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普通建物賃貸借契約における特約の効力について(総論)

  • @lawyer.hiramatsu
  • 7月12日
  • 読了時間: 16分

 【質問】

 当社は、建物の賃貸人の立場にある会社です。
 当社が使用している建物賃貸借契約書ひな形に以下のような特約の記載があります。このような特約は法的には有効でしょうか。
(1)「賃借人が2か月分の賃料の支払を遅滞した場合、賃貸人は、催告なし(無催告)で本契約を解除できる。」旨の特約
(2)「賃借人が本契約の終了と同時に、貸室を明け渡さないときは、賃借人は、本契約終了日の翌日から明渡し完了に至るまで賃料の倍額相当額の損害金を支払う。」旨の特約
(3)「賃借人が貸室を明け渡した後に同建物内に残置された物件については、賃借人は当該物件の所有権を放棄したものとみなし、賃貸人が任意にこれを処分することができる。」旨の特約
(4)「貸室の一部が滅失その他の事由により使用できなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃借人は、賃貸人に対し、使用できなくなった部分の割合に応じて賃料の減額に関する協議を求めることができる。なお、民法611条1項の規定は適用しないものとする。」旨の特約
(5)「賃借人が死亡したとき、又は、後見、保佐もしくは補助開始の審判を受けたとき、賃貸人は、催告なしで本契約を解約できる。」旨の特約

■ はじめに


 今回のご質問(以下「本件」といいます。)の契約の当事者(借主)が誰なのか定かではありません(借主が事業者であるのか消費者であるのかによって解釈論が変わってきます)が、とりあえず、本稿では総論(契約一般論)について述べ、各論(本件の特約(1)から(5)の効力)については別稿で詳述することとします。


■ 総論(契約一般論)


1 契約と契約書の違い

 普通建物賃貸借契約については諾成契約であり、民法や借地借家法上は、「契約書」の作成・調印がなくとも、当事者の合意があれば成立します(なお、定期建物賃貸借契約については借地借家法38条1項や2項の規定に基づく書面や電磁的記録によらなければその効力が認められません)。

もっとも、不動産取引の実務上、当事者は、契約書の作成(調印)をもって契約を成立させようという意思を持っているのが通常ともいえますので、契約書の作成(調印)前の段階においては契約が成立したといえないことが多いでしょう。つまり、契約書に調印されることによって確定的な合意(契約)が成立したとみるのが通常でしょう【※1】。


 【※1】契約締結上の過失の理論

 契約成立前の段階でも一定の責任が発生することがあります。つまり、契約が成立していなくとも、契約締結準備段階に入った当事者は、相手方に損害を被らせないようにする信義則上の義務を負い、その義務に違反して相手方に損害を生じさせた場合には損害賠償責任を負うということもあります。

2 契約書の意義

 契約書の作成(調印)は、当事者の確定的合意の証明となります。

 契約書の条項は、当事者にとっての行為規範としての機能もあります。つまり、当事者としてどのような行為をすべきかを考えるときの規範となります。

 もちろん、契約書の条項は、裁判所にとっての裁判規範としての機能があり、当事者間のトラブル(紛争)を解決するために裁判所が判断を下す場合の規範ともなります。

 契約書を作成する際は、行為規範的機能や裁判規範的機能を意識しておかなければなりません。


3 契約書の限界

 契約書の機能を考えると、本来、契約書の条項は、当事者からみても裁判所からみても一義的に明確であるべきです。しかし、現実的には、解釈の幅がある条項が存在します。

 契約書の作成に際しては、まずはどちらか一方が起案(ファーストドラフト作成)するのでしょうが、その起案者は自らに有利な条項を定めようとする傾向(つまり、相手方当事者にとっては不利な条項を定めようとする傾向)にあります。

 おかしな条項については、相手方当事者から修正要請や交渉が入り、最終的には、どっちにとって有利なのか定かでない条項(多義的な条項)になることもあれば、協議が調わずに削除されることもあるでしょう。

