は、その管理費等について責任を負わないから、その管理費等に係る債権を原債権とする特定承継人の前所有者に対する求償権は認められない。

 【※3】破産法148条1項2号

(財団債権となる請求権)
第148条 次に掲げる請求権は、財団債権とする。
 一 破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権
 二 破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権
 (三~八号略)
(2~4項略)

■ 特定承継人(Yさん)の責任について


 特定承継人たるYさんは、管理組合に対し、区分所有法8条【※4】・7条1項【※5】に基づく責任を負っています。なお、Aさんの債務とYさんの債務は不真正連帯債務の関係に立つと解されています。


 【※4】区分所有法8条

(特定承継人の責任)
第8条 前条第1項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。

 【※5】区分所有法7条1項

(先取特権)
第7条 区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
(2~3項略)

■ 前所有者(Aさん)の破産の影響


 破産法253条2項【※6】の規定上、Aさんに対する免責許可決定は、Yさんに対し影響を及さないはずです。

 また、財団債権(破産法148条1項2号)【※3】に該当するとされた管理費等も、区分所有法7条1項【※5】が規定する債権に該当するはずです。

 つまり、特定承継人(Yさん)は、前所有者(Aさん)に求償できない部分(破産債権や財団債権に該当する部分)についても、区分所有法8条・7条1項に基づく責任を負うことに変わりはないはずです。

 したがって、管理組合は、Yさんに対し、区分所有法8条・7条1項に基づいて未納管理費等全額を請求できるといえます。


 【※6】破産法253条2項

(免責許可の決定の効力等)
第253条 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
 (一~七号略)
2 免責許可の決定は、破産債権者が破産者の保証人その他破産者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び破産者以外の者が破産債権者のために供した担保に影響を及ぼさない。
(3~4項略)

 

 

 


最新記事

すべて表示

マンションの共用部分の工作物責任に基づく損害賠償金の支払について

今回は以下のような相談(「本件」といいます。)について検討します。 マンション共用部分からの漏水(設置・保存に欠陥があったことが原因)により、一人の区分所有者に損害を生じさせた場合、その賠償金の支払を管理組合会計(例えば管理費会計)から支出することはできますか。 ■ 結論 本件は、裁判等の法的手続を経ていない状況(ただし、管理組合側と被害者側において話し合いは成立している状況)下で、管理組合側から

マンション管理(区分所有法):規約事項について〔マンション標準管理規約(単棟型)23条の規定をもとに〕

今回は、以下のような設例(以下「本件」といいます。)について検討します。 私たちのマンションの管理規約には、マンション標準管理規約(単棟型)23条の規定【※1】と全く同じ規定が存在します。  管理組合は、ある共用部分の補修工事(総会決議済み)を行う必要があるのですが、その工事を実施するためには、特定の専有部分内部を使用する必要があります。  管理組合側は、管理規約23条1項【※1】に基づいて、当該

マンション管理(区分所有法):共用部分である旨の登記のない規約共用部分について

2024年2月18日付けの記事においては、敷地権である旨の登記のない規約敷地について検討しました。 今回は、共用部分である旨の登記のない規約共用部分について、以下のような設例をもとに検討します。 私(X)は、マンションの一室(「本件建物」といいます。)を不動産競売による売却を原因として取得しました。その取得により、マンションの共用部分(規約共用部分を含む。)の持分一切についても取得したと思っていま

Comments


bottom of page