• @lawyer.hiramatsu

マンション管理:マンション管理士の業務と弁護士法72条との関係

 今回は、以下のようなご質問について検討します。

 私はマンション管理士です。私の周りには、マンション管理費等滞納問題に頭を悩ませている管理組合が数多く存在します。管理組合は滞納者に対し、いわゆる本人訴訟を提起したいようですが、代表者理事長としては荷が重いということで、私が本人訴訟手続を代行しようと考えています。具体的には、管理組合総会で私を管理者(区分所有法25条1項)【※1】に選任してもらい、そして、私(管理者)に対し訴訟追行権を授与する旨の決議をしてもらい、それを受けて私が管理者として訴訟を提起しようと考えています(区分所有法26条4項)【※2】。なお、理事長の存在はそのままに、それとは別に(併存的に)管理者を置くスキームを考えています。
 このようなスキームに基づき、私が訴訟追行することは、弁護士法72条【※3】に違反することになりますか。

 【※1】区分所有法25条

(選任及び解任)
第二十五条 区分所有者は、規約に別段の定めがない限り集会の決議によつて、管理者を選任し、又は解任することができる。
2 管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは、各区分所有者は、その解任を裁判所に請求することができる。

 【※2】区分所有法26条

(権限)
第二十六条 管理者は、共用部分並びに第二十一条に規定する場合における当該建物の敷地及び附属施設(次項及び第四十七条第六項において「共用部分等」という。)を保存し、集会の決議を実行し、並びに規約で定めた行為をする権利を有し、義務を負う。
2 管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。第十八条第四項(第二十一条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領についても、同様とする。
3 管理者の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
4 管理者は、規約又は集会の決議により、その職務(第二項後段に規定する事項を含む。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。
5 管理者は、前項の規約により原告又は被告となつたときは、遅滞なく、区分所有者にその旨を通知しなければならない。この場合には、第三十五条第二項から第四項までの規定を準用する。

 【※3】弁護士法72条

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

■ 回答(結論)


 ご質問のケースの背景や目的からすれば、弁護士法72条に違反する可能性を否定できません(後記検討参照)。弁護士法72条に違反する場合には、罰則(二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金)【※4】の適用もありますので注意が必要です。


 【※4】弁護士法77条

(非弁護士との提携等の罪)
第七十七条 次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
 一 第二十七条(第三十条の二十一において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
 二 第二十八条(第三十条の二十一において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
 三 第七十二条の規定に違反した者
 四 第七十三条の規定に違反した者

■ 検討


 弁護士法72条違反となるのは、(1)弁護士又は弁護士法人でない者が、(2)法定の除外事由もないのに、(3)業として、(4)報酬を得る目的で、(5)訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱う(又はこれらの周旋をする)場合です。


 そこで、上記(1)~(5)の要件について検討します。


(1)マンション管理士は弁護士ではありません。

(2)また、マンション管理士については、弁理士法6条【※5】や司法書士法3条1項6号イ【※6】のような規定も存在しません。

 もちろん、区分所有法上の管理者は、規約又は集会の決議により、その職務に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができます(区分所有法26条4項)。しかし、その管理者の選任が弁護士法72条の脱法手段として用いられているとすれば、弁護士法72条違反となる可能性を否定できません。例えば、商法上の支配人として選任登記された者について弁護士法72条に違反するとされたケース(東京高裁昭和50年8月5日判決)【※7】もあります。

(3)マンション管理士の業務の一環として、今後もこのようなサービスを提供しようとお考えだとすれば、弁護士法72条の「業とする」に該当するといえるでしょう。

(4)ご質問のケースでは、マンション管理士として管理組合から報酬を得られるのでしょうから、弁護士法72条の「報酬を得る目的」の要件に該当すると思われます。なお、管理者選任の背景事情や目的からすれば、マンション管理士による訴訟追行とマンション管理士としての報酬との間には対価的関連性があると思われます。

(5)ご質問のケースにおける訴訟事件の追行は、弁護士法72条の「訴訟事件……法律事務を取り扱い」に該当するといえます。


 以上、(1)~(5)の検討を踏まえると、弁護士法72条に違反する可能性を否定できません。


 【※5】弁理士法6条

第六条 弁理士は、特許法第百七十八条第一項、実用新案法第四十七条第一項、意匠法第五十九条第一項又は商標法第六十三条第一項に規定する訴訟に関して訴訟代理人となることができる。

 【※6】司法書士法3条1項6号イ

(業務)
第三条 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
(中略)
 六 簡易裁判所における次に掲げる手続について代理すること。ただし、上訴の提起(自ら代理人として手続に関与している事件の判決、決定又は命令に係るものを除く。)、再審及び強制執行に関する事項(ホに掲げる手続を除く。)については、代理することができない。
 イ 民事訴訟法(平成八年法律第百九号)の規定による手続(ロに規定する手続及び訴えの提起前における証拠保全手続を除く。)であつて、訴訟の目的の価額が裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)第三十三条第一項第一号に定める額を超えないもの
(以下略)

 【※7】東京高裁昭和50年8月5日判決:弁護士法違反・生活保護法違反・強制執行妨害・業務上横領被告事件(出典:ウエストロー・ジャパン)

 弁護士法七二条の法意は、他人を代理してする場合を含めて、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事務を取扱うことを業とすることを禁止するものであることは法文上明らかであり、同条の違反の成否は、当該弁護士でない者が民法上の契約や商法による支配人選任その他の私法上の行為によって依頼者のため裁判上または裁判外の行為をする権限を有すると否とにかかわらないものである。

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