 多義的な条項が存在し、または、明確な特約が存在しない場合には、将来、契約の解釈を巡ってトラブルになることがあります。

 なお、契約書には、将来発生しうる紛争・トラブルを想定し、その紛争回避・解決のための明確な基準を網羅的に盛り込んでおくべきという方もいらっしゃいますが、現実的には、契約締結の前に、将来発生しうる全てのトラブルを想定することは難しく、また、そのトラブルの解決基準を契約当事者間で明確に合意しておくことも難しい(当事者は、お互い自分にとって有利な条項を定めようとし、最終的には明確な合意に至らないことがある)でしょう。


4 任意規定と強行規定

 任意規定とは、法律の規定のうち、当事者が特定の事項について合意をしていない場合(特約を定めていない場合)に適用されるべきルールとして定められているものです。詳述すると、民法91条は、「法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。」と規定していますが、同条でいう「法令中の公の秩序に関しない規定」が任意規定であり、つまり、任意規定と異なる合意(特約)があればその合意(特約)に従い、その合意(特約)がなければ任意規定が適用されるということです。

 ちなみに、「法令中の公の秩序」に関する規定は強行規定であり、その強行規定に反する合意(特約)がなされたとしてもその合意は無効です(民法91条の反対解釈)。

 民法において任意規定とされているものでも、借地借家法の強行規定の適用や消費者契約法の強行規定の適用などにより、それに関する合意(特約)の効力が否定されることがあります。


■ 本稿のまとめ


 通常、普通建物賃貸借契約における特約の効力に関しては、

 ① そもそも、その特約はどのような意味なのか(その条項の解釈)

 ② そのような意味の特約は、民法の強行規定に反しないか

 ③ そのような意味の特約は、借地借家法の強行規定に反しないか

 ④ そのような意味の特約は、消費者契約法の強行規定に反しないか

 という観点から検討していきます。


 前述したように、多義的な条項が存在し、または、明確な特約が存在しない場合には、契約の解釈を巡ってトラブルになることがあります。

 前述したように、「法令中の公の秩序」に関する規定は強行規定であり、その強行規定に反する合意(特約)は無効です(民法91条の反対解釈)。

 民法上の任意規定に関する特約は、民法上は有効(当事者の合意が優先適用)となりますが、ただし、借地借家法が賃借人(転借人、同居者)保護の観点から強行規定を定めています(借地借家法30条、32条、36条、37条参照【※2】)ので、借地借家法の適用により無効となることがありますし、また、消費者契約法が消費者保護の観点から「消費者契約の条項の無効」に関する規定を定めています(消費者契約法8条~10条【※3】)ので、消費者契約法の適用により無効となることがあります。


 本件の特約(1)から(5)の効力を検討する際も、①その特約はどのような意味なのか(その条項の解釈)、②そのような意味の特約は民法の強行規定に反しないか、③そのような意味の特約は借地借家法の強行規定に反しないか、④そのような意味の特約は消費者契約法の強行規定に反しないか、という観点から検討していくことになります。

 その検討(各論)については、別稿において詳述することとします。


 【※2】借地借家法第3章(借家)の第1節(建物賃貸借契約の更新等)、第2節(建物賃貸借の効力)

第1節 建物賃貸借契約の更新等(建物賃貸借契約の更新等)

第26条 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
2 前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。
3 建物の転貸借がされている場合においては、建物の転借人がする建物の使用の継続を建物の賃借人がする建物の使用の継続とみなして、建物の賃借人と賃貸人との間について前項の規定を適用する。

(解約による建物賃貸借の終了)
第27条 建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から6月を経過することによって終了する。
2 前条第2項及び第3項の規定は、建物の賃貸借が解約の申入れによって終了した場合に準用する。

(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第28条 建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

(建物賃貸借の期間)
第29条 期間を1年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。
2 民法(明治29年法律第89号)第604条の規定は、建物の賃貸借については、適用しない。

(強行規定)
第30条 この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。

第2節 建物賃貸借の効力

(建物賃貸借の対抗力)
第31条 建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。

(借賃増減請求権)
第32条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
3 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年1割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。

(造作買取請求権)
第33条 建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。建物の賃貸人から買い受けた造作についても、同様とする。
2 前項の規定は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了する場合における建物の転借人と賃貸人との間について準用する。

(建物賃貸借終了の場合における転借人の保護)
第34条 建物の転貸借がされている場合において、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときは、建物の賃貸人は、建物の転借人にその旨の通知をしなければ、その終了を建物の転借人に対抗することができない。
2 建物の賃貸人が前項の通知をしたときは、建物の転貸借は、その通知がされた日から6月を経過することによって終了する。

(借地上の建物の賃借人の保護)
第35条 借地権の目的である土地の上の建物につき賃貸借がされている場合において、借地権の存続期間の満了によって建物の賃借人が土地を明け渡すべきときは、建物の賃借人が借地権の存続期間が満了することをその1年前までに知らなかった場合に限り、裁判所は、建物の賃借人の請求により、建物の賃借人がこれを知った日から1年を超えない範囲内において、土地の明渡しにつき相当の期限を許与することができる。
2 前項の規定により裁判所が期限の許与をしたときは、建物の賃貸借は、その期限が到来することによって終了する。

(居住用建物の賃貸借の承継)
第36条 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後1月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2 前項本文の場合においては、建物の賃貸借関係に基づき生じた債権又は債務は、同項の規定により建物の賃借人の権利義務を承継した者に帰属する。

(強行規定)
第37条 第31条、第34条及び第35条の規定に反する特約で建物の賃借人又は転借人に不利なものは、無効とする。

 【※3】消費者契約法第2章(消費者契約)の第2節(消費者契約の条項の無効)

第2節 消費者契約の条項の無効

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
第8条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
 一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
 二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
 三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
 四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
2 前項第一号又は第二号に掲げる条項のうち、消費者契約が有償契約である場合において、引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合には、仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき。)。以下この項において同じ。)に、これにより消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任を免除し、又は当該事業者にその責任の有無若しくは限度を決定する権限を付与するものについては、次に掲げる場合に該当するときは、前項の規定は、適用しない。
 一 当該消費者契約において、引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないときに、当該事業者が履行の追完をする責任又は不適合の程度に応じた代金若しくは報酬の減額をする責任を負うこととされている場合
 二 当該消費者と当該事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は当該事業者と他の事業者との間の当該消費者のためにする契約で、当該消費者契約の締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて、引き渡された目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないときに、当該他の事業者が、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことにより当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部若しくは一部を負い、又は履行の追完をする責任を負うこととされている場合
3 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)又は消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する消費者契約の条項であって、当該条項において事業者、その代表者又はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは、無効とする。

(消費者の解除権を放棄させる条項等の無効)
第8条の2 事業者の債務不履行により生じた消費者の解除権を放棄させ、又は当該事業者にその解除権の有無を決定する権限を付与する消費者契約の条項は、無効とする。

(事業者に対し後見開始の審判等による解除権を付与する条項の無効)
第8条の3 事業者に対し、消費者が後見開始、保佐開始又は補助開始の審判を受けたことのみを理由とする解除権を付与する消費者契約(消費者が事業者に対し物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものを提供することとされているものを除く。)の条項は、無効とする。

(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)
第9条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
 一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
 二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年14.6パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分
2 事業者は、消費者に対し、消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項に基づき損害賠償又は違約金の支払を請求する場合において、当該消費者から説明を求められたときは、損害賠償の額の予定又は違約金の算定の根拠(第12条の4において「算定根拠」という。)の概要を説明するよう努めなければならない。

(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第10条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

(弁護士/平松英樹)


 
 
 

